著者
野中 雄太 増田 一太
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.46 Suppl. No.1 (第53回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.H2-114_2, 2019 (Released:2019-08-20)

【症例紹介】 大後頭神経三叉神経症候群(以下,GOTS)とは,大後頭神経(以下,GON)と同側の三叉神経支配領域に痛みを生じる症候群である.臨床症状は,GON由来の後頭部痛や三叉神経由来の前頭部痛,頬の感覚低下が生じるとされている.一般的にGOTSの原因には不良姿勢の関与が報告されているが,姿勢評価を用いて発生要因を検討した報告はない. 今回,慢性的な右後頚部・後頭部痛,右前頭部痛や右頬の感覚低下を呈した症例を経験した.姿勢評価から本症例のGOTS発症因子について考察したので報告する.症例は60代男性.誘因はなく,右後頚部・後頭部痛,右前頭部痛を主訴に受診し,運動療法開始となった.【評価とリーズニング】 初期評価は,胸鎖乳突筋,下頭斜筋,頭半棘筋,僧帽筋上部線維,GON,小胸筋に圧痛を認めた.整形外科的テストはSpurling test,Jackson testは陰性,前胸部Tightness testは陽性であった.関節可動域は頸部屈曲50°,伸展30°,回旋は左50°/右50°であった.姿勢評価では,壁肩峰間距離は左5.5㎝/右8.3㎝で,胸椎回旋時の肩峰床面距離は左16.0㎝/右19.8㎝であった.また,立位にて壁から外後頭隆起間を測定したOcciput to wall distance(以下,OWD)は9.1㎝であった.OWDは胸椎後彎程度を軽度,中等度,強度に分類する簡易的な測定方法として用いられ,本症例は強度後彎であった.さらに,壁からC7棘突起間を測定したWall-C7 distance(以下WCD)は5.5㎝,Chin Brow Vertical Angleは35°,C7-Tragus Angle(以下,C7-T角)は40°であったことから,頭部前方位姿勢であると考えられた.X線所見にてC2-7角は18.9°と減少傾向であり,Chibaらの方法を用いた側面像Alignment分類においてはストレートに分類された. これらの評価より,本症例は頭部前方位姿勢による頸椎深層筋群への過負荷により,同筋らの攣縮が,GONへの圧迫・牽引刺激を引き起こしたものと考えられた.GONは,下頭斜筋背側を迂回,頭半棘筋や僧帽筋腱を貫通後,後頭部表層へと走行するため,筋による圧迫刺激が生じやすい.さらに,GONは三叉神経脊髄路核にて三叉神経とシナプス結合しており,GONへの刺激が三叉神経に伝播したことでGOTS症状を呈したものと考えられた.【介入と結果】 GON圧迫要因として考えられた頸椎深層筋群や頭部前方位姿勢を助長する因子である胸鎖乳突筋の攣縮除去を目的としたリラクセーションや同筋へのストレッチングを実施した.また,頭部前方位姿勢,胸椎後彎位の是正を目的とした前胸部柔軟性改善も同時に実施した.その結果,治療4週経過時に,主訴であった後頭頚部,前頭部,頬の感覚低下の消失を認めた.【結論】 本症例は頭部前方位姿勢による過負荷が頸椎深層筋群の攣縮を惹起し,GON圧迫刺激に加え,頭部前方位によるGONへの牽引刺激が合併したものと考えられた.さらに,胸鎖乳突筋の攣縮や前胸部の柔軟性低下も頭部前方位姿勢を助長する可能性が考えられた.【倫理的配慮,説明と同意】本症例に対して,本発表の意義を十分に説明し,口頭にて同意を得た.
著者
沼澤 俊 寺田 昌史 横山 茂樹
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.46 Suppl. No.1 (第53回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.F-103, 2019 (Released:2019-08-20)

【はじめに,目的】 足関節内反捻挫の受傷において,初発捻挫と再発捻挫ではその危険因子は異なる可能性がある。この点を明らかにすることを目的として,高校生バスケットボール選手を対象としたメディカルチェック活動を通して検討したので報告する。【方法】 対象は大阪府下の高校バスケットボール部,男女193名とした。調査項目は下肢関節可動域や筋力,下肢アライメントやバランス評価など8項目とした。調査開始時に測定を行い,1年間における足関節捻挫の傷害発生を調査した。統計学的処理として,受傷有無別の群間比較についてT検定,および足関節内反捻挫の既往有無別に従属変数を内反捻挫受傷の有無,独立変数を各測定項目としてロジスティック回帰分析を用いた。【倫理的配慮】 京都橘大学倫理委員会の規定に基づき,選手および指導者に対し事前に十分に説明し同意を得た上で本研究を実施した。また本研究に関して開示すべきCOIはない。【結果】 足関節内反捻挫受傷は,初発34名中7名(21%),再発159名中31名(20%)と既往歴による差はみられなかった。再発では,足関節内反捻挫受傷について荷重下の下腿前傾角度,足関節底屈角度,荷重位Q-angleがいずれも受傷群で減少する傾向を示したが,初発ではみられなかった。【考察】 足関節内反捻挫の再発群は,足関節可動域の制限がないことで再発に至る可能性が低くなることが示唆され,既往歴により危険因子が異なると考えられた。
著者
福地 康玄 外間 伸吾 福嶺 紀明 上原 大志
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.46 Suppl. No.1 (第53回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.H2-113_1, 2019 (Released:2019-08-20)

【はじめに】 大胸筋完全断裂は比較的稀な疾患とされているが、近年報告例が増えており、受傷後早期の外科的治療を施せば良好な成績が得られるとされている。しかし、術後に対する理学療法の報告は少なく、未だ確立されていないのが現状である。今回、大胸筋断裂後に縫合術を施行した症例の理学療法を経験したため、考察と課題を踏まえ報告する。【方法】 症例は46歳、男性、左利き。バスケットボール審判、高校バスケットボール部コーチである。平成29年9月12日、ベンチプレス(85kg)をしている際、水平外転を強制され左肩を受傷。当院受診し、MRIにて大胸筋皮下断裂と診断。近医紹介となり、平成29年10月16日に大胸筋縫合術施行。手術はフットプリント(LHB groove外側)に骨溝を作製し、3本アンカー挿入。Mason-Allen法にて6針縫合。その後退院となり、平成29年10月27日より外来リハビリ開始。術後プランは、2週まではスリング、バストバンドにて固定。3から5週間はスリングのみ、肩甲上腕関節の他動運動開始(外旋は下垂位で中間位まで、挙上は内旋位で90°まで)、5週から制限なく可動域運動可、8週から抵抗運動開始、3ヶ月から軽負荷運動許可、5ヶ月から制限なしであった。評価はリハビリ終了の目安である5ヶ月目とした。筋力改善の評価として乳頭部胸囲の周計(5週と5ヶ月を比較)と徒手筋力計モービィMT-100(酒井医療社製)を使用し測定。単位はkgfと設定した。計測肢位は屈曲90°伸展0°内転30°外転30°内旋0°外旋0°水平外転(肩甲骨面上肘屈曲位)と設定し、2度計測しその平均値を健側と患側にて比較した。【結果】 胸囲は5週の99cmから5ヶ月で102cmと3cmの拡大を認めた。肩関節可動域は 屈曲165°伸展30°外転170°内旋Th10第1肢位外旋60°第2肢位外旋80°とほとんど正常可動域まで改善が見られた。筋力(左/右)は屈曲にて21.75/19.7、伸展にて23.95/22.2、内転にて25.5/27.8、外転にて17.2/17.35、内旋にて11.25/15、外旋にて18.7/23.05、水平外転にて18.3/20.45であり健患比においても80%以上の改善が見られた。【考察】 奥脇1)は、完全断裂の場合スポーツ選手では積極的に手術を進めており、保存的に治療した場合、多くは筋力低下や疼痛が残存すると報告している。また内山ら2)は、手術時期について、早期(6週間以内)手術例は痛み、筋力回復、スポーツへの復帰率、満足度とも陳旧例(6週間以上)や保存例に比べ有効であると報告している。本症例においても、早期に手術に及んだ結果、可動域や筋力において良好な成績を示し過去を裏付ける結果となった。今回、理学療法を行うにあたって難渋した点が、固定期間中の安静時痛や動作時痛といった疼痛である。過去の症例報告より固定期間は3週又は、4週の固定期間という報告が多く、また固定肢位は屈曲、内転、内旋位にてスリング、バストバンド固定が主流とされている。今回は5週間の固定期間であったが、上記でも述べた通り、予後は良好であり固定期間においては問題ないと思われる。しかし、固定期間中に大胸筋の過度な緊張による安静時痛や腋窩部にて神経痛が出現し、可動域練習等を行うにあたって難渋を示す場面が多々見られた。本多ら3)は、外転装具では肩関節が水平内転位となるため大胸筋の緊張が緩むとして外転装具を使用している。スリング、バストバンドでは固定肢位において常に腋窩や術部圧迫状態であることが疼痛を助長していると考え、外転装具を固定手段の一つとして考慮することも必要ではないかと考える。 文献1)奥脇透: 陳旧性大胸筋皮下断裂の一例.肩関節.1996:20:379-382. 2)内山善康,繁田明義,他: 大胸筋腱皮下断裂に対する術後成績—Endobuttonを使用した骨内埋め込み術—.肩関節.2009:33:773–776. 3)本多孝行,鈴木晶,他: Knotless Anchorを用いて修復した陳旧性大胸筋断裂の1例.整スポ会誌.2018:38:158-161.【倫理的配慮,説明と同意】本研究は、当院倫理委員会にて承認を 得た。患者には ヘルシンキ宣言に基づいて文書と口頭にて意義、方法、不利益等について説明し同意を得て実施した。
著者
余野 聡子 西上 智彦 壬生 彰 田中 克宜 萬福 允博 篠原 良和 田辺 曉人 三木 健司 行岡 正雄
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.46 Suppl. No.1 (第53回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.H2-162_2, 2019 (Released:2019-08-20)

【はじめに、目的】中枢性感作(Central Sensitization:CS)とは中枢神経系の過度な興奮によって,疼痛,疲労,集中困難及び睡眠障害などの症状を引き起こす神経生理学的徴候である。CSを評価する指標として,末梢器官に対して侵害刺激を連続して加えたときに見られる痛みの時間的加重(Temporal summation: TS)が用いられている。また,CSが関与する包括的な疾患概念として中枢性感作症候群(Central Sensitivity Syndrome: CSS)が提唱されており,CSおよびCSSを評価する質問票としてCentral Sensitization Inventory (CSI)が用いられている。CSが病態(疼痛)に関与していると考えられている疾患の代表格である線維筋痛症(Fibromyalgia:FM)において,健常人と比較してTS,CSIがともに高値であることが報告されている.しかしながら,これまでにTSとCSIのどちらがCSを評価する上で,より精度が高い評価法であるか明らかでない.本研究の目的は,これらの評価指標の精度を比較し,その臨床的有用性について検討することである。 【方法】米国リウマチ学会(2010)の診断基準を満たす線維筋痛症患者26名(FM群, 男性3名,女性23名,平均年齢49.3±10.5歳)および健常人28名(健常群,男性7名,女性21名,平均年齢51.8±13.5歳)を対象とした。疼痛はBrief Pain Inventory (BPI)にて評価し,CSに関する指標としてTSおよびCSIを評価した。TS評価では,利き手側の橈側手根伸筋に対して圧痛閾値(pressure pain threshold: PPT)での圧刺激を10回反復し,1回目と10回目の疼痛強度(Numeric Rating Scale: NRS)の差をTSとした。これらの評価項目について,Mann-WhitneyのU検定を用いて群間比較した。また,PPT, TSおよびCSIについてReceiver operating characteristic (ROC)分析を行い,各指標のArea Under the Curve (AUC)の比較検定を行なった。また,FM群と健常群を判別するカットオフ値を算出した。統計学的有意水準は5%とした。【結果】BPI (pain intensity/pain interference), TSおよびCSIは健常群に比べてFM群で有意に高値であった(p < 0.05)。PPTは健常群に比べてFM群で有意に低値であった(p < 0.05)。ROC曲線のAUCは,TSに比べてCSIで有意に高値であった(TS: 0.66, CSI: 0.99, p < 0.0001)であった。各指標のカットオフ値はPPTが12.1N(感度64%, 特異度89%, 陽性反応的中度84%, 陰性反応的中度73%), TSが3(感度60%, 特異度67%,陽性反応的中度63%,陰性反応的中度84%), CSIが37点(感度96%, 特異度100%,陽性反応的中度100%,陰性反応的中度97%)であった。【結論(考察も含む)】TSおよびCSIの精度を比較した結果,TSよりもCSIの方が精度は高かった。FM患者はCSによって生じる多彩な臨床症状を呈することから,機械刺激への過敏性を評価するTSよりも,包括的かつ症候学的な評価であるCSIの精度がより高くなった可能性がある。【倫理的配慮,説明と同意】本研究は甲南女子大学倫理委員会の承認を得て実施した。事前に研究目的と方法を十分に説明し,同意が得られた者のみを対象とした。
著者
西村 真吾 山内 克哉 蓮井 誠 山下 裕太郎 鈴木 隆範 川嶋 雄哉 久木 貴寛 伊本 健人 池島 直貴
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.46 Suppl. No.1 (第53回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.I-59_2, 2019 (Released:2019-08-20)

【はじめに、目的】足部アーチにおける重要な機能として,接地時の衝撃緩和に働くトラス構造がある.中でも内側縦アーチの低下した障害を偏平足といい,足底筋膜炎やシンスプリントなどの原因になりうるとの報告もある.内側縦アーチの高さと筋力の関係は,アーチが高い程,足趾握力が強いとの報告があるが,影響を及ぼさないとの報告もあり,見解は一致していない.また,足関節周囲筋筋力との関係性を調査した研究もみられない.そこで本研究の目的は,アーチ高率と足部外返し,内返し筋力との関係性について調査し,偏平足に対する新たな治療の一助とすることとした.【方法】対象は,健常成人14名14足(男性7例,女性7例),除外基準は足部骨折や脊髄疾患のある者とした.年齢26.2±5.5歳,体重57.9±9.3kg.アーチ高率は,床面から舟状骨までの高さを実足長で除して100 を乗じた値を用い,計測肢位は立位荷重位で足隔は肩幅とした.筋力はBIODEX SYSTEM4で測定し,角速度60°/sと180°/sにおける足部外返し,内返し最大トルクを算出し体重で除したトルク体重比を算出.また,外返し最大トルクに対する内返し最大トルクの比(以下,IE比)は内返し最大トルクを外返し最大トルクで除して算出し,それぞれの値とアーチ高率との関係を検討.統計処理にはSPSS Version22を使用し,解析はPearsonの相関係数を用いた.【結果】平均値は,アーチ高率:17.2±2.9%,トルク体重比は外返し(60°/s):51.6±13.7Nm/kg,内返し(60°/s):37.5±8.2Nm/kg,IE比(60°/s):0.77±0.23,外返し(180°/s):30.8±5.8Nm/kg,内返し(180°/s):22.6±3.8Nm/kg,IE比(180°/s):0.76±0.18であった.アーチ高率と内返し(60°/s,180°/s), IE比(60°/s)には相関が認められなかった.アーチ高率と外返し (60°/s)(r=-0.66),外返し(180°/s) (r=-0.71)には有意な負の相関,アーチ高率とIE比(180°/s)(r=0.68)には有意な正の相関が認められた.【考察】アーチ高率と外返しトルク体重比(60°/s,180°/s)に負の相関がみられたことから,外返しの作用を有する長・短腓骨筋が内側縦アーチを引き下げている可能性が示唆された.加えて,アーチ高率と内返しトルク体重比(60°/s,180°/s)には相関が認められず, IE比(180°/s)に正の相関が認められたことから,内返しの作用を有する前・後脛骨筋筋力のみが内側縦アーチに影響を与えるのではなく,長・短腓骨筋に対する前・後脛骨筋筋力の比が内側縦アーチに影響を与える可能性が示唆された.後天性扁平足の主な原因は後脛骨筋機能不全とも言われているが外返し筋力とのバランスが重要かと思われる.【結論】60°/s,180°/sにおける外返しトルク体重比が大きいほど,また,180°/sにおけるIE比が少ないほど内側縦アーチが低くなる可能性が示唆された.低アーチを改善させるためには外返し筋力を抑制するような方法やIE比を大きくするような方法が有効かは縦断的な調査が必要かと考える.【倫理的配慮,説明と同意】本研究は当院倫理委員会の承認を得て行い,対象者には書面にて研究協力の同意を得た.
著者
宮本 実範 福本 祐士 橋本 尚典 立石 広志
出版者
日本理学療法士協会(現 一般社団法人日本理学療法学会連合)
雑誌
理学療法学Supplement Vol.46 Suppl. No.1 (第53回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.H2-18_2, 2019 (Released:2019-08-20)

【はじめに,目的】大腿骨転子部骨折(以下,TF)術後の歩行能力回復に影響する因子は,年齢,受傷前移動能力,認知機能,骨折型,筋力,疼痛などが報告されている。その中で,TF術後では,大腿骨頸部骨折(以下,FNF)と比較し,骨膜刺激の影響などで疼痛が強く遷延しやすい骨折とされている。先行研究では,術後疼痛に関して,FNFを含めた大腿骨近位部骨折での比較や術後早期の報告はされているものの,TF術後のみで退院時の歩行時痛に関して検討した報告はほとんどない。そこで本研究では,TF術後において退院時の歩行時痛に影響を及ぼす因子を検討することを目的とした。【方法】 対象は,平成27年10月から平成30年4月の間に,初回のTFを受傷し,外科的治療後に当院回復期病棟にてリハビリテーションを実施した下記の除外基準に該当しない対象者(n=28)とした。除外基準は,受傷前の移動が自立していない者,認知症や重篤な合併症,複数骨折のある者とした。調査項目は,性別,年齢,骨折型,既往歴(呼吸器疾患,心血管疾患,脳血管疾患,糖尿病,高血圧)の有無,退院前歩行時痛のNumerical Rating Scale(以下,退院時NRS),退院時FIM,退院時歩行自立度,退院時歩行形態,在院日数,入院時Alb値,術後Hb値,術後CRP値,術後ラグスクリュースライディング量(以下,術後LSS量)とした。骨折型は,医師により術前のレントゲン・3DCTを基に安定型・不安定型に分類し,術式を決定した。術後LSS量は,平中による簡易中心法を用いて,術後1週と術後2~3ヶ月のレントゲンを比較した。統計処理には,R2.8.1(CRAN,freeware)を使用し,退院時の歩行時痛に及ぼす因子を検討する為に,退院時NRSを従属変数,その他の評価項目を独立変数とした重回帰分析(ステップワイズ法)を施行した。有意水準は5%未満とした。【結果】 重回帰分析の結果(p<0.001,R=0.78,R2=0.61),退院時の歩行時痛に影響を及ぼす因子は,骨折型(β=0.46,p<0.001),術後LSS量(β=0.45,p<0.002),糖尿病の有無(β=0.39,p<0.005)であった。【結論(考察も含む)】 本研究の結果より,退院時の歩行時痛には骨折型や術後LSS量,糖尿病の有無が影響することが示唆された。TF術後の不安定型や術後LSS量の拡大は,術後の髄内整復位や骨膜刺激,内側骨皮質の骨癒合不全,後壁損傷による股関節周囲筋群の安定性低下,ラグスクリューによる筋膜刺激,頚部短縮からの外転筋効率低下による歩行時側方動揺などが歩行時の疼痛に影響を及ぼすことが考えられる。また,糖尿病の罹患では,術後の回復遅延に影響を及ぼすことや高血糖状態と骨粗鬆症の関連,糖尿病性神経障害から疼痛が遷延しやすいことが考えられる。退院時の歩行時痛が遷延する場合,レントゲンなどから骨癒合の状態,骨癒合不全に影響を及ぼす疾患を配慮する必要性が示唆された。【倫理的配慮,説明と同意】 本研究は,ヘルシンキ宣言に沿った研究であり,田岡病院倫理委員会の承認を得て,対象者に対して研究に対する説明を行い,同意を得て実施した。
著者
望月 沙紀 渡邊 昌宏
出版者
日本理学療法士協会(現 一般社団法人日本理学療法学会連合)
雑誌
理学療法学Supplement Vol.46 Suppl. No.1 (第53回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.H2-231_1, 2019 (Released:2019-08-20)

【はじめに、目的】臨床において、下肢の神経徴候のない急性・慢性の腰痛症患者に対して大腿筋膜張筋とハムストリングスにストレッチを実施することで、疼痛の軽減だけではなく、姿勢や歩容の改善が即時的に得られると言われている。また、ストレッチにより筋を含めた組織柔軟性の維持・向上、筋運動疲労回復の促進、疼痛緩和、精神的リラクセーションが期待されると言われている。しかし、腰痛症患者の筋の柔軟性が腰痛に関わるかどうか明確になっていない。そこで、本研究の目的は筋の柔軟性と腰痛の関係を明らかにすることとした。【方法】対象者は、腰痛あり13名と腰痛なし11名の合計24名(20±2歳)の成人女性とした。医師の診断や主観的判断で神経症状、内科的疾患を示す場合は除外した。アンケートにて腰痛あり群となし群に分けた。その後、柔軟性テストにて伏臥位上体そらし(顎床間距離)、トーマステスト(床膝間距離)、体幹捻転(膝床間距離)、SLR(股関節屈曲角度)、エリーテスト(臀踵間距離)、立位体前屈(指床間距離)の順に測定を行った。次に柔軟性テストの順で対応する筋にスタティック・ストレッチを実施し、その直後に再度測定を行った。ストレッチは、各筋に対して30秒間保持、休憩10秒を挟み片側に対し計2回行い、反対も同様に実施した。解析には、実施後測定値から実施前測定値の差を計算し、柔軟性による変化を算出した。統計学的検討は、腰痛のあり群・なし群と各柔軟性テストの差に対応のないT検定を用い、有意水準は5%とした。【結果】床膝間距離は腰痛のあり群がなし群に比べ、右はストレッチ介入後の測定差に有意差が認められ(2.56±1.72cm、P=0.066)、左には有意な傾向が認められた(2.70±1.98cm、P=0.022)。その他の筋の柔軟性に関しては腰痛のあり群となし群には有意差は認められなかった。【結論(考察も含む)】大腰筋は筋力低下により伸張されると骨盤後傾、腰椎後弯が生じ、短縮が生じると骨盤前傾、腰椎前弯姿勢が生じると報告されており、腰椎の過前弯・過後弯によって腰痛が生じることが明らかとされている。今回、腰痛がある場合には腸腰筋は伸張されやすかったことから、腸腰筋の短縮が認められていたと推察された。また、筋連結の観点から腰痛は腸腰筋と直接関連すると報告されている。これらのことから神経症状がない腰痛者は腸腰筋の柔軟性が低下しており、ストレッチ介入によって伸張されやすいと考えられた。【倫理的配慮,説明と同意】対象者には、本研究の目的・意義および本研究で得られた情報は個人が特定できないように処理し、データと結果は研究目的以外に用いることが無いことを書面にて説明し、同意を得た。また、本本研究への協力は個人の自由とし、実験の途中でも不利益を受けることなくいつでも撤回できることを説明し実施した。
著者
徳永 由太 高林 知也 稲井 卓真 中村 絵美 神田 賢 久保 雅義
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.46 Suppl. No.1 (第53回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.I-106_2, 2019 (Released:2019-08-20)

【はじめに】膝関節周囲の悪性腫瘍による大腿四頭筋の広範囲切除によって膝関節伸展筋力は大幅に低下し,椅子からの立ち上がりや歩行などの日常生活動作に影響を及ぼすことが報告されている.一般的には,大腿四頭筋が膝関節伸展作用を発揮すると考えられているが,一部の先行研究ではハムストリングス(HAM)が膝関節伸展作用を発揮する可能性が提示されている.しかし,どのような姿勢でHAMが膝関節伸展作用を発揮するのかは明らかとなっていない.そこで本研究は,数理モデルを用いてHAMが膝関節伸展作用を発揮できる姿勢を明らかすることを目的とした. 【方法】身長1.8 m,体重80 kgの対象者を仮定し,体幹,大腿,下腿から構成される矢状面リンクモデルを構築した. HAMの膝関節屈曲および股関節伸展モーメントアーム(MA)はOpenSimのGait2392モデルで報告されており,HAMの筋張力を決定すれば,HAMによる膝関節屈曲および股関節伸展モーメントは一意に決定できる.本研究では10Nmの膝関節屈曲モーメントが発揮されるようにHAMの筋張力を設定した.膝関節を屈曲0度~90度,股関節を伸展30度~屈曲90度の範囲内で変位させ,順動力学シミュレーションを実施した.なお,純粋なHAMの作用を確認するため重力の影響がない姿勢を仮定した.HAM機能の判定には,シミュレーション開始時と終了時の膝関節屈曲角度の差を用いた.先行研究において,HAMが膝関節伸展作用を発揮するためには,HAMの股関節伸展MAが膝関節屈曲MAに比較して大きい必要があると報告されている.そのため,股関節伸展MAを膝関節屈曲MAで除した値(MA比)も算出した.上記の解析はScilab 6.0.0によって実施した. 【結果】HAMは膝関節屈曲7~0度かつ股関節屈曲2~62度(条件1),膝関節屈曲44~90度かつ股関節伸展30~屈曲50度(条件2),の2つの条件下で膝関節伸展作用を発揮した.条件1では膝関節角度が小さいほど,条件2では膝関節屈曲角度が大きいほど膝関節伸展作用が強くなる傾向にあった.また,MA比が大きい場合でも,HAMが膝関節伸展作用を発揮しないこともあった. 【考察】本研究の結果より,HAMの膝関節伸展作用の発揮はMA比の大小だけでは説明できないことが明らかとなった.先行研究において,筋の力学的作用はリンクシステムの姿勢により変化することが報告されている.本研究においても,姿勢の影響によりHAMの力学的な作用が修飾されている可能性が考えられた. 【結論】本研究は2つの条件下においてHAMが膝関節伸展作用を発揮する可能性を提示した.この結果から考えると,条件1・2におけるHAMの膝関節伸展作用をうまく活用することが出来れば,大腿四頭筋の機能不全を有する者であっても,椅子からの立ち上がりや歩行などの日常生活動作を円滑に遂行できる可能性が考えられた. 【倫理的配慮,説明と同意】本研究は数理モデルを用いた順動力学シミュレーションによる検証のため,倫理的配慮および説明と同意に該当する内容は含んでない.数理モデルに必要なパラメータは先行研究で報告されたものや既存のモデルを参照しているため,個人を特定する内容は含まれていない.
著者
松迫 陽子 笠原 伸幸 梛野 浩司 中俣 恵美
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.46 Suppl. No.1 (第53回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.E-198_2, 2019 (Released:2019-08-20)

【はじめに・目的】片麻痺患者の歩行練習において、課題指向的な運動学習が重要とされている。しかし、重度感覚障害や半側空間無視(以下、USN)が重複している場合、麻痺側下肢への注意が向きにくいため、フィードバックが得られにくく運動学習の阻害となりやすい。そのため、根気よく麻痺側下肢の動きを意識させて歩行練習を行う必要がある。近年よく用いられる2動作歩行練習では、central pattern generatorの賦活や麻痺側下肢の筋活動増大が図れるとされるが、無意識下での交互歩行を促すため、上記の様な患者では運動学習が図りにくいことが考えられる。一方で、従来の3動作歩行練習では、速性の低下や2動作歩行への移行に時間がかかるとされるが、麻痺側下肢へ意識が向き、フィードバックが得られやすい。今回、回復期病棟入院中で重度感覚障害と左USNを重複した重度片麻痺患者において、麻痺側下肢を意識させて行う運動学習を目的に3動作歩行練習を実施したところ、監視歩行を獲得したので報告する。【症例紹介】53歳男性、右被殻出血、X.X.X発症、X+8日 内視鏡下脳内血腫除去術、X+29日当院転院、X+203日 自宅退院入院時:JCS1 、Brunnstrom Stage(以下、BRS) 左下肢Ⅰ、Stroke Impairment Assessment Set(以下、SIAS) 総点19点[SIAS-L/E(運動機能-下肢) 0・SIAS-Trunk(体幹) 2・SIAS-S (感覚)0]、高次脳機能 左USN(BIT 125/146点)・重度注意障害、基本動作 端座位 見守り・移乗 重度介助・移動 車椅子全介助・その他は中等度介助レベル、歩行は長下肢装具を使用し3動作揃え型の伝い歩きにて重度介助レベル、機能的自立度評価表(以下、FIM)48点 [運動25(移乗2・歩行1・階段1)/認知23]【経過】退院時:JCS0、BRS 左下肢Ⅲ、SIAS総点26点(SIAS-L/E 4・SIAS-Trunk 6・SIAS-S 0)、高次脳機能 左USN軽減(BIT141点)・注意障害軽減、基本動作 歩行以外は全て修正自立・移動は車椅子で自立、歩行は4点杖と短下肢装具を使用し3動作前型歩行にて屋内見守りレベル、FIM94点 [運動65(移乗6・歩行1・階段4 )/認知29]【考察】評価結果から、麻痺側下肢・体幹機能の改善、またUSNや注意障害などの高次機能障害の改善が示された。運動学習には内的フィードバックおよび外的フィードバックが必要であるが、本症例は重度感覚障害およびUSNのため麻痺側下肢からの感覚フィードバック、視覚による代償が得られにくい状況にあった。3動作歩行は、2動作歩行に比べ1歩行周期にかかる時間が延長され随意的な下肢の運動を促すことができる。そのため、より麻痺側下肢への注意を促すことが可能となり、歩行の運動学習に必要な内的フィードバックをもたらしたと考えた。また、運動学習に適した環境下での反復練習の継続により運動学習が成立したと考えられた。麻痺側下肢の使用を意識させながら行う3動作歩行練習は、感覚障害や高次機能障害を呈した患者に対して、運動学習とともに高次機能障害への働きかけによる改善が期待できると思われた。【倫理的配慮,説明と同意】症例報告を行うにあたり、対象者に対してヘルシンキ宣言に従い報告する内容を説明し、同意を得た。
著者
山下 裕 西上 智彦 古後 晴基 壬生 彰 田中 克宜 東 登志夫
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.46 Suppl. No.1 (第53回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.H2-198_2, 2019 (Released:2019-08-20)

【はじめに、目的】頚部痛患者において,単に筋や関節由来だけでなく,様々な要因が能力障害に関与することが明らかになっている.外傷性頚部痛は非外傷性頚部痛よりも,臨床症状がより重度であることが報告されているが,それぞれの能力障害に関与する要因は未だ明らかではない.近年,他害的な外傷や痛みに伴う不公平感を定量するInjustice Experience Questionnaire(IEQ)や,頚部の身体知覚異常を包括的に評価するFremantle Neck Awareness Questionnaire(FreNAQ)といった新たな疼痛関連指標が開発されているが,外傷性,非外傷性頚部痛それぞれの能力障害にどのように関与するか明らかでない.本研究の目的は,外傷性と非外傷性頚部痛の疼痛関連因子の比較及びそれぞれの能力障害に影響する因子を検討することである.【方法】対象は, 頚部痛患者119名(外傷性頚部痛患者74名,非外傷性頚部痛患者45名)とした.評価項目として,疼痛期間,安静時・運動時痛,能力障害はNeck Disability Index (NDI),不公平感は IEQ,身体知覚異常はFreNAQ,破局的思考は短縮版Pain Catastrophizing Scale(PCS6),運動恐怖感は短縮版Tampa scale for Kinesiophobia(TSK11),うつ症状はPatient Health Questionnaire(PHQ2)を調査した.統計解析は,Mann-Whitney U検定を用いて外傷性頚部痛と非外傷性頚部痛における各評価項目の差を比較検討した.さらに,NDIを従属変数とした重回帰分析を用いて,外傷性頚部痛,非外傷性頚部痛におけるそれぞれの関連因子を抽出した.【結果】2群間比較の結果,疼痛期間において有意な差を認めたが[外傷性頚部痛: 30日(0−10800日); 非外傷性頚部痛: 300日( 2−7200日),p<0.001],その他の項目に有意な差は認められなかった.重回帰分析の結果,NDIと有意な関連が認められた項目として,外傷性頚部痛ではIEQ(β=0.31, p =0.03)と運動時痛(β=0.17, p =0.01),非外傷性頚部痛においてはFreNAQ(β=0.79, p =0.002)のみが抽出された.【結論(考察も含む)】本研究の結果から,外傷性頚部痛患者と非外傷性頚部痛患者において,能力障害に影響を与える因子が異なる可能性が示された.したがって,外傷性頚部痛患者では不公平感を軽減する介入が必要であり,非外傷性頚部痛患者においては身体知覚異常を正常化する介入が必要である可能性が示唆された.【倫理的配慮,説明と同意】対象者には研究の主旨と内容を口頭および書面で説明し,同意を得て研究を実施した.なお本研究は西九州大学倫理委員会の承認を得ている(承認番号:H30 − 2).
著者
井上 大輔 宮本 定治 惠飛須 俊彦 藤尾 圭司
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.46 Suppl. No.1 (第53回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.H2-193_2, 2019 (Released:2019-08-20)

【はじめに、目的】腰椎椎間板ヘルニア(LDH)患者では多裂筋の組織学的変化が報告され、罹患側にて萎縮が生じる可能性が示されている。一方、MRI画像を用いて多裂筋の萎縮を示した報告も散見されるが、罹患高位と萎縮が生じる明確な部位については一定の見解が得られていない。また、多裂筋を除く傍脊柱筋を検討した研究は少なく、ヘルニアが傍脊柱筋に及ぼす影響は不明である。本研究の目的はLDH患者において傍脊柱筋の筋断面積(CSA)を測定し、罹患高位と萎縮との関連性を明らかにすることである。【方法】対象は 2013年4月から2018年4月に当院整形外科を受診した腰痛を有するLDH患者63名(L4-5:32名、L5-S1:31名、年齢36.8±8.3歳、罹病期間3.4±4.0ヶ月)であった。両側性の下肢症状、多椎間のヘルニア、腰部の手術既往を有する者などは除外した。CSAはMRI画像にてCraigらの報告に準じ、L1からL5の下部椎骨終板およびL5からS1の上部椎骨終板の計7スライスを用い、大腰筋、腰方形筋、脊柱起立筋、多裂筋を罹患側と非罹患側で計測した。得られた各CSAはL4上縁椎体面積で除し正規化した。統計処理は、各スライスの罹患側と非罹患側におけるCSAの比較をMann-WhitneyのU検定およびχ2適合度検定を用い、有意水準は5%とした。【結果】L4-5ヘルニア患者ではL4、L5上縁、L5下縁、S1で、L5-S1ヘルニア患者ではL5上縁、L5下縁、S1で罹患側の多裂筋CSAは非罹患側と比較して有意に低値を示した(p<0.05)。また、L4-5ヘルニア患者ではL4、L5上縁、L5下縁、S1で、L5-S1ヘルニア患者ではL5上縁、L5下縁、S1で罹患側の多裂筋が萎縮している割合が有意に高かった(p<0.01)。一方、大腰筋、腰方形筋、脊柱起立筋は全てのスライスにて罹患側と非罹患側で有意差を認めなかった。【結論(考察も含む)】L4-5およびL5-S1ヘルニア患者において罹患側の多裂筋に萎縮を認めた。多裂筋は棘突起と同高位の脊髄神経後枝内側枝から分節性に神経支配を受けるため、罹患高位に一致した萎縮が生じた可能性がある。LDH患者では多裂筋の筋線維サイズが罹患側で有意に減少すると報告されており、MRI画像上のCSAにおいても組織学的変化が反映されたと考えられた。また、本研究では罹患高位に隣接する多裂筋にも萎縮を認めた。対象者は全例で腰痛を有しており、不活動やreflex inhibitionにより萎縮が生じた可能性がある。一方、大腰筋、腰方形筋、脊柱起立筋は筋の形状や神経分布形態などの観点からヘルニアの影響は受けにくいと推察された。今回の検討により、腰痛を有する単椎間のLDH患者は、罹患側の罹患高位および隣接椎体の多裂筋に萎縮が生じる可能性が示唆された。【倫理的配慮,説明と同意】本発表はヘルシンキ宣言を遵守し、当院倫理審査委員会の承認(承認番号:第30-60号)を得ている。
著者
宮地 諒 森 健太郎 出口 美由樹 米倉 佐恵 波 拓夢
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.46 Suppl. No.1 (第53回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.H2-140_1, 2019 (Released:2019-08-20)

【はじめに、目的】 臨床上,自動下肢伸展挙上運動や歩行など種々の課題の中で大腿骨頭の腹側への偏移を有する症例は多く,それに対し股関節安定化運動を実施する場面はしばしばみられる.しかし,副運動の制御についての報告は少なく,股関節安定化運動時の筋活動については明らかにされていない.そのため,本研究は大腿骨頭の腹側方向への負荷に対して股関節安定化運動を行った際の筋厚を測定し,関与する筋を明らかにすることを目的とした.【方法】 対象は下肢や脊柱に関節障害などの既往がなく,日常生活に影響する疼痛がない健常成人男性10名(25.2±4.3歳)とした.測定肢位は背臥位にてベルトで骨盤と大腿骨遠位部を固定した肢位とした.大腿骨頭の腹側方向への負荷は坐骨結節より遠位の大腿部に空気の抜いたボールを挿入し,空気入れでボールに空気を入れた際に10kgfの負荷となるように調節し,負荷を与えた.被験者には負荷が加わった際に負荷に対して負けない程度に保持することを指示した.測定は腸腰筋,小殿筋前部線維,中殿筋前部線維,大腿筋膜張筋を安静時と負荷抵抗時に超音波画像診断装置(LOGIQ e,GE ヘルスケアジャパン社) のBモードにてリニアプローブ(10MHz)を使用し撮像した.腸腰筋は鼠径部中央,小殿筋前部線維・中殿筋前部線維・大腿筋膜張筋は上前腸骨棘と大転子を結んだ線上の遠位1/3部にて測定した.取得した画像から画像解析プログラムImage Jを使用して各筋の筋厚を計測した.統計解析はSPSSVer.19(日本アイ・ビーエム社)を使用し,安静時と負荷抵抗時の筋厚の比較は対応のあるt検定,各筋の筋厚変化率(安静時/負荷抵抗時)の比較は反復測定分散分析と下位検定にTukey法を行った.【結果】 安静時と負荷抵抗時の筋厚の比較では小殿筋前部線維のみ有意に低値(P<0.05)を示したが,その他の筋では有意差を認めなかった.各筋の筋厚変化率の比較では小殿筋前部線維が中殿筋前部線維・大腿筋膜張筋よりも有意に高値(P<0.05)を示した.【結論】 大腿骨頭の腹側方向への負荷に対する抵抗時には小殿筋前部線維の筋厚変化が腸腰筋,中殿筋前部線維,大腿筋膜張筋と比較して大きい.そのため,大腿骨頭の腹側偏移に対する股関節の安定化には小殿筋の関与が考えられ,小殿筋にも着目したエクササイズの検討が必要であることが示唆された.【倫理的配慮,説明と同意】被験者には事前にヘルシンキ宣言に基づいて文書と口頭にて研究の意義,方法,不利益等について十分に説明し参加の同意署名を得た上で実施した.
著者
為沢 一弘 小野 志操 佐々木 拓馬 団野 翼 中井 亮佑
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.46 Suppl. No.1 (第53回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.H2-2_1, 2019 (Released:2019-08-20)

【はじめに、目的】小殿筋は股関節の関節包に付着しており、股関節を求心位に保つ役割があるとされている。そのため、股関節疾患を有する患者では、小殿筋の筋攣縮を招き、股関節の可動域制限に繋がることを経験する。我々は、第43回股関節学会にて開排動作に股関節外側の組織の柔軟性が関与する可能性を報告した。今回、我々は実際に小殿筋の組織弾性が低い例では、股関節のどの可動域に影響をおよぼすのかを検討した。【方法】対象は、股関節に既往のない成人男性12名24股である(平均年齢26.8±4.8歳、身長172.0±4.7cm、体重66.1±4.2kg、BMI22.4±1.2)。測定は、小殿筋の組織弾性と股関節の可動域測定を実施した。組織弾性の測定は、超音波画像診断装置(日立製作所製noblus)のReal-time Tissue Elastography機能を使用した。リニア型プローブを用い、専用アタッチメントと音響カプラを装着して使用した。被験者を安静背臥位とし、股関節中間位における小殿筋の組織弾性を計測した。測定部位の描出は、プローブを大転子前面に当て、短軸走査にて小殿筋の最前方線維を確認した後、長軸走査として筋線維の走行に合わせて近位方向に移動し、腸骨稜の起始部を描出した。測定の関心領域は、小殿筋内で可能な限り広範囲にとった。音響カプラを比較対象の点とし、算出された値を測定値とした。測定は同一検者が計3回行い、平均値を算出して測定値とした。測定値の中央値にて、小殿筋の組織弾性値の高値群と低値群の2群に分けた。股間節の可動域は、日整会の定める可動域の項目に加え屈曲伸展中間位での内外旋およびパトリックテスト肢位での脛骨粗面と床面の距離(以下、KFD)とした。統計学的検討はMann-WhitneyのU検定を用い、2群における各可動域の有意差の有無を比較した。有意水準は5%未満とした。【結果】小殿筋の組織弾性の平均は0.49±0.45、中央値は0.49で、高値群は平均0.48±0.25、低値群は0.59±0.24であった。2群における可動域に優位な差を認めたのは外旋(高値群:47.1±11.4、低値群:35.8.±11.45、p=0.03)、中間位内旋(高値群:37.5±15.59、低値群:24.6.±12.33、P=0.04)、およびKFD(高値群:20.8±3.46、低値群:24.6.±4.12、p=0.03)であった。【結論(考察も含む)】Beckらは股関節屈曲位での外旋および股関節伸展位での内旋にて小殿筋が伸張されると報告している。今回の我々の研究でも同様の結果を示しておりそれを裏付けする形となった。加えて、本研究では組織弾性の低い群では開排動作の可動性も小さいことが示された。開排動作は日本人にとってあぐら動作などで重要な動作である。開排肢位は股関節唇前上方の圧が高まるとされている。開排制限の改善は股関節唇への機械的ストレスを軽減する重要な要素の一つと考えられる。股関節の外旋、中間位内旋および開排動作に制限を有する症例では、小殿筋の柔軟性が十分であるかを確認することが重要であることが考えられた。【倫理的配慮,説明と同意】今回の発表に際して、被検者には研究の趣旨と内容を十分に説明した上で同意を得た。
著者
小島 伸枝 杉本 寿司 谷本 智美 藤井 美穂 伊藤 俊一
出版者
日本理学療法士協会(現 一般社団法人日本理学療法学会連合)
雑誌
理学療法学Supplement Vol.46 Suppl. No.1 (第53回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.H2-95_2, 2019 (Released:2019-08-20)

【目的】 腹横筋,腰部多裂筋,骨盤底筋,横隔膜の筋が作用することにより腹腔の円柱効果が得られ,腰椎骨盤領域の支持性が高まるという諸家の報告がある.これらを背景に体幹の動的安定性トレーニングとして骨盤底筋群へ,または骨盤底筋群と腹横筋等の協調した収縮を得るための介入に関する報告は少なくない.一方骨盤臓器脱は妊娠・出産や繰り返される腹圧上昇課題によって骨盤内臓器を支持する靭帯や筋が脆弱化することで発症する疾患とされる.このことから骨盤底筋群の機能不全を背景とした骨盤臓器脱(以下POP)患者の多くが,腰椎骨盤領域の支持性が低下することで腰部疾患既往をもつと考えられるが,本邦における報告は少ない.そこで今回我々は重症POP患者の腰部疾患の既往歴を調査したため報告する. 【方法】 対象は平成28年4月1日から平成29年12月31日までにPOP手術目的で当院女性総合診療センターに入院した患者のうち,書面同意が得られた182名とした.対象の年齢,治療期間(当院女性総合診療センターの外来初診日から手術日),BMI,POPの診断名,既往歴を診療録から後方視的に調査した.尚既往歴は入院時に看護師が問診により聴取したものである. 【結果】 対象者の平均年齢は69.0±7.61歳,平均治療期間は165±359日(range2-2206日),平均BMI24.3±3.0kg/m2であった.POPの診断名は子宮脱+膀胱瘤が63名,子宮脱55名,膀胱瘤40名,直腸瘤7名,膀胱瘤+直腸瘤5名,子宮脱+直腸瘤4名,POPとその他の疾患合併が8名であった. 腰部疾患既往がある対象者は10.9%(20名)であり,のべ数で腰椎椎間板ヘルニア3.8%(7名;子宮脱+膀胱瘤4名,子宮脱4名),腰部脊柱管狭窄症3.2%(6名;子宮脱+膀胱瘤2名,子宮脱4名),腰椎症0.5%(1名;子宮脱+膀胱瘤),腰椎すべり症1.6%(3名;子宮脱+膀胱瘤1名,子宮脱+直腸瘤1名,子宮脱1名)であった.その他腰椎圧迫骨折は3.8%(7名;子宮脱+膀胱瘤3名,子宮脱4名),後縦靭帯骨化症0.5%(1名;子宮脱+膀胱瘤)であった.  【考察】 本研究の対象者は手術目的での入院であり,骨盤底筋群の機能が破たんした時点(手術適応時点)での定点調査において腰椎疾患を既往にもつ対象は10%に留まった.腰椎疾患は前屈障害,伸展障害いずれの傾向もなく,下垂臓器にも偏りは認めなかった.このことから骨盤底筋群のトレーニングを含む体幹動的安定性への画一的な介入は,未だ議論の余地があると考える.一方POP手術は術式によっては載石位をとるため,既往歴の聴取は術後トラブル回避により入念に行われるが,問診では非特異的腰痛を有する患者を抽出できていない可能性があり追加検討が必要と考えている. 【倫理的配慮,説明と同意】この研究は個人が特定できない方法で公開すること、途中で研究不参加の意思を表明しても患者の不利益にならないことを説明し、本人に対し書面で同意を得た。
著者
片田 昌志 松村 福広 伴 光正 安中 正法 亀山 祐 穂高 桂
出版者
日本理学療法士協会(現 一般社団法人日本理学療法学会連合)
雑誌
理学療法学Supplement Vol.46 Suppl. No.1 (第53回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.H2-119_1, 2019 (Released:2019-08-20)

【目的】大腿骨転子部骨折に対する髄内釘挿入は,大転子のリーミングにより中殿筋損傷が危惧される.しかしながら,従来の治療成績は筋力が加味されていないことが多く運動機能との関連も不明瞭である.本研究の目的は,大腿骨転子部骨折術後12か月の股関節外転筋力と運動機能の関連性を知ることである.【方法】2016 年10 月から2017年12 月までに髄内釘を用いて治療を行った大腿骨転子部骨折133例のうち下記除外基準に該当しない24例を対象とした。除外基準は術後12か月に追跡調査が困難であった者,重篤な合併症を有する者,重度認知症により筋力測定が困難であった者,既往歴に運動麻痺または下肢骨折を有する者とした.平均年齢は75.3歳(42~90歳),男性6例,女性18例であった.骨折型は中野3D-CT分類で2partA:4例,2partB:2,3partA:2例,3partB:8例,3part C:3例,4part:1例,TypeⅡ:4例であった.調査項目は術後12か月の股関節外転筋力のトルク体重比(Nm/kg),歩行再獲得率,Harris hip score, Time up and go(以下TUG)とした.なお,歩行再獲得率は受傷前の歩行様式と同じ水準が獲得できた者を歩行再獲得者とした.統計解析は股関節外転筋力の患側値と健側値の比較に対応のあるt-検定,股関節外転筋力の患健比(%)と歩行再獲得率にはMann Whitney検定,股関節外転筋力の患健比とHarris hip score,TUGの関連性にはSpearman相関係数を用いた.統計ソフトSPSSを用い,有意水準は5%未満とした.【結果】術後12か月の股関節外転筋力は患側値0.6±0.4Nm/kg,健側値0.7±0.3Nm/kgであり,患側の股関節外転筋力が有意に低下していた(p<0.01).歩行再獲得率は67%(16例/24例中)であり,歩行再獲得に至らなかった者は股関節外転筋力の患健比が有意に低下していた(P<0.05).Harris hip score,TUGと股関節外転筋力は有意な相関はなかった.【結論】髄内釘挿入時のリーミングによる中殿筋損傷は20~50%と報告(澤内.2017,McConnell.2003)されているが,大腿骨転子部骨折術後の股関節外転筋力の報告は少なく,経過観察時期も一定では無い.本研究の結果から術後12か月の股関節外転筋力は有意に低下しており,長期的にみても筋力低下が残存することが分かった.また,大腿骨転子部骨折術後の歩行再獲得率は41~70%と報告されており(東原.2008),本研究も同様の結果であった.興味深いことは筋力と運動機能の関連性である.従来から使用されているHarris hip scoreやTUGは良好であっても,股関節外転筋力の低下がみられた.股関節外転筋力の低下があっても他の筋力で代償されれば全身的な運動機能は問題にならないが,他の筋力による代償が困難になった場合,股関節外転筋力の低下が表面化する可能性が推察される.本研究の限界として統計学的に母集団数が少なく,中野3D-CT分類別に統計解析を行えなかったことである。今後は骨折型,術後X線所見も含めた調査が課題となる.【倫理的配慮,説明と同意】対象者にはヘルシンキ宣言を遵守した上で十分な説明を行い,同意を得た.
著者
谷川 智也 新田 佳也子
出版者
日本理学療法士協会(現 一般社団法人日本理学療法学会連合)
雑誌
理学療法学Supplement Vol.46 Suppl. No.1 (第53回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.E-206_2, 2019 (Released:2019-08-20)

【はじめに・目的】 近年、自転車エルゴメーター(以下、エルゴメーター)が脳卒中片麻痺患者の機能回復運動として有用であることが報告されている。また、先行研究において新野等は慢性期の脳卒中片麻痺患者において自転車エルゴメーター施行後の歩行における効果を述べている。しかし、回復期脳卒中片麻痺患者を対象とした検証は少ない。本症例はT杖歩行自立しているが、「もう少し早く歩きたい」との訴えがあった。そこで今回、回復期脳卒中片麻痺患者においる自転車エルゴメーター駆動後の歩行能力の変化について検討を行ったので報告する。【方法】 対象は50歳代女性。左片麻痺。発症から3ヶ月経過。Brunnstrom recovery stage上肢Ⅲ、手指Ⅲ、下肢Ⅳ。脳卒中機能障害評価法(以下、SIAS)運動機能5項目(2,1C,3,4,1)で、感覚は表在・深部ともに中等度鈍麻。歩行はプラスチックAFO使用し屋内T杖歩行自立。片脚立位は左2.04秒、右4.19秒。10m歩行(最大速度)は18.71秒であった。 エルゴメーターは、COMBI WELLNESS社製2100Uを用いた。負荷量20W、運動時間は5分間で運動強度は年齢推定予測最大心拍数(220-年齢)の60%の値と自覚的運動強度(Borg2~3)を指標とし、リズミカルに駆動でき、連合反応を生じない回転速度(50rpm)とした。以上の内容を通常の理学療法に加え12日間施行した。評価として自転車エルゴメーター施行前後において、片脚立位時間と10m歩行時間を計測した。統計方法は片脚立位時間と10m歩行時間の結果から、それぞれt検定にて比較検討した。【結果】 片脚立位時間は左4.01秒、右5.71秒に改善を認め、さらに左右共に施行前に比べて施行後は有意に時間の延長を認めた。(P<0.05)10m歩行時間(最大速度)は15.81秒となり、施行前に比べて施行後は有意に時間の短縮を認めた。(P<0.05)【考察】 片脚立位においては、エルゴメーターによって固有感覚受容器への刺激が増大し、それに伴って協調的な筋収縮と弛緩のタイミングを強化できた為と考える。また、吉田らは脳卒中片麻痺患者におけるエルゴメーターは体幹筋やバランス促通に効果があるとしており、10m歩行においては、協調的な活動が強化できたことで歩行速度や立位バランスに影響をもたらしたものと考える。 今回の結果から、回復期脳卒中片麻痺患者における自転車エルゴメーターの活用が歩行能力向上に有効であることが示唆された。 【倫理的配慮,説明と同意】本報告は、ヘルシンキ宣言に則り実施し、対象者には研究内容の説明を口頭と書面にて実施し、署名にて同意を得た後に実施している。
著者
大迫 絢佳 若杉 樹史 梅田 幸嗣 笹沼 直樹 児玉 典彦 内山 侑紀 道免 和久
出版者
日本理学療法士協会(現 一般社団法人日本理学療法学会連合)
雑誌
理学療法学Supplement Vol.46 Suppl. No.1 (第53回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.E-160_2, 2019 (Released:2019-08-20)

【はじめに・目的】 多系統萎縮症(multiple system atrophy:以下, MSA)は, 進行性の神経変性疾患であり, 小脳性運動失調, 自律神経障害, パーキンソニズムが生じると言われている. MSAにより生じるパーキンソニズムは, レボドパ製剤に対する反応性が乏しく歩行障害の進行が早いと述べられている. 本症例はパーキンソニズムが優位に出現するMSA with predominant parkinsonism (MSA-P)であり, 小刻み歩行を呈していた. MSA-Pの歩行障害に対する理学療法の報告は少ないが, トレッドミル歩行がパーキンソン病患者の歩行障害に有効であるという報告は数多く見受けられる. そこで今回我々は, MSA-P患者の小刻み歩行に対しトレッドミル歩行訓練を実施し歩行能力の改善が得られたため報告する. 【症例紹介】患者: 80歳代男性.診断名: MSA-P.現病歴:診断3ヶ月前に動作緩慢や発話困難自覚.診断2ヶ月前より嚥下障害や排尿障害,起立性低血圧が生じ精査後にMSA-Pと診断された. Mini Mental State Examination 24/30点であり,固縮・姿勢反射障害・小刻み歩行を呈していた.すくみ足は認められなかった.投薬はドパコール600mg/日,ドプス600mg/日であり起立性低血圧を是正後の薬剤,投薬量の変更はなかった.【経過】理学療法はトレッドミル(Senoh社製)の歩行速度を2.0-2.5km/hに設定し, 聴覚刺激を入れながら1日5-8分間, 週5日4週間実施した. トレッドミル歩行訓練前後の理学療法評価(介入前→介入後)では, 膝関節伸展筋力は左右共に著変なかった. バランス評価は, Mini-BESTestで, 12→17点(内訳: 予測的姿勢制御3→4点, 反応的姿勢制御1→1点, 感覚機能2→4点, 動的歩行6→8点) であった. 歩行能力は歩行器歩行監視→杖歩行監視となった. 10m歩行(杖歩行)は17.41→11.88秒, 歩数は29→20歩であった. Timed up and go testは28.38→17.35秒, 歩数は33→18歩であった. FIMは71→81点(内訳: 清拭2→5点, 更衣(上)4→5点, 更衣(下)4→5点, トイレ動作4→6点, 排尿管理4→5点, 排便管理1→2点, ベッド・車椅子移乗5→6点, トイレ移乗5→6点, 歩行5→6点)であった. 【考察】 本症例はトレッドミル歩行訓練を実施後,10m歩行, Mini-BESTest, TUGにおいていずれもMinimal Clinically Important Differences(他疾患の値も含む)を上回って改善した.Mehrholzら(2010)はトレッドミル歩行訓練は歩行速度・歩幅の改善が生じると述べており, 本症例も同様の結果を示した. 岡田ら(2004)はトレッドミル歩行では床面が移動するため支持基底面が受動的に後方に変位し, 前方への重心の移動量が増大すると述べている. 本症例もトレッドミル歩行を繰り返した結果, 患者は律動的に前方へ重心移動される機会が増え, 歩幅の増大やMini-BESTestの改善につながったと考える. 歩幅が増大したため歩行速度も上昇し歩行能力の改善に至ったと考える. 本症例より, MSAによるパーキンソニズムを呈した小刻み歩行に対しても, トレッドミル歩行は歩行能力の改善に有効であることが示唆された.【倫理的配慮,説明と同意】本報告は, 対象者に十分な説明を行い同意を得て実施している.
著者
浅井 直樹
出版者
日本理学療法士協会(現 一般社団法人日本理学療法学会連合)
雑誌
理学療法学Supplement Vol.46 Suppl. No.1 (第53回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.E-69_2, 2019 (Released:2019-08-20)

【はじめに・目的】脊髄損傷(以下SCI)の歩行再建は、再生医療の実現を控えて注目を浴びている。再生医療関連の研究では、術後のリハビリテーション(以下リハ)の有無やその性質によって麻痺の改善にも差が出ると報告している。このような背景からリハの内容にも関心が集まっているが、完全型SCIに対する歩行再建のリハについての実践報告は少ない。今回、Th12の完全型SCI一症例に対し、歩行再建を目的にロボットを併用した集中的トレーニングを行った。【症例紹介】20代女性、外傷によりSCIを受傷し、残存高位はTh12であった。歩行再建に向けた介入を開始した受傷後5か月時点でAmerican Spinal Injury Association(以下ASIA)の下肢運動スコアは右1/左1ポイントで、両側股関節屈曲筋の筋収縮を触れるのみでその他の下肢筋に随意収縮はみられなかった。ASIA感覚スコアは触痛覚ともに右38/左38ポイントで、S4, 5領域の感覚運動機能は脱失し、ASIA Impairment Scale(以下AIS)ではAの完全麻痺であった。車いすベースでのADLは自立し、歩行は長下肢装具での平行棒内歩行が監視レベルで可能であった。【経過】受傷後約2週でリハ目的に転入院し、一般的な対麻痺者に対する理学療法(ROM、筋力強化、起居動作、ADL、車椅子操作練習等)を行った。ADLがおおむね自立した受傷後5か月時点から外骨格型ロボット装具(ReWalk、ReWalk Robotics)を用いた立位歩行練習を開始した。その後自宅退院し、外来にてReWalkを用いた歩行練習と、自宅で長下肢装具を用いた立位練習を行った。受傷後7か月ころに随意的な膝伸展運動が両側に発現し、経過とともに随意運動の拡大を認めた。受傷後12か月ころに集中的なリハを目的に再入院し、再入院後はReWalkを用いた歩行練習のほか、短下肢装具での立位歩行練習、ペダリング機器や低周波機器、水治療法を併用したリハを実施した。受傷後15か月ころの退院時のASIA下肢運動スコアは右2/左2ポイントで、膝伸展筋の収縮を触れ、キーマッスル以外にも大腿筋膜張筋や中殿筋、内転筋群にも随意収縮を触知できた。感覚機能およびS4,5領域の運動感覚機能には変化がなく、AISはAであった。歩行能力は、短下肢装具とピックアップ歩行器での手添え介助歩行が可能となった。【考察】完全型SCIの麻痺の予後は一般的に不良だが、本症例は先行研究に照らしても顕著に改善した。脊髄の神経可塑性は、練習する運動課題の種類や質とその反復に強く依存すると言われている。本症例においては、リハの内容や質的な面として、歩行様の運動課題や、ロボットを利用した正常歩行に近い歩行練習が有効であったと考えられた。また、量的側面としては、多様な課題を高頻度に実施し、ロボットの定常的な運動を繰り返すことができる機械的な特性が有利に働いたと推察された。【倫理的配慮,説明と同意】本症例に対する介入は神奈川リハビリテーション病院倫理委員会の承認のもと実施したものである(承認番号krh-2014-2)。本報告に際しては症例に対して書面と口頭で説明を行い、同意を得た。
著者
橋本 重倫 土田 拓輝
出版者
日本理学療法士協会(現 一般社団法人日本理学療法学会連合)
雑誌
理学療法学Supplement Vol.46 Suppl. No.1 (第53回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.B-33_2, 2019 (Released:2019-08-20)

【はじめに】 体幹失調を呈する患者に対して理学療法では、固有感覚情報による大脳半球の代償により運動協調性改善を図っていく事が推奨されている。古典的な方法として、腹部圧迫による弾性包帯緊縛法により正常歩行に類似した運動パターンを再現することが出来るとされている。また固有受容性神経筋促通法(PNF)による運動の再学習も有効とされており、難易度としては単純な屈曲・伸展から開始し、抵抗運動を加え、さらに運動パターンを複雑化していくことで、神経筋の再教育を行っていく。しかしながら、固有感覚情報を入力し、体幹筋群を刺激しながら歩行練習を行なうことは徒手的な介入では困難であることを臨床場面で経験する。勝平らは抗力を具備した継手付き体幹装具トランクソリューション(以下、TS)を開発し、骨盤前傾と体幹伸展を促しながら持続的な腹筋群の活動を促すことを可能にした。TSの特徴である、抗力により骨盤前傾、体幹伸展および腹筋群の活動を促すという機構は体幹失調に対する抵抗運動により筋収縮を促通しつつ、正常歩行を再現するという治療戦略と類似している。 そのため、本研究の目的は、体幹失調患者の歩行におけるTS装着の有効性を検討することとした。【方法】 対象は、A病院回復期病棟に入院している橋出血により失調歩行を呈した患者1名とした。はじめに10m歩行速度と歩数を計測した後、TSを装着し、80m歩行練習を実施した。TSを装着した歩行練習の直後およびTSを外した後に、再度10m歩行速度・及び歩数を計測した。介入期間として5日間連続で測定及び介入を実施し、即時効果及び持ち越し効果を検討した。【結果】 初日の介入前の10m歩行速度および歩数は18.3秒29歩であったの対し、TSを外した後は14.4秒24歩と介入による即時効果を認めた。翌日の介入前の計測においても14.6秒26歩と持ち越し効果を認めた。介入後においては、毎日即時効果を認めたが、持ち越し効果は3日目までは認めていたが、その後は停滞及び一時速度低下しながらも、最終的には13.0秒22歩まで改善した。【考察】 TS装着により、失調歩行患者への歩行速度に対する即時効果および翌日以降への持ち越し効果が認められた。歩行中に持続して抗力による腹筋群の促通が図れることにより、体幹動揺軽減及び垂直性が保たれることで歩行パフォーマンスが向上すること、固有感覚情報の入力に伴う正常運動の反復及び腹筋群の筋力強化により、装具を外した後も学習効果の持続が期待できることが示唆された。失調に対する治療用装具としての可能性を示唆されたことは新しい知見となると考える。しかしながら、単症例での報告であり、介入期間も短い為、今後更なる症例数・介入期間の検討が必要である。【倫理的配慮,説明と同意】竹川病院倫理委員会の規定に則り、説明と同意を得て実施している。
著者
大野 善隆 松井 佑樹 須田 陽平 伊藤 貴史 安藤 孝輝 横山 真吾 後藤 勝正
出版者
日本理学療法士協会(現 一般社団法人日本理学療法学会連合)
雑誌
理学療法学Supplement Vol.46 Suppl. No.1 (第53回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.I-147_2, 2019 (Released:2019-08-20)

【はじめに、目的】運動量に応じて骨格筋量は変化するが、その分子機構には不明な点が多く残されている。運動時に骨格筋は乳酸を産生し、分泌する。骨格筋には乳酸受容体が存在するため、乳酸は骨格筋にも作用すると考えられる。近年、培養骨格筋細胞を用いた実験において、乳酸によるタンパク合成シグナルの活性化ならびに筋細胞の肥大が報告されている。しかしながら、生体レベルでの骨格筋量に対する乳酸の影響は未解明である。そこで本研究では、乳酸がマウス骨格筋量に及ぼす影響を明らかにすることを目的とした。 【方法】実験には雄性マウス(C57BL/6J)を用い、足底筋とヒラメ筋を対象筋とした。マウスを実験1:対照群と乳酸投与群、実験2:対照群、筋萎縮群および筋萎縮+乳酸投与群、に分類した。筋萎縮群と筋萎縮+乳酸投与群のマウスには、2週間の後肢懸垂を負荷し、筋萎縮を惹起させた。乳酸投与群と筋萎縮+乳酸投与群のマウスには、乳酸ナトリウム(乳酸)の経口投与(1000mg/kg体重、5回/週)を行った。対照群と筋萎縮群には同量の水を投与した。全てのマウスは気温約23℃、明暗サイクル12時間の環境下で飼育された。なお、実験期間中マウスは自由に餌および水を摂取できるようにした。実験開始後2、3週目(実験1)および1、2週目(実験2)にマウスの体重を測定した後、足底筋とヒラメ筋を摘出した。筋重量測定後、体重あたりの筋重量を算出した。また、乳酸の経口投与が血中乳酸濃度に及ぼす影響を確認するために、乳酸の単回経口投与後にマウスの尾静脈から採血し、簡易血中乳酸測定器を用いて血中乳酸濃度を測定した。実験で得られた値の比較には、一元配置分散分析または二元配置分散分析および多重比較検定を用いた。 【結果】本研究で用いた乳酸の経口投与は、マウスの体重に影響を及ぼさなかった。また、乳酸の単回投与後に血中乳酸濃度の一過性の増加が認められた。実験1において、足底筋ならびにヒラメ筋の重量は乳酸投与により増加した。実験2では後肢懸垂により足底筋とヒラメ筋の重量は減少した。一方、乳酸投与は後肢懸垂による筋重量の減少を一部抑制した。 【考察】乳酸は筋肥大および筋萎縮予防の作用を有すると考えられた。細胞外乳酸濃度の増加が培養骨格筋細胞を肥大させることが報告されていることから、乳酸経口投与による血中乳酸濃度の増加が、筋重量の増加に関与していると考えられた。 【結論】血中乳酸濃度の増加は筋重量の増加に作用することが示唆された。本研究の一部は、日本学術振興会科学研究費(17K01762、18K10796、18H03160)、公益財団法人明治安田厚生事業団研究助成、日本私立学校振興・共済事業団「学術研究振興資金」、公益財団法人石本記念デサントスポーツ科学振興財団「助成金」、豊橋創造大学大学院健康科学研究科「先端研究」を受けて実施された。 【倫理的配慮,説明と同意】本研究の動物実験は、所属機関における実験動物飼育管理研究施設動物実験実施指針に従い、所属機関の動物実験委員会による審査・承認を経て実施された。