著者
宮本 実範 福本 祐士 橋本 尚典 立石 広志
出版者
日本理学療法士協会(現 一般社団法人日本理学療法学会連合)
雑誌
理学療法学Supplement Vol.46 Suppl. No.1 (第53回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.H2-18_2, 2019 (Released:2019-08-20)

【はじめに,目的】大腿骨転子部骨折(以下,TF)術後の歩行能力回復に影響する因子は,年齢,受傷前移動能力,認知機能,骨折型,筋力,疼痛などが報告されている。その中で,TF術後では,大腿骨頸部骨折(以下,FNF)と比較し,骨膜刺激の影響などで疼痛が強く遷延しやすい骨折とされている。先行研究では,術後疼痛に関して,FNFを含めた大腿骨近位部骨折での比較や術後早期の報告はされているものの,TF術後のみで退院時の歩行時痛に関して検討した報告はほとんどない。そこで本研究では,TF術後において退院時の歩行時痛に影響を及ぼす因子を検討することを目的とした。【方法】 対象は,平成27年10月から平成30年4月の間に,初回のTFを受傷し,外科的治療後に当院回復期病棟にてリハビリテーションを実施した下記の除外基準に該当しない対象者(n=28)とした。除外基準は,受傷前の移動が自立していない者,認知症や重篤な合併症,複数骨折のある者とした。調査項目は,性別,年齢,骨折型,既往歴(呼吸器疾患,心血管疾患,脳血管疾患,糖尿病,高血圧)の有無,退院前歩行時痛のNumerical Rating Scale(以下,退院時NRS),退院時FIM,退院時歩行自立度,退院時歩行形態,在院日数,入院時Alb値,術後Hb値,術後CRP値,術後ラグスクリュースライディング量(以下,術後LSS量)とした。骨折型は,医師により術前のレントゲン・3DCTを基に安定型・不安定型に分類し,術式を決定した。術後LSS量は,平中による簡易中心法を用いて,術後1週と術後2~3ヶ月のレントゲンを比較した。統計処理には,R2.8.1(CRAN,freeware)を使用し,退院時の歩行時痛に及ぼす因子を検討する為に,退院時NRSを従属変数,その他の評価項目を独立変数とした重回帰分析(ステップワイズ法)を施行した。有意水準は5%未満とした。【結果】 重回帰分析の結果(p<0.001,R=0.78,R2=0.61),退院時の歩行時痛に影響を及ぼす因子は,骨折型(β=0.46,p<0.001),術後LSS量(β=0.45,p<0.002),糖尿病の有無(β=0.39,p<0.005)であった。【結論(考察も含む)】 本研究の結果より,退院時の歩行時痛には骨折型や術後LSS量,糖尿病の有無が影響することが示唆された。TF術後の不安定型や術後LSS量の拡大は,術後の髄内整復位や骨膜刺激,内側骨皮質の骨癒合不全,後壁損傷による股関節周囲筋群の安定性低下,ラグスクリューによる筋膜刺激,頚部短縮からの外転筋効率低下による歩行時側方動揺などが歩行時の疼痛に影響を及ぼすことが考えられる。また,糖尿病の罹患では,術後の回復遅延に影響を及ぼすことや高血糖状態と骨粗鬆症の関連,糖尿病性神経障害から疼痛が遷延しやすいことが考えられる。退院時の歩行時痛が遷延する場合,レントゲンなどから骨癒合の状態,骨癒合不全に影響を及ぼす疾患を配慮する必要性が示唆された。【倫理的配慮,説明と同意】 本研究は,ヘルシンキ宣言に沿った研究であり,田岡病院倫理委員会の承認を得て,対象者に対して研究に対する説明を行い,同意を得て実施した。