- 著者
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鈴木 栄之心
- 出版者
- 会計検査院
- 雑誌
- 会計検査研究 (ISSN:0915521X)
- 巻号頁・発行日
- vol.65, pp.33-50, 2022-03-22 (Released:2022-03-22)
- 参考文献数
- 18
本稿の目的は,公的介護保険制度が施行された2000 年から2014 年までの15 年間を対象として,介護保険料の設定における市町村行動と調整交付金の財政調整効果を検証することにある。 調整交付金は標準給付費の5%を総額として交付されるが,次期保険料の設定では,その他の各要素と同様に市町村の裁量によって決定されるため,調整交付金の目的どおりに市町村間の保険料格差が是正されるとは限らない。また,調整交付金の総額を標準給付費の5%とした特段の根拠は無く,これによって保険料格差が是正されるとは限らない。 そこで本稿では,まず,2 県47 市町村に対するヒアリング調査を実施して,保険料設定に係る市町村の裁量とそれに対する国や県のコントロールの成否を把握した。次に,調整交付金自体の財政調整効果を検証し,最後に,調整交付金による財政調整に市町村行動を加味した保険料格差を検証した。 ヒアリング調査の結果,市町村の裁量のうち保険料水準への影響が最も大きいのは準備基金取崩し額の調整であった。国や県は最低ラインを示しながら,可能な限り全額取崩すよう指導・助言を行っていたが,市町村のコントロールに必ずしも成功しておらず,当初の取崩し額を維持する市町村も散見された。 検証に当たっては,保険料概念を6 種類に整理した。そのうえで,厚生労働省およびすべての都道府県に対して情報公開請求を行い,過去15 年間のすべての市町村別保険財政データを収集して,「介護保険財政データベース」を独自に構築した。 検証の結果,調整交付金は市町村間の介護給付水準に係る格差是正に寄与しており,財政調整効果が制度施行当初から徐々に強化されていた。また,市町村の準備基金取崩しは,市町村間の保険料格差を拡大させていたほか,国の調整交付金による格差是正を阻害していた。 このような事態が起こる原因は,現状の制度設計が,保険料収入の剰余金を次期保険料の抑制に活用できるようになっていることにある。仮にすべての剰余金を当期計画期間において被保険者に還元する制度設計となっていれば,少なくとも市町村の準備基金取崩し額の調整について,国や県のコントロールに係る問題は生じない。 そもそも準備基金への積立金は保険料収入の剰余金であり,結果的に被保険者から過大に徴収したものである。したがって,国としては,市町村が被保険者に対して当期中に還元するよう,制度変更を行うことも検討するべきであろう。