著者
宮本 善仁
出版者
会計検査院
雑誌
会計検査研究 (ISSN:0915521X)
巻号頁・発行日
vol.56, pp.67-96, 2017-09-15 (Released:2022-03-25)
参考文献数
40

欧米諸国では,経済の低迷や人口の高齢化等による社会保障費支出の増加等により,構造的に支出が収入を上回っている傾向にあり,厳しい財政運営を強いられている。このような財政状況の下,各国においては財政再建を進めたり,財政の健全性を維持したりするためには,一定の拘束力のある中期財政計画や支出の総額上限等を定めた財政ルールに則った財政運営が必要であるとされている。そして,中期財政計画を策定するために中長期の財政の見通しを試算したり,政府が財政ルールを遵守しているかなど,政府の財政健全化の取組や予算作成の全体を分析評価したりする独立財政機関が注目されている。他方で,財政監督機関として伝統的な会計検査院が存在している。 本稿では,アメリカ,イギリス,ドイツ,フランス及びフィンランドを取り上げ,各国の独立財政機関の制度,組織及び活動状況について概観し,伝統的な財政監督機関として存在している各国の会計検査院は,どのように財政の健全化のための取組を行っているのかについて考察するとともに,独立財政機関と会計検査院の役割の相違,役割分担等について検討を行った。 独立財政機関と会計検査院の役割分担について考えてみると,一般的に,独立財政機関には,財政計画や予算の策定に使用するマクロ経済の推計を行ったり,財政健全化目標の達成状況を評価したり,個々の政策の財政への影響を具体的に分析評価したり,財政の持続可能性など将来の事象についての分析評価が期待される。一方,伝統的な会計検査院の役割は,主に予算執行の結果である決算の正確性,妥当性など過去の事象についての分析評価や検証を行うことであり,予算の執行について事後的に分析評価や検証を行っていく過程で決算数値を基に,様々な比較検証を行うことにより財政の持続可能性の検証など将来の事象についての分析評価を行っている。