- 著者
-
曽我 孝
宮本 礼人
- 出版者
- 公益社団法人 日本理学療法士協会
- 雑誌
- 理学療法学Supplement Vol.38 Suppl. No.2 (第46回日本理学療法学術大会 抄録集)
- 巻号頁・発行日
- pp.CbPI1323, 2011 (Released:2011-05-26)
【目的】 関節包や靱帯などの軟部組織の伸張性や、筋緊張により関節可動範囲は変化し、正常可動範囲を超えると関節の緩みや亜脱臼を伴う。そして全身的に関節が緩い場合、靱帯損傷や亜脱臼などを生じる可能性が高くなる。 臨床場面では靱帯損傷症例を経験することがあるが、その中でも膝前十字靱帯(以下、ACL)損傷症例は多い。ACL損傷症例において膝関節弛緩性を評価することは重要であり、ACL再建術後も定期的に評価を行う。そこで今回ACL損傷症例の全身の関節柔軟性と膝関節弛緩性(特にACLに着目して)との間に関連性があるかどうかを検討した。【方法】 今回ACL損傷と診断され、当院で半腱様筋腱、薄筋腱を用いてACL再建術を施行した31名(男性11名、女性20名、平均年齢30.6±11.4歳)を対象とした。関節柔軟性の評価は中嶋のLooseness Testを使用し、手関節、肘関節、肩関節、股関節、膝関節、足関節に脊柱を加えた7部位を評価した。7項目中3項目以上が陽性であれば全身の関節柔軟性は高いと判定した。膝関節弛緩性の評価は膝関節前方弛緩測定器(KNEE LAX3、GATSO社製)を使用し、術前、術後6ヶ月の両膝関節前方移動量を測定した。KNEE LAX3における前方移動量は132Nの力を加えたときの数値(単位:mm)である。得られた結果からLooseness Testと前方移動量(健側、患側、患健差)の相関関係を調べた。統計学的分析としてピアソンの相関係数を用いて検定した。なお有意水準は5%未満(P<0.05)とした。【説明と同意】 対象者には本研究の主旨を十分に説明し、同意を得てから測定を実施した。測定に必要な個人情報、測定結果などは本研究のみに使用し、対象者のプライバシーが保護されていることを加えて説明した。【結果】 今回Looseness Testと術前後の両膝関節前方移動量との間には正の相関が認められると仮定していたが、実際相関が認められたのは術前患側(r=0.5896、P=0.0004)、術前患健差(r=0.4458、P=0.0119)のみであった。【考察】 術前患側の膝関節弛緩性が全身の関節柔軟性と正の相関があることより、ACLを損傷した場合、全身の関節柔軟性が高いほどACL以外の軟部組織の伸張性及び筋緊張が膝関節弛緩性に影響すると考えられる。関節柔軟性を決める要因としては靱帯や関節包、筋肉(筋膜)、腱、皮膚などが挙げられる。この中で特に関節柔軟性に関与しているのが靱帯や関節包で、次いで筋肉(筋膜)と言われ、腱や皮膚の影響は小さい。今回膝関節弛緩性についてはACLに着目して研究を行ったが、ACL本来の柔軟性は全身の関節柔軟性にそれほど関連がないことから、膝関節においては関節包や筋肉(筋膜)が膝関節柔軟性に大きく影響しているのではないかと考えられる。今後、関節包や筋肉などの軟部組織が関節柔軟性にどれほど関連しているかを検討していきたい。【理学療法学研究としての意義】 ACL損傷症例のほとんどがスポーツによる受傷であり、その大半がスポーツ復帰を強く希望されている。その為に再建術を施行されるが、症例によっては手術までに長期間を要する場合がある。関節柔軟性が高い場合、膝関節への負担を考慮すると関節の支持性を高めるTrainingが重要となってくる。また再断裂や反対側の予防的観点からも同じことが言える。