著者
原田 瞬 立山 清美 日垣 一男 田中 啓規 宮嶋 愛弓
出版者
一般社団法人 日本摂食嚥下リハビリテーション学会
雑誌
日本摂食嚥下リハビリテーション学会雑誌 (ISSN:13438441)
巻号頁・発行日
vol.21, no.3, pp.165-172, 2017-12-31 (Released:2020-04-20)
参考文献数
16

自閉スペクトラム症(ASD)は,社会的コミュニケーションの障害を主症状とし,近年増加傾向にある.ASD 児は,定型発達児よりも高い割合で偏食等の食事に関する問題をもつことが知られている.著者は,臨床で口を開けたまま咀嚼しているケースを多く目にした経験から,ASD 児には口腔機能の未熟さがあり,食べにくいという経験を積み重ねやすいのではないかと考えた.ASD 児の口腔機能については,食事場面の観察評価から,捕食,咀嚼,前歯咬断や嚥下の問題が指摘されている.しかし,定量的な指標を用いた評価や定型発達児と比較検討した報告はなされておらず,ASD 児の口腔機能の実態は十分には明らかになっていない.そこで,本研究の目的は,定型発達児との比較によりASD 児の口腔機能の特徴を明らかにすることとした.ASD 群27 名,定型発達群25 名を対象に,捕食機能,咀嚼機能の定量的な評価を試みた.捕食機能については,定型のスプーンからヨーグルトを捕食した際にスプーンに残ったヨーグルトの量から評価した.咀嚼機能については,定型定量のせんべいを摂取した際の咀嚼回数と,咀嚼中にどの程度口唇閉鎖ができているかを評価した.両群の口腔機能を統計的に比較した結果,ASD群においては,口唇を使ってスプーンから食物を取り込む捕食機能が未熟であった.また,定型定量の食物を食べた際の咀嚼回数が定型発達群よりも有意に多く,咀嚼中の口唇閉鎖が明らかに未熟である児が多かった.ASD 児の食事に関する問題については,ASD 児の感覚の偏りや,行動の特性によるものと考えられてきたが,口腔機能の未熟さという視点を加え,総合的な支援が必要であることが示唆された.