著者
石田 静香 高木 領 藤田 直人 荒川 高光 三木 明徳
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.38 Suppl. No.2 (第46回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.AbPI2070, 2011 (Released:2011-05-26)

【目的】外力によって損傷を受けた骨格筋は、Caイオンの流入により生じる二次的な損傷部と非壊死領域の間に境界膜を形成する(松本, 2007)。筋は損傷を受けると変性、壊死後、再生する、という過程をたどる(埜中, 2001)ことから、再生の前段階である変性、壊死という二次損傷を最小限に抑えることは、次に続く筋の再生過程にも大きく影響すると考えられる。臨床場面、特にスポーツの現場では筋損傷後に寒冷療法を用いることが多い(加賀谷, 2005)。われわれは筋損傷後に与える温度刺激が筋の再生にどのように影響するのかを調べてきた。高木(2009)は、寒冷刺激によってマクロファージの進入が遅れることから、骨格筋の再生が遅延する可能性を報告した。また、Kojimaら(2007)は温熱刺激が筋損傷後の再生に重要な役割を担うと報告している。そこで、われわれは実験動物に筋損傷を惹起させた後、その二次損傷と再生過程が温度刺激によってどのように変化するのかを、寒冷、温熱双方の刺激を加えることで確かめることとした。【方法】8週齢のWistar系雄ラット15匹の前脛骨筋を用いた。動物を筋損傷のみの群(C群:n=5)、筋損傷後寒冷刺激を与える群(CI群:n=5)、損傷後温熱刺激を与える群(CH群:n=5)の3群に分けた。前脛骨筋を脛骨粗面から4mm遠位で剃刀を用いて約2/3の深さまで横切断し、筋損傷を惹起した。筋損傷作製から5分後に20分間の寒冷刺激あるいは温熱刺激を加えた。寒冷刺激は高木ら(2009)の方法に倣い、ビニール袋に砕いた氷を入れ、筋を圧迫しないように下腿前面に当てた。温熱刺激は約42度に温めた湯を入れたビニール袋を下腿前面に当てた。湯を入れたビニール袋は2分毎に交換した。これにより、筋温は寒冷刺激で約20度低下し、温熱刺激で約10度上昇した。筋切断から3,6,12,24,48時間後に、動物を灌流固定し前脛骨筋を採取した後、浸漬固定を行い、エポキシ系樹脂に包埋し縦断切片を作製した。厚さ約1µmで薄切し、1%トルイジンブルーで染色して光学顕微鏡で観察した。【説明と同意】全ての実験は所属施設における動物実験に関する指針に従って実施した。【結果】損傷3時間後、全群で損傷部とその周辺に染色性の低下が見られた。これは48時間後まで徐々に進行した。CH群での染色性の低下が著明で、CI群では低下が抑制されていた。損傷3時間後から、全群で境界膜形成が進行し、12時間後には大部分の筋線維で境界膜が形成された。非壊死領域で、筋線維の長軸方向と平行に伸びる細長い空胞が3,6時間後に観察された。1視野あたりの空胞数の平均を調べたところ、C群1.0個、CI群2.3個、CH群4.3個であった。CI群、CH群ではC群と比較して大きな空胞が観察された。損傷3時間後、全群で単核の細胞が損傷筋線維内に観察され、本細胞は形態学的にマクロファージであると判断できた。筋線維内に進入したマクロファージ数は48時間後まで増加し続けた。筋衛星細胞は6時間後から全群で観察され、24時間後まで増加した。12時間後において全群で肥大化した筋衛星細胞が観察された。CH群では24時間後に、C群では48時間後に筋芽細胞が明らかに観察できたが、CI群では48時間後でも明らかな筋芽細胞は観察できなかった。【考察】損傷3時間後から観察された壊死領域の染色性の低下は、Caイオン流入による蛋白分解を示していると考えられる。CH群において染色性の低下が進行していたことから、今回の温熱刺激は蛋白分解を促進した可能性がある。CI群では染色性の低下が抑制されたことから、寒冷刺激は蛋白分解を抑制したと考えられる。損傷3,6時間後、境界膜が不完全な領域で、筋線維内に空胞が観察された。すなわち、この空胞は境界膜が不完全な段階でCaイオンが筋線維内に部分的に流入したために生じたと考えられる。CH群で多くの空胞が観察されたことは、温熱刺激により蛋白分解が促進され、境界膜形成前に二次損傷が進行した現象であろう。CI群における多数の空胞形成は、寒冷刺激により蛋白分解が抑制されたものの、境界膜形成や細胞小器官の集積がそれ以上に遅延したために生じたと考えられる。CH群における24時間後の筋芽細胞の出現は、骨格筋の再生過程の初期には温熱刺激が効果的である可能性を示唆していると考えられる。【理学療法学研究としての意義】本研究により、損傷急性期に与える温熱刺激は二次損傷を助長するが、再生過程においては効果的であることが示唆された。今後の臨床応用に興味深い示唆を与えたと思われる。
著者
筧 重和
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.38 Suppl. No.2 (第46回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.GbPI1477, 2011 (Released:2011-05-26)

【目的】性同一性障害とは,医学的な疾患名である.性同一性障害の定義は,生物学的には完全に正常であり,しかも自分の肉体がどちらの性に所属しているかをはっきり認知していながら,その反面で人格的には自分が別の性に属していると確信している状態,とされている.治療としては,第1段階(精神療法),第2段階(ホルモン療法),第3段階(手術療法)の順で行なわれる.精神療法では,これまでの経過や今後の人生において,どちらの性別で暮らすのが良いのかを検討する.精神療法は,ホルモン療法や手術療法の前,あるいは継続中,終了したあとにも引き続き行なわれる.第2段階のホルモン療法は,十分な精神療法が行われた後に行なわれる.身体的,精神的な安定感を得るためにはホルモン療法が必要と判断された場合は,ホルモン療法を行なう.男性が女性性を望む時は女性ホルモンを,女性が男性を望むときは男性ホルモンが投与される.第3段階の手術療法は,外性器形成,乳房・内性器切除が必要とされた時に行なわれる.今回,入学試験合格通知後,性同一性障害である事の報告を受け対応を行なったので報告する.【方法】平成15年秋より大学病院にて,3~6ヶ月毎に精神科医師との面談治療を受け,並行して染色体検査や心理検査などを受けていた.翌年春より,院外の美容形成外科にてホルモン治療を開始した.ホルモン治療は,2週間隔で筋肉注射を行っていた.同年夏,同病院にて美容形成手術を行った.改名については,家庭裁判所へ申し立てを行い受理されていた.その後,理学療法士を志し平成16年入学試験受験に至った.入学後,戸籍変更を行うために性別再判定手術を受け,その後書類を家庭裁判所へ提出・受理を経て戸籍変更が認められた.【説明と同意】第45回日本理学療法士学術大会で発表を行うにあたり,本人の同意を得ている.【結果】入学に際し,厚生労働省(以下厚労省)に確認を行った.確認内容は,入学時の戸籍の性別と卒業時の戸籍の性別が変わる可能性があり,このような場合においても国家試験受験資格および国家資格取得に問題は生じないか、という点である.厚労省より,学校が入学を認めれば特に問題はないが文部科学省(以下文科省)にも確認をして欲しい,との返答であった.文科省に確認した所、厚労省との返答と同じであり,学校が入学を許可すれば問題ない,との事であった.問い合わせ,返答についてはすべて電話で行なった.厚労省,文科省の返答後,入学を希望する受験生と現在の状況確認を行なった.受験生よりの希望は,次の2点であった.戸籍上の性別ではないトイレの使用,更衣室の利用,であった.この点に関して,学校で協議し使用の許可を認めた.学校より受験生には,カリキュラムの中で体表解剖学実習や徒手筋力検査の演習講義があり,学生同士でも体に触れる事がある事を伝えた.この点に関しては,受験生より戸籍上の性別ではない学生とペアを組ませて欲しい,との要望があった。この点に関しては,教員がペアの組み合わせを配慮する事により,特に問題なく演習講義を受講することができた.入学後,特に大きな問題は起きず卒業している.【考察】今回,性同一性障害により,入学後戸籍が変わることは国家試験受験資格,国家資格取得に際して何の問題もなかった.学内の対応としては,教員が学生の状況を把握し,教員と学生が綿密に対応を検討する事で学内生活に支障をきたさないようにすることができた.養成施設として受入を行う際には,本人と綿密な打ち合わせを行い,入学後問題が起きないように対応することが重要であると考える.【理学療法学研究としての意義】さまざまな疾患や障害がある中でも,理学療法士を志す者は少なくない.理学療法士が医療技術者の一員として,またリハビリテーションに携わる中では,これらの者に対し門戸を開いていく必要がある.養成施設として入学を許可していく中では,理学療法士資格取得までの対応を今後更に検討する必要があると考える.
著者
森田 恵美子 青山 宏樹 梶本 浩之
出版者
日本理学療法士協会(現 一般社団法人日本理学療法学会連合)
雑誌
理学療法学Supplement Vol.38 Suppl. No.2 (第46回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.FcOF1111, 2011 (Released:2011-05-26)

【目的】重症筋無力症(以下、MG)患者にとって、気候や入浴等による外気温の変化は、筋出力低下を引き起こす一要因であるものの、このような症状は一般的には知られていない。MGの簡易的な診断方法としてアイステストがある。これは閉眼した眼瞼の上に、袋に入れた氷を2分間置き、眼瞼下垂が2mm以上改善すれば陽性と判別する方法である。今回はこのアイステストをヒントに、寒冷刺激によってMG患者の疲労度が軽減するという仮説を立て、反復誘発筋電図テスト(Harvey-Masland test)を用いて漸減(waning)現象に着目し検証したので報告する。【方法】対象者は12年前にMGを発症し胸腺全摘出を施行した女性(年齢42歳)1名である。Osseman分類II-A、抗AchR抗体2200nmol/L、症状として日内変動による眼瞼下垂、複視、全身脱力感はあるが、就労を含む日常生活に支障はない状態である。今回の実験はHarvey-Masland testのプロトコールに従って実施した。はじめに、尺側手根屈筋に対して筋疲労を生じさせるため、誘発電位・筋電図検査装置(Nicolet社製Viking Quest S403)を用いて、尺骨神経に最大上刺激(10.2mV)にて周波数50Hzの頻度で電気刺激を5秒間与えた。2分間の休息を入れた後、3Hzおよび1Hzにて尺骨神経を肘関節部内側上顆の直下から刺激し、尺側手根屈筋の表面筋電図を導出した。実験条件は、反復神経刺激を与える前に氷嚢で尺側手根屈筋筋腹を20分間冷却した寒冷刺激および介入なしの2条件とした。また尺側手根屈筋筋腹部の表在温度も測定した。各条件において計測は7回実施し、導出された筋電図の初発に対する5発目の振幅の割合を算出し、平均漸減率を求めた。一元配置分散分析および多重比較にて統計学的検討を行った。【説明と同意】対象者に対して、ヘルシンキ宣言に従い事前に本研究の主旨を説明し、実験に参加する同意を得た。【結果】電気刺激によって誘発された筋電図の漸減率を比較したところ、介入なしの1Hzでは漸減率が92.8%、3Hzでは76.8%であった。寒冷刺激の漸減率は1Hzで99.2%、3Hzでは102.8%であった。介入なしでは1Hzに比べ3Hzの電気刺激の方が有意(P<0.01)に漸減率が高かった。3Hzの反復刺激においては、介入なしに比べ寒冷刺激の方が漸減率が有意(P<0.01)に低かった。また、介入なしの1Hzに比べ寒冷刺激の3Hzの方が漸減率が有意(P<0.01)に低かった。尺側手根屈筋筋腹部の表在温度は介入なしで31.2±0.4度、寒冷刺激で23.6±0.8度であり、両者で有意差が認められた(P<0.05)。【考察】今回の実験では、介入なしの条件下での1Hzの刺激では活動電位の漸減は見られなかったものの、3Hzの刺激では76.8%の漸減が認められwaning現象が確認された。Waning 現象とは、5Hz以下の刺激下で5発目の活動電位の振幅が初発の振幅の90%以下になる現象を示すが、Harvey-Maslandによると、健常者およびMGでは1Hzの刺激を与えても筋活動電位の振幅には減衰は起こりにくく、3Hzの刺激では健常者では減衰は全く起こらないか、せいぜい7%以下である一方、MG患者では顕著に出現するとしている。今回は、このHarvey-Maslandのテストのプロトコールに沿って実施したことで、介入なしでの3Hzの刺激のみにwaning現象が出現したと考えられ、今回の対象者がMG特有の波形を示すことが確認された。この対象者に寒冷刺激の条件下で3Hzの反復電気刺激を与えたところ、漸減率は102.8%でありwaning現象は認められなかった。この結果は寒冷刺激によって表在温度が23.6度まで下がったことで、アセチルコリン分解酵素であるコリンエステラーゼの作用が介入なしよりも抑制されたことが一要因ではないかと考える。以上のことより今回の実験では、MG患者に対しての寒冷刺激が神経筋接合部での疲労および筋出力低下を軽減させる一助となることが示唆された。【理学療法学研究としての意義】現在MG患者の運動療法においては、疲労回避のための低負荷・高頻度の運動が推奨されている。しかし、MG患者が外気温もしくは自身の表在温度を配慮し運動を行った報告はほとんど見当たらない。寒冷刺激が実際のパフォーマンス後の筋出力低下、疲労度を軽減することが可能であれば、運動実施前の寒冷療法が有効な手段となりうるのではないかと考える。
著者
中村 直樹 伊藤 一也 蒲田 和芳 秋山 寛治
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.38 Suppl. No.2 (第46回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.AeOS3001, 2011 (Released:2011-05-26)

【目的】 腰痛の生涯有症率は49-70%,時点有症率は12-30%とされる(van Tulder et al.2002)。その原因は十分解明されておらず、また予防法も未確立である。 Chest grippingは上部腹筋群の過緊張により下位胸郭の展開が制限される状態(下位胸郭横径拡張不全)のことである(Lee)。これは胸椎運動を制限し,腰椎運動への負荷の増大をもたらすことで腰痛の一因となり得ると考えられている。解剖学的にChest grippingに拮抗する作用を持つと考えられる筋として下後鋸筋(SPI)が挙げられる。SPIはT11-L2,3に起始し,下位肋骨に付着する。Vilensky et al.は上後鋸筋(SPS)とSPIに関する文献のレビューにより,SPSとSPIのどちらも呼吸機能がないと示唆すると結論付けた(Vilensky et al. 2001)。しかし,これらは解剖学的な見解であり,生体内で下後鋸筋がどのような役割を有しているのかは不明である。本研究では超音波と表面筋電図(SEMG)を用い,健常者における下後鋸筋の運動学的役割を調査すること,またSEMGとワイヤ電極による筋電図を比較してSEMGの妥当性を検証することを目的とした。【方法】 対象者の包含基準は,18-30歳,男性,健常者であり,除外基準は腰痛,医学的リスク,精神障害者とした。SEMGを用い,右側の下後鋸筋,広背筋,胸部脊柱起立筋,腰部脊柱起立筋,外腹斜筋の最大努力時の筋活動を測定した。検査試技は体幹右回旋,左回旋,伸展,側屈,胸椎伸展,プッシュアップとした。次に,超音波を用いて安静時と収縮時の右側下後鋸筋を撮像した。検査試技は安静,体幹右回旋,胸椎伸展,プッシュアップとした。測定肢位,筋力発揮の指示はSEMGと同様とした。最後にワイヤ電極を用い,一人の対象者において広背筋活動と分離した下後鋸筋の単独活動が可能かどうかを調査した。検査試技は単独収縮が可能と思われる四つ這い位での上肢挙上,側臥位での体幹回旋,ATM2 (Backproject corp.)の骨盤・胸椎ベルトを用いた最大下努力での体幹後屈動作とした。いずれも各試技5回測定し,休憩時間は各試技間30秒とした。統計は統計解析ソフトPASW statistics 18を用いた。各試技における下後鋸筋の作用を評価するために,%MVC,SPI筋厚の記述的統計量として平均値,95%信頼区間を算出した。また,%MVC,SPI筋厚調査の再現性を調べるために級内相関係数ICC(1,3)を算出した。【説明と同意】 ヘルシンキ宣言の精神に基づき作成された同意書に署名した10名を対象とした。【結果】 筋活動,下後鋸筋筋厚のICC(1,3)はそれぞれ0.987(95%CI:0.962-0.996),0.947(95%CI:0.851-0.986)と高い再現性を示した。下後鋸筋は体幹回旋で筋活動の増加,筋厚の増大を示し,広背筋とほぼ同様のパターンであった。下後鋸筋の安静時,同側回旋時の筋厚はそれぞれ3.49mm(3.13-3.84mm),4.98mm(4.15-5.81mm)であった。下後鋸筋の同側回旋時の%MVCは75.1%(58.3-91.9%)であった。ワイヤ電極により,下後鋸筋単独収縮を呈した動作は、側臥位での体幹同側回旋,四つ這い位(脊椎伸展位)での上肢屈曲,ATM2伸展抵抗運動であった。SEMGとワイヤ電極は最初の2動作で一致した活動パターンを示した。【考察】 本研究では四つ這い位で脊柱過伸展位での上肢屈曲および側臥位での体幹回旋において,下後鋸筋の独立した活動が得られた。前者は,上肢屈曲により広背筋の活動を抑制し、脊柱過伸展位を保つことにより腹斜筋の活動を抑制したことから、下位胸郭の回旋の役割を持つ下後鋸筋の独立した活動が誘発されたためと考察される。後者は,上位胸郭に抵抗を加えたことにより、広背筋と腹斜筋の活動が抑制されたと解釈された。以上の結果より、下後鋸筋は同側下位肋骨を後方に引く作用を有し、片側性の活動は下位胸椎の回旋、両側性の活動は下位胸郭の横径拡張および胸椎伸展に貢献すると推測される。本研究では超音波画像の観察下で,ワイヤ電極を筋腹内に埋設した。導出された筋電図は,超音波画像における筋厚増大と一致した。また,その活動はSEMGにおいても検出することが可能であることが示された。一方,本研究の限界として,ワイヤ電極を用いた測定におけるサンプルサイズ不足が挙げられる。以上より,今後下後鋸筋に関する筋電図学的研究において表面電極を用いることが可能であると結論付けられる。また、下後鋸筋の両側性の活動は下位胸郭の横径拡張の主働筋になりうることが示唆され、これが下位胸郭の横径拡張制限であるchest grippingに対する拮抗的な作用を発揮することが期待される。【理学療法学研究としての意義】 下後鋸筋の片側性の活動は下位胸郭を後方に引く作用を有し,両側性の活動は下位胸郭の展開の主働筋となることが示唆された。今後,後屈時に増悪する腰痛への応用が期待される。
著者
武藤 静香 古賀 寛唯 髙宗 智宏 中山 朋大 野瀬 雅美 平田 久乃 細木 悠孝 宮本 朋美 浅海 靖恵
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.38 Suppl. No.2 (第46回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.AdPF2008, 2011 (Released:2011-05-26)

【目的】利き手、非利き手が持つ、運動機構への影響力の差異についての多くの先行研究がある。なかでも学習転移効果に関しては、利き手から非利き手よりも、非利き手から利き手への方が大きいとする報告が多く、非利き手で練習した後の利き手の課題遂行がその逆順番による課題遂行より成績が良いとする従来からの我々の研究結果とも一致する。今回は、学習転移過程での脳環境の変化を捉える目的で、非利き手から利き手の順による課題遂行時の左・右脳血流量を、近赤外分光法(NIRS)を用いて測定したので、その結果を報告する。【対象と方法】対象は、右利き健常女子学生10名。方法は、20秒間のピンポン玉回転数とNIRSによる脳血流変化量を練習前後に測定する。回転数測定では、ピンポン球を2個把持し、左手は反時計回り、右手は時計回りに、初期学習による影響を除外する目的にて左右とも数回練習させ、回数がプラトーに達した状況下で最高回数を記録する。NIRS計測では、多チャンネルNIRS(日立メディコ、ECG-4000)を使用した。プローブは、脳波国際10/20法を参考にT3-C3-Cz-C4-T4を中央列とし,左プローブ白14をC3、右プローブ白24をC4とするよう設置した。課題条件として、リズム動作課題と最大動作課題を、利き手・非利き手の順に実施した。また、運動感覚領野を同定するために、事前にタッピング動作を行い、脳血流が平均値以上のチャンネルを関心領域(ROI)と設定した。5セット連続して得られた酸素化ヘモグロビンデータをチャンネルごとに加算平均し、ROIの平均値を左右ごとに算出し、被験者10人の平均値を代表値として検定した。統計処理は一元配置分散分析を用い、危険率5%未満を有意とした。【説明と同意】対象者に研究内容を書面にて説明し同意を得て実施した。【結果と考察】1)回転数は、練習後、左手だけでなく右手でも有意な増加が認められた(左手:P=0.0005、右手:P=0.02)。これは、左手の運動学習が右手のパフォーマンス向上に影響を与えたものであると考える。2)血流の練習前後の比較では、左手リズム動作時、左右脳ともに有意な減少(左脳:P=0.04,右脳P=0.02)が、右手リズム動作時、右脳において減少傾向が認められた。これは左手の運動学習により、複雑な動作が容易な動作に変化し、少ない血流で同等の動作が行えるようになったためと考える。さらに、単CHでみると、左手リズム動作時の右脳11,12,16CH(11CH:P=0.02, 12CH:P=0.03, 16CH:P=0.03)と右手リズム動作時の右脳12,21CH(12CH:P=0.05, 21CH:P=0.02)に有意な減少が認められ、これらは一次運動野として報告されているC3,C4の周囲のチャンネルに相当する。最大動作時では、左最大動作時、右脳において増加傾向を示した。これは練習によって運動学習が行われた結果、回数(仕事量)が増加し、左右脳ともに有意に脳血流量の増加がみられたと考える。3)血流の左右脳の比較では、練習前の左手リズム動作において、右脳に比べ左脳の脳血流が有意に少なく(P=0.004)、その傾向は練習後も認められた。それに対し、右手運動時、左脳・右脳の血流変化にほとんど差はなかった。先行研究では、複雑な運動では、同側の運動野、運動前野、感覚野の活動が、また運動学習中には、両側の一次運動野、背側運動前野、補足運動野、大脳基底核、小脳といった領域の活動が報告されており、私たちの結果でも、右リズムに関しては、左脳と右脳に同等の活動が見られた。しかし左手リズムにおいては、左脳の血流が有意に少なく、このことより、私たちは右手と左手では運動学習時のネットワークシステムに違いがあり、左手の複雑動作では同側半球の脳血流を抑制し、補足運動野、大脳基底核、小脳といったNIRSでは測定不能な部位を賦活させたのではないかと考える。単CHでみると前後比較と同様、一次運動野の周囲で有意差が認められた。【理学療法学研究としての意義】今回、非利き手の運動学習は、利き手の運動遂行に転移することが示唆された。学習転移という理論を生かし、非利き手の訓練を行うことで利き手の機能回復の促進につながる可能性があることは非常に興味深いことであり、今後のリハビリテーションにおいて検討していく必要があると考える。また、多チャンネルNIRSは、運動系の生理学的指標となりえ、リハビリテーションに応用可能であることが示唆された。今後、練習の頻度や期間、男女差、利き手が及ぼす影響など条件を変えてさらに検討していきたい。
著者
伊藤 祥江 髙木 聖 小川 優喜 瀧野 皓哉 早藤 亮兵 川出 佳代子 今村 隼 稲垣 潤一 林 由布子 中村 優希 加藤 陽子 森 紀康 鈴木 重行 今村 康宏
出版者
日本理学療法士協会(現 一般社団法人日本理学療法学会連合)
雑誌
理学療法学Supplement Vol.38 Suppl. No.2 (第46回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.BbPI1176, 2011 (Released:2011-05-26)

【目的】2000年に回復期リハビリテーション病棟(以下、リハ病棟)制度が創設され、医療施設の機能分化が進められた。急性期病院における在院日数は短縮され、長期の入院を必要とする脳卒中片麻痺患者はリハ病棟を有する病院への転院を余儀なくされる。脳卒中ガイドラインにおいては早期リハを積極的に行うことが強く勧められており、その内容には下肢装具を用いての早期歩行訓練も含まれている。しかし、装具処方から完成までには通常1~2週間を要することなどから、急性期病院における片麻痺患者に対する積極的な早期装具処方は容易ではなく、装具適応患者に対する装具処方のほとんどが、リハ病棟転院後に行われているのが実情であろう。その結果、歩行能力の改善が遅れ、入院期間が長くなっていることが推測される。当院は人口約14万7千人の医療圏における中核病院で、平成18年にリハ病棟を開設した。現在は当院一般病棟からの転棟患者ならびに近隣の救急病院からの転院患者も広く受け入れている。今回われわれは、当院リハ病棟に入院した脳卒中片麻痺患者において、下肢装具作製時期が発症から退院までの日数におよぼす影響について検討したので若干の考察とともに報告する。【方法】平成18年12月から平成22年7月までの間に当院リハ病棟に入院し、理学療法を施行した初回発症の脳卒中片麻痺患者のうち、下肢装具を作製した32例を対象とした。内訳は脳梗塞25例、脳出血7例、男性15例、女性17例、右麻痺13例、左麻痺19例、平均年齢69.5±13.3歳であった。当院の一般病棟からリハ病棟に転棟した群(以下、A群)と他院での急性期治療後に当院リハ病棟に入院した群(以下、B群)の2群に分けた。これら2群について(1)作製した装具の内訳ならびに(2)発症から当院リハ病棟退院までの日数について調査した。また、(2)に含まれる1)発症から装具採型までの日数、2)発症からリハ病棟入院までの日数、3)リハ病棟入院から装具採型までの日数、4)リハ病棟入院から退院までの日数の各項目についても合わせて調査した。2群間の比較は対応のないt検定を用いて行い、5%未満を有意な差と判断した。【説明と同意】本研究はヘルシンキ宣言をもとに実施し、収集した個人情報は当院の個人情報保護方針をもとに取り扱っている。【結果】(1)A群は長下肢装具(以下、KAFO)3例、金属支柱付短下肢装具(以下、支柱AFO)13例、プラスチック製短下肢装具(以下、P-AFO)1例であった。B群はKAFO2例、支柱AFO6例、P-AFO7例であった。(2)A群で137.2±32.5日、B群では166.8±30.2日でA群の方が有意に短かった。(2)-1)A群で22.5±9.8日、B群では48.2±12.4日でA群の方が有意に短かった。(2)-2)A群で21.9±7.3日、B群では33.8±11.3日でA群の方が有意に短かった。(2)-3)A群で0.65±9.8日、B群では14.5±7.1日でA群の方が有意に短かった。(2)-4)A群で115.2±31.5日、B群では131.5±32.3日でA群の方が短かったが、有意差はみられなかった。【考察】本研究では、装具作製時期ならびにリハ病棟入院時期に着目し、発症からリハ病棟退院までを4つの期間に分けて入院日数との関連について検討した。その結果、リハ病棟入院日数においては両群間に差はなかったが、A群においてはリハ病棟転棟とほぼ同時期に装具の採型がされており、発症からの日数も有意に短かった。このことから、早期の装具処方によりリハ病棟転棟後もリハが途絶えることなく継続することが可能で、早期に歩行が獲得できたものと思われる。その結果、発症から退院までの期間を短縮したと考えられる。一方、B群においてはリハ病棟入院時期のみならず装具作製時期も有意に遅かった。リハ病棟入院日数にはA群と差がなかったことから、作製時期が発症から退院までの日数に影響をおよぼしたものと考えられる。急性期病院においては在院日数の短縮、作製途中での転院の可能性、また義肢装具士の来院頻度など積極的な装具作製を妨げる多くの要因があることが推測される。近年、急性期病院において装具が作製されることは少なく、リハ病院での作製件数が増加傾向にあること、また、リハ病棟が急性期にシフトしてきていることが報告されている。B群では当院リハ病棟転院から装具採型まで約2週間要していたことから、今後は転院後早期から装具処方について検討する必要があろう。2007年から連携パスが運用され始めている。それが単なる情報提供に留まらず、片麻痺患者に対する早期の装具処方、スムーズなリハの継続、そして早期の在宅復帰につながるよう連携することが必要であろう。【理学療法学研究としての意義】脳卒中発症後の早期装具作製は早期歩行獲得、在院日数の短縮に結びつく。それを推進するための地域連携について考えるものである。
著者
那須 久代 秋田 恵一
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.38 Suppl. No.2 (第46回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.AbPI1095, 2011 (Released:2011-05-26)

【目的】 Eisler(1912)は,前鋸筋を上部,中部,下部の3部に区分している。またGreggら(1979)は,前鋸筋の機能について,上部は肩甲骨回旋中心の形成に,中部は肩甲骨外転に,下部は肩甲骨上方回旋に作用すると述べている。本研究の目的は,前鋸筋各部における形態とその神経支配の特徴を解析し,前鋸筋を機能解剖学的に理解することにある。【方法】 本研究には東京医科歯科大学解剖実習体5体10側を用いた。解剖実習体は8%のホルマリンで固定され,50%エタノールにて保存されていた。前鋸筋各部における筋束の重なりを明らかにしたのち,本筋を支配する神経を調査し,さらにそれらの神経の筋内における分布を解析した。【説明と同意】 本研究に用いられた解剖実習体は,東京医科歯科大学献体の会の方々の生前の同意により献体された。【結果】 筋束の重なり:前鋸筋は,全例において3部に明確に分けられた。上部は複数の筋束が集合して,他部に比べて厚い筋束をなし,肩甲骨上角に停止していた。中部の筋束はほとんど重なり合わずにほぼ水平に走行して肩甲骨内側縁に停止していた。下部は2~4つの筋束が1つのシートを形成し,より下位の筋束ほど腹側に位置し,肩甲骨下角に停止していた。また下部の中でも最下の筋束は,肩甲骨下角の内側に回り込み,ときとして菱形筋に連続しているものも観察された。 前鋸筋の支配神経:前鋸筋の中部ならびに下部は,主にC5,6,7の分節から成る長胸神経の本幹からの枝によって外側面から支配されていた。前鋸筋の上部には,長胸神経からの枝に加えて,C4,5に起始した菱形筋枝からの分枝や,長胸神経の本幹とはかなり近位で分かれた独立枝も複数関与していた。これらの前鋸筋への神経の根は,ときとして中斜角筋を貫いているのが観察された。中部に分布する神経は,筋内に進入したのち,停止側へと広がっていた。一方,下部に分布する神経は,筋束の中央付近で筋内に進入し,起始と停止の両方向に向かって広がっていた。調査した10側中7側において,前鋸筋への肋間神経からの枝の分布を認めた。これには第4~9肋間神経外肋間筋枝からの単独または複数の枝が関与していた。【考察】 本研究の結果,形態学的にも,上部,中部,下部にはそれぞれの特徴があることが明らかとなった。上部は中部・下部とは異なり,菱形筋枝からの分枝や,長胸神経の本幹とは独立した枝が分布した。これらの枝が中斜角筋を貫く場合があることから,中斜角筋のスパズムによる前鋸筋への影響が示唆される。中部は,筋束の走行方向から純粋に肩甲骨を外転する部位であるといえる。下部は,筋束が肩甲骨下角の内側にまで至ることから肩甲骨上方回旋への関与が大きいことが推測される。また,神経支配のパターンが上・中・下部でそれぞれ違うことから,神経損傷による前鋸筋の機能障害を論ずるときには各部の機能を分けて理解しておく必要があると考えられる。【理学療法学研究としての意義】 前鋸筋は,これまで一様な筋として捉えられることが多かったが,今回の調査により,各部によって筋束の重なりや走行,神経支配のパターンが異なることが明らかとなった。このことから,前鋸筋の機能を考えるときには部位ごとに分けて検討する必要があることが示唆された。
著者
福井 勉 大竹 祐子
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.38 Suppl. No.2 (第46回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.AaOI2006, 2011 (Released:2011-05-26)

【目的】 身体重心を制御するため支持基底面内で足関節と股関節で協調した運動が行われていることはよく知られている。またどちらかの関節で運動制限を有しても他の関節で代償運動している症例を良くみかける。しかしながら、この両方の関節の動作時の関係性を明確に示したものはあまり見当たらない。そこで、我々は荷重位での骨盤前後運動の際の股関節と足関節の角度の相関分析を用いて検討したので報告する。【方法】 対象は下肢などに運動制限を有しない男性健常人14名(年齢24.1±3.38歳、身長172.7±6.43cm、体重64.3±7.00cm)とした。被験者に対して立位足幅25cmの幅で、下肢を平行に立った立位から、骨盤を前方-後方および右方-左方に可及的に移動するよう指示した。それぞれの運動の時間は5秒で最大位置に達するように指示し、数回の練習を行った後に計測した。身体運動検出には、VICON-MX(カメラ8台,sampling rate 120Hz)にて計測した。モデルは、Plugin-gait下肢モデルを用い、足関節底背屈、回内外および股関節屈曲伸展、内外転角度を求めた。マーカー位置は左右(上前腸骨棘,大腿外側,膝外側,下腿外側、外果、踵、第2中足骨頭)計16個であった。足関節(距骨下)回内外角度と股関節内外転および足関節底背屈角度と股関節屈伸角度について時系列データの相関分析を行った。【説明と同意】 本研究は文京学院大学倫理委員会承認を受けた。被験者に対して、本研究への参加は被験者の自由意志によるものであることを十分に説明し、研究に参加しないことによる不利益がないことを述べた。データは匿名化の処理を行い、個人情報を含むファイルは文京学院大学大学院スポーツマネジメント研究所内パソコンに保管した。研究成果の公表の場合は、個人が特定されないよう配慮を行った。被験者各人に書面と口頭で「対象とする個人の人権擁護、研究の目的、方法、参加することにより予想される利益と起こるかもしれない不利益について、個人情報の保護について、研究協力に同意をしなくても何ら不利益を受けないこと、研究協力に同意した後でも自由に取りやめることが可能であること、計測中生じうる危険」を説明し、作成した同意書にて本研究協力に関する同意を得た。【結果】 足関節回内外角度と股関節内外転の相関係数はr=0.85~0.99(p<0.001;n>1000)であり、足関節回内時に股関節内転、足関節回外時に股関節外転が生じた。また足関節底背屈角度と股関節屈伸角度の相関係数はr=0.75~0.99(p<0.001;n>1000)であり、足関節背屈時に股関節伸展、足関節底屈時に股関節屈曲が生じた。それぞれの角度変化は一方が大きくなるほど他方も大きくなる関係であった。【考察】 スクワット動作中の足および股関節の関係を検討した我々の先行研究では、足関節背屈角度制限を人為的に起こすと股関節屈曲角度を大きくして代償し、また逆に股関節屈曲角度を制限すると足関節背屈運動で代償した。すなわち相補的関係を示したわけであるが、これはどちらか一方の関節が可動域制限を有していても他方の関節が補うものであった。Trendelenburg徴候が慢性化すると、徐々に距骨下関節を回内位にして足部を床に接地するようになってくる症例を見かけることは多い。この徴候は股関節内転位であり骨盤外側移動も起こすため本実験結果と良く一致し、原因は股関節にあると考えられ距骨下関節の動きはその結果であると考えられる。一方、前距腓靭帯損傷後には距骨下回外位を避けるため、骨盤を外側へ移動させて代償する症例もしばしば観察できる。その際、当然であるが骨盤側方移動は代償運動であり、内反捻挫を原因とする結果的な代償である。原因は足関節であり、股関節はその結果である。そのため理学療法として骨盤側方移動に対してアプローチするのではなく、原因である足関節を対象とすることが正当であることも示唆していると考えられる。本研究での骨盤運動の指示は足関節、股関節どちらかを制御因子としたわけではないため両者の相関関係は明確にあると考えられる。これは支持基底面上に身体重心を位置させる作用を足、股関節の双方で相補的に有することを示していると考えられる。【理学療法学研究としての意義】荷重位における足関節と股関節の前額面、矢状面における相互関係が本研究で明確となったと考えられる。足関節、股関節どちらかの関節の機能に障害が生じた場合、もう一方の関節でどのように代償させたらよいか、あるいは治療アプローチの方法論に展開可能となる。また運動学的な関係性とともに、外乱時の身体応答の検討のみでなく日常の姿勢にもこのような現象は合致した。すなわち理学療法の治療介入の順序を規程することにつながると考えられる。
著者
西浦 友香 大野 善隆 藤谷 博人 後藤 勝正
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.38 Suppl. No.2 (第46回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.AbPI2038, 2011 (Released:2011-05-26)

【目的】近年、スポーツ現場では筋損傷の回復を促すために、物理療法の1つである微弱電流刺激(microcurrent electrical neuromuscular stimulation:MENS)が行われている。肉離れ等の筋損傷時において、受傷直後からのMENSにより早期に競技復帰可能になるケースが報告されており、MENSには損傷した組織の修復を促進させる可能性のあることが指摘されている。我々はこれまで、MENSは骨格筋組織幹細胞である筋衛星細胞を活性化させることで損傷からの回復を促進することを確認した。しかし、損傷骨格筋回復過程には、筋タンパク合成系シグナルの活性化が必要あるものの、発生するシグナルに関しての報告はみられない。筋タンパク合成に係るシグナルは複数報告されているが、インスリンシグナル下流に位置するAkt-p70 S6 kinase系の関与が注目されている。そこで本研究では、MENSによる損傷骨格筋回復過程におけるAkt-p70 S6 kinase系の関与について検討した。MENSが損傷骨格筋の再生を促進する分子機構が明らかになれば、リハビリテーションをはじめとする広範分野にMENSの適応範囲が拡大すると考えられる。【方法】実験には生後10週齢の雄性マウス(C57BL/6J)のヒラメ筋を用いた。マウスを無作為に、1)筋損傷群、2)筋損傷+MENS群の2群に分類した。マウスに対して2週間の後肢懸垂を負荷した後、通常飼育に戻した。後肢懸垂により荷重が除去されたヒラメ筋では、その後の通常飼育による再荷重により軽微な部分的筋損傷が惹起される。マウスは室温23±1°C、明暗サイクル12時間の環境下で飼育され、餌および水は自由摂取とした。後肢懸垂終了1日後より、麻酔下にてMENS処置を施行した(Trio300、伊藤超短波社製)。MENS処置後、経時的にマウス両後肢よりヒラメ筋を摘出し、即座に結合組織を除去した後、筋湿重量を測定した。筋湿重量測定後、液体窒素を用いて急速凍結し、-80°Cで保存した。摘出したヒラメ筋はprotease inhibitor及びphospatase inhibitorを含むライセートバッファーを用いてホモジネートし、Bradford法により筋タンパク量を測定した。さらに、ウェスタンブロット法により、Akt、p70 S6 kinase、p38 MAPKの発現量ならびに各酵素のリン酸化レベルを評価した。【説明と同意】本研究は、豊橋創造大学が定める動物実験規定に従い、豊橋創造大学生命倫理委員会の審査・承認を経て実施された。【結果】MENSによる体重への影響は認められなかった。後肢懸垂により低下した筋湿重量および筋タンパク量は、懸垂後の通常飼育により徐々に回復した。懸垂解除1日後に、Aktおよびp70 S6 kinaseのリン酸化レベルの一時的な増加が認められた。懸垂後に観察される筋湿重量および筋タンパク量の回復は、MENSにより促進した。また、MENSによりAktおよびp70 S6 kinaseのリン酸化レベルの再度の増加、ならびにp38 MAPKの活性化を引き起こした。【考察】MENS処置は、損傷した骨格筋の再生を促進することが確認された。損傷筋の回復過程において、Aktおよびp70 S6 kinaseの一時的な活性化が生じるが、MENSにより回復後期にもAkt、p70 S6 kinaseおよびp38 MAPKの活性化を引き起こすことが明らかとなった。MENSはこれらの酵素の活性化が筋タンパク合成を促進することで、損傷した骨格筋の回復を促進することが示唆された。【理学療法学研究としての意義】本研究において、MENSによる損傷筋の回復促進効果にはAkt-p70 S6 kinase系ならびにp38 MAPKが関与していることが示唆された。本研究の知見は、MENSによる損傷骨格筋回復の分子機構の解明につながり、今後種々の疾患や傷害による骨格筋損傷に対する効果的なリハビリテーション技術の開発、ひいては医療費の抑制に寄与できると考えている。さらに、物理療法の1つである電気刺激療法に対して貴重な科学的知見をもたらすことで、理学療法学の発展に貢献できると考えている。本研究の一部は、文部省科学研究費(B, 20300218; A, 22240071; S, 19100009)ならびに日本私立学校振興・共済事業団による学術振興資金を受けて実施された。
著者
伊藤 健司 茂田 哲郎 岡田 章代 小曾根 裕之 千葉 慎一
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.38 Suppl. No.2 (第46回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.CcOF2077, 2011 (Released:2011-05-26)

【目的】 肩の運動を構成する要素の中で肩甲骨の動きは重要である。肩甲骨は胸郭上に浮遊している特徴をもつため、胸郭の柔軟性・頭位・脊柱の可動性さらに骨盤・下肢からの影響も無視できない。また臨床において頭部前方位姿勢(FHP)が肩甲胸郭関節の機能不全を引き起こしていると思われる症例をよくみかけるが、肩甲胸郭関節の機能不全に対して頭部の位置をいわゆる良い姿勢(耳垂のやや後方からの垂線が肩峰を通る)へ促すアプローチをすることにより機能不全が改善することを多く経験する。しかし頭部の位置と肩甲帯の動きの関係性についての報告は少ない。 我々は第45回本学術大会において肩甲帯屈曲・伸展の骨盤前後傾による影響を報告した。骨盤前傾位が後傾位に比べると肩甲帯屈曲・伸展ともに有意に可動域が大きい結果となった。今回は頭部前方位姿勢と良い姿勢での頭部の位置変化により肩甲帯屈曲・伸展角度に違いがでるのかどうか明らかにすることが本研究の目的である。【方法】 対象は肩関節に既往のない20歳から30歳代の男性7名13肩(平均年齢25.6±3.0歳)とした。プラットフォーム上端座位で良い姿勢と頭部前方位姿勢のそれぞれで肩甲帯屈曲・伸展を左右3回ずつ自動運動にて日本整形外科学会・日本リハビリテーション医学会が制定する関節可動域検査法(以下、従来の方法)で測定した。従来の方法は我々が第44回本学術大会において報告し、評価の信頼性を得ることができている。頭部前方位姿勢は被験者に対して端座位にて前方を注視させたまま頭部を前方に突出させ、最大頭部前方位姿勢となった状態と定義した。また良い姿勢とは被験者に対して端座位にて耳垂のやや後方からの垂線が肩峰を通り軽く顎を引いた姿勢と定義した。 統計処理は、対応のあるt検定を用いて、良い姿勢での肩甲帯屈曲・伸展と頭部前方位姿勢での肩甲帯屈曲・伸展をそれぞれ検討し、有意水準を5%未満とした。【説明と同意】 ヘルシンキ宣言に基づき対象者に対して研究の趣旨と内容、得られたデータは研究の目的以外には使用しないこと、および個人情報漏洩に注意することについて十分な説明のうえ同意を得て行った。【結果】 良い姿勢での肩甲帯可動域は右屈曲26.7±5.7度、右伸展22.3±6.7度、左屈曲26.4±5.6度、左伸展24.2±10.3度であった。頭部前方位姿勢での肩甲帯可動域は右屈曲20.7±3.1度、右伸展14.5±7.4度、左屈曲21.9±4.8度、左伸展17.5±7.4度であった。良い姿勢と頭部前方位姿勢での肩甲帯屈曲・伸展の可動域はともに有意差が認められた。良い姿勢の方が頭部前方位姿勢と比較すると肩甲帯屈曲・伸展ともに有意に可動域が大きい値を示す結果となった(p<0.05)。【考察】 今回の結果から頭部前方位姿勢の方が良い姿勢に比べ肩甲帯屈曲・伸展可動域がともに小さいことが分かった。頭部前方位姿勢は2パターンあることが確認された。1パターンは円背様の姿勢で骨盤後傾を伴い胸腰椎後弯し頭部が前方に変位する姿勢。2パターン目は骨盤の動きは少なく頭部が前方に変位し肩甲骨内転位でバランスを保っているような胸椎伸展傾向の姿勢である。どちらのパターンも頭部を前方位に保持するため肩甲帯が姿勢調節に関与し、肩甲帯の動きが少なくなったのではないかと考えた。円背様の姿勢では胸椎後弯し肩甲帯が屈曲位で姿勢を保持しバランスを保っているため、肩甲帯屈曲・伸展ともに可動域が減少したのではないかと推察された。2パターン目の姿勢でも肩甲帯を内転位にすることでバランスを保っているために、肩甲帯屈曲・伸展のともに可動域が減少したのではないかと推察された。 頭部を前方に変位させると人それぞれで姿勢を制御し、身体を使いやすいように動かしているので臨床においてはそれぞれに対して使い方を少しでも変えるアプローチをすることで機能不全が改善できるのではないかと思う。 我々が第45回本学術大会で報告した内容と併せて考えると頭部の位置や骨盤・脊柱の肢位変化は肩甲帯の可動性に影響すると改めて確認することができた。 今後の課題として肩甲帯屈曲・伸展のみの動きのだけではなく、さまざまな肩甲骨の動きと頭部・脊柱・骨盤の肢位の関係を検討していきたい。【理学療法学研究としての意義】 頭部の位置が肩甲帯の動きに影響するのかどうかを調べることにより、臨床的に肩関節疾患を評価・治療をする際、頭部の位置を考慮にいれて理学療法を行うことの科学的な根拠を提示することができた。
著者
手塚 純一 大塚 洋子 長田 正章 岩井 良成
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.38 Suppl. No.2 (第46回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.BbPI2176, 2011 (Released:2011-05-26)

【目的】 長い間、小脳は純粋に姿勢の制御や随意運動の調節を行なうための神経基盤であると考えられてきた。1980年代半ばから、神経心理学・解剖学・電気生理学などの発展により、運動・前庭機能以外にも様々な認知過程に関与することが明らかになってきた。1998年にはSchmahmannとShermanが小脳病変によって生じる障害の4要素(遂行機能障害・空間認知障害・言語障害・人格障害)を小脳性認知・情動症候群(CCAS)として提唱した。しかしながらリハビリテーションの領域では小脳と高次脳機能についての報告は散見されるが症例報告に留まっており、特に理学療法における報告は少ない。本研究の目的は、小脳の損傷部位と臨床症状の関係について量的研究を行ない、理学療法における小脳損傷に伴う高次脳機能障害に対する対処の必要性を明らかにすることである。【方法】1.対象: 対象は2008年1月から2010年10月の間に脳卒中を急性発症し当院に入院した患者連続895例のうち、小脳に限局した病変を有する39例である。除外基準は1)脳室穿破、2)水頭症、3)発症前より明らかな認知機能低下を有する例とした。2.方法 調査項目は年齢、性別、梗塞・出血の種別、画像所見、臨床症状とした。画像所見は入院時に撮影した頭部CTもしくはMRI画像を利用し、小脳の損傷部位を虫部、中間部、半球部に分け列挙した。臨床症状は意識清明となった時点での運動失調、見当識障害、注意障害、記憶障害、言語障害、空間認知障害、人格障害について次の基準で有無を判定し列挙した。運動失調は鼻指鼻試験もしくは踵膝試験での陽性反応を、人格障害はFIM(Functional Independence Measure)社会的交流項目での減点を認めた場合に有とした。それ以外はMMSE(Mini-Mental State Examination )、HDS-R(改訂長谷川式簡易知能評価スケール)の、見当識障害:見当識項目、注意障害:計算項目及び逆唱項目、記憶障害:遅延再生項目、言語障害:物品呼称項目もしくは語想起項目、空間認知障害:図形模写項目、において減点を認めた場合に有とした。3.解析 損傷部位と臨床症状に関連があるかを、フィッシャーの正確確率検定を用いて検討した。なお統計学的判定の有意水準は5%未満とした。【説明と同意】 本研究は個人情報を匿名化した上で、その取り扱いについて当院の規定に則り申請し許可を得た。【結果】1.最終対象者 39例中5例は脳室穿破、水頭症もしくは発症前からの認知機能低下を有し対象から除外した。従って最終対象者は34例(男性18例、女性16例、平均年齢70.2±11.0歳)であった。2.脳損傷様式 小脳梗塞11例、小脳出血23例、損傷部位は虫部~半球部に渡るものが15例、虫部~中間部が8例、中間部~半球部が9例、半球部のみが2例であった。3.臨床症状 項目毎に発生数を計上すると、運動失調31例(91.2%)、記憶障害23例(67.6%)、見当識障害17例(50.0%)、注意障害14例(41.2%)、言語障害9例(26.5%)、人格障害5例(14.7%)、空間認知障害5例(14.7%)であった。上記の症状の多くは合併し、総合すると24例(70.6%)に何らかの高次脳機能障害を認めた。半球部に損傷がある26例のうち22例(84.6%)に何らかの高次脳機能障害を認めた。半球部に損傷がない8例のうち6例(75.0%)には高次脳機能障害を認めなかった。4.解析 検定の結果、有意な独立性を認めた項目は1)虫部~中間部の損傷と運動失調の発生率(p<0.01)、2)半球部の損傷と何らかの高次脳機能障害の発生率(p<0.01)、3)半球部の損傷と記憶障害の発生率(p<0.001)であった。【考察】 半球部は歯状核から視床外側腹側核を経由して運動前野や前頭前野・側頭葉に投射し、小脳-大脳ループとして認知機能に関与している。本研究で半球部損傷の多くに高次脳機能障害を認めたことは、SchmahmannとShermanの報告と一致した結果となった。多くの例に記憶障害を認めたことにより、CCASの概念で取り上げられている作動記憶の障害や視空間記憶の障害だけでなく、エピソード記憶の障害にも小脳が関与している可能性が示唆された。 記憶障害・注意障害等による生活指導の定着率低下や、人格障害による練習の拒否等の問題は、理学療法の進行に大きな影響を与える。半球部に損傷を認めた場合には、高次脳機能障害の有無を精査し対処していく必要があると考える。今後は半球部損傷のみの症例数を増やすと同時に、各臨床症状の半球部における責任領域について検討を重ねていきたい。【理学療法学研究としての意義】 小脳損傷に伴う高次脳機能障害は患者の学習や社会復帰において多大な影響を与える要素であり、理学療法においてもその研究と対策は重要である。本研究はその一助となると考える。
著者
太田 恵 池添 冬芽 金岡 恒治 佐久間 香 長谷川 洋介 藤田 千早 沼澤 拓也 舞弓 正吾 市橋 則明
出版者
日本理学療法士協会(現 一般社団法人日本理学療法学会連合)
雑誌
理学療法学Supplement Vol.38 Suppl. No.2 (第46回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.CcOF1065, 2011 (Released:2011-05-26)

【目的】老化に伴う退行性変化として骨格筋の萎縮が起きることは周知の事実であり,リハビリテーションの分野では高齢者における筋の機能の維持および向上が重要な課題のひとつとなっている.この筋萎縮の評価法のひとつとして,近年,超音波画像診断装置による筋厚測定がよく用いられている.超音波画像診断装置は,MRIやCTと比較して,安価で簡便であり,信頼性と妥当性も高いことから,超音波画像診断装置を使用した研究が多くなされている.しかしながら,超音波法を用いて筋厚の加齢変化を調べた先行研究の多くは四肢の筋を対象としており,体幹筋,特に腹筋群について言及した研究は少ない.また,筋萎縮に関する横断研究の場合は,加齢による影響だけでなく,身長や体重,BMIといった体格の差異による影響も考慮する必要がある.しかしながら,腹筋群の筋厚にはどのような体格要因が関連するのかについては明らかではない。そこで本研究では,超音波画像診断装置を使用して腹筋群の筋厚を測定し,年齢や体格との関連について明らかにすることを目的とした.【方法】被験者は,健常成人120名(男性60名,女性60名)とした.男性被験者の年齢は33.1±18.1歳(20~84歳)であり,身長は170.5±6.8cm,体重は67.2±11.8kg,BMIは23.0±3.1であった.女性被験者の年齢は57.2±19.2歳(20~83歳)であり,身長は154.2±7.1m,体重は52.0±9.0kg,BMIは21.9±3.4であった.いずれも独歩または歩行補助具を使用し自立歩行が可能な者とした.筋厚の測定には超音波診断装置を使用した.対象筋は,腹直筋,外腹斜筋,内腹斜筋,腹横筋とした.測定肢位は安静背臥位で,いずれも安静呼気時に測定した.測定部位は腹直筋が臍から外側4cmの部位,外腹斜筋,内腹斜筋,腹横筋は臍高位の腋窩線から内側2.5cmの部位とし,いずれも右側を測定した.腹筋群の筋厚と年齢,身長,体重,BMIとの関係について,各筋厚を目的変数とし,年齢,身長,体重, BMIを説明変数として,男女別にそれぞれ重回帰分析を用いて検討した.いずれも有意水準は5%未満とした.【説明と同意】本研究の目的と方法について,すべての被験者に対し口頭および文書にして十分に説明し,同意を得た.【結果】腹直筋の筋厚の平均値は男性12.8±3.3mm,女性8.3±2.4mmであった.重回帰分析の結果,男女ともに年齢のみ筋厚に影響を与える有意な因子として抽出され(標準偏回帰係数:男性-0.58,女性-0.71),自由度調整済決定係数は男性0.59,女性0.59であった.外腹斜筋の筋厚の平均値は男性8.6±2.9mm,女性5.4±1.9mmであった.重回帰分析の結果,男女ともに年齢のみ有意な因子として抽出され(標準偏回帰係数:男性-0.56,女性-0.61),自由度調整済決定係数は男性0.48,女性0.43であった.内腹斜筋の筋厚の平均値は男性12.2±3.9mm,女性8.1±2.5mmであった.重回帰分析の結果,男女ともに年齢のみ有意な因子として抽出され(標準偏回帰係数:男性-0.66,女性-0.43),自由度調整済決定係数は男性0.44,女性0.23であった.腹横筋の筋厚は男性4.4±1.2mm,女性3.3±0.9mmであった.重回帰分析の結果,男女ともにいずれの説明変数も筋厚に影響を与える因子として抽出されなかった. 【考察】本研究では,腹筋群における筋厚と年齢,身長,体重,BMIとの関連を明確にするため,若年者から高齢者までの男女の筋厚を測定し,重回帰分析を用いて検討した.その結果,腹直筋,外腹斜筋,内腹斜筋の筋厚については,年齢が影響を及ぼす因子として抽出されたが,腹横筋の筋厚では年齢は抽出されなかった。このことから,腹筋群のなかでも腹横筋の筋厚は加齢変化が少ないことが示唆された.また,身長,体重, BMIといった体格はすべての腹筋群の筋厚において影響を及ぼす因子として抽出されなかった.骨格筋の筋萎縮の程度を横断的に比較検討する際,四肢筋の筋厚については体格の差異を考慮し,体格要因で補正した筋厚が用いられることがある.本研究の結果,腹筋群の筋厚については体格による違いを考慮する必要性は少ないと考えられた.【理学療法学研究としての意義】本研究により,腹直筋,外腹斜筋,内腹斜筋の筋厚は,加齢に伴って減少するが,腹横筋の筋厚は加齢変化が少ないことが示された.また,腹筋群の筋厚は体格要因による影響は少ないことが示唆された.本研究の結果は腹筋群の筋萎縮の程度を評価する上で考慮すべき重要な知見であると考える.
著者
川崎 卓也 坂井 泰 柿崎 藤泰 竹澤 美穂
出版者
日本理学療法士協会(現 一般社団法人日本理学療法学会連合)
雑誌
理学療法学Supplement Vol.38 Suppl. No.2 (第46回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.DbPI1348, 2011 (Released:2011-05-26)

【目的】 横隔膜は胸腔と腹腔を隔てる膜状の横紋筋であり,呼吸運動の主動作筋としての機能と,下部体幹の安定化に関与するという二重作用を有する.付着部位が胸骨部,肋骨部,腰椎部からなるドーム状の形状をしており,その走行から重力の影響を受けやすい筋肉であると考えられる.その為,姿勢変化に伴って横隔膜自体の形状も変化し,呼吸時には特異的な運動が生じてくると考えられる.臨床上,体幹機能を評価する際に,呼吸運動や下部体幹の安定性に関与している横隔膜の動きを体表から評価する事も多い.今後の横隔膜機能評価法を確立するため,本研究では姿勢変化に伴う呼吸時の横隔膜運動の質的な検証を行った.【方法】 対象は健常成人男性10名(平均年齢±標準偏差26.6±4.5歳)とした.測定肢位は背臥位と座位の2通りとした.背臥位はベッド上での解剖学的肢位とし,座位は股関節,膝関節90°屈曲位の姿勢となるように座面高を調整した背もたれ座位とした.その際,両上肢は乳頭レベルの高位で腕を組んだ姿勢とした.測定機器は超音波診断装置(東芝メディオ製および日立メディコ製)を使用した.測定項目として,横隔膜筋厚はBモード法(周波数:7.5MHz)を使用し,横隔膜変位量はMモード法(周波数:3.5MHz)にて測定した.測定部位として,横隔膜筋厚は,右中腋窩線上で,第7肋間から第9肋間で,横隔膜が最も明瞭に描出される部位とした.横隔膜変位量に関しては,右鎖骨中線と前腋窩線との中点で,肋骨弓の下縁より横隔膜後方部の変位量を計測した.呼吸パターンは安静呼吸と努力性最大吸気とした.そして安静呼気時の横隔膜の状態を基準とし,安静吸気,努力性最大吸気の横隔膜筋厚,横隔膜変位量を測定した.また,テープメジャーにて剣状突起部での胸郭周囲径を測定した.測定はそれぞれ3回ずつ行い,その平均値を用いた.統計解析は姿勢変化を要因とした一元配置分散分析を行った.横隔膜筋厚,横隔膜変位量,胸郭周囲径についてPearsonの積率相関係数を算出し,有意水準は5%未満とした.なお,予備実験での検者内信頼性ICC(1,1)は,横隔膜筋厚で0.87~0.99,横隔膜変位量で0.47~0.97であった.【説明と同意】 本研究はヘルシンキ宣言に沿い,対象者には研究内容に関して十分な説明の上,同意の得られた者を対象として実施した.【結果】 安静呼気,安静吸気,努力性最大吸気の横隔膜筋厚は背臥位で1.84±0.29mm,1.97±0.30mm,3.00±0.76mm,座位で1.97±0.36mm,2.58±0.42mm,3.40±0.83mmであった.また,安静呼気を基準とした安静吸気での横隔膜変位量と,努力性最大吸気での横隔膜変位量は背臥位で17.26±7.74mm,52.47±13.00mm,座位で12.10±3.24mm,34.78±10.10mmであった.胸郭周囲径の変化量では安静呼気を基準に,安静吸気と努力性最大吸気は背臥位で0.80±0.59mm,3.57±0.72mm,座位で1.03±0.49mm,3.65±0.84mmであった.姿勢変化を要因とした一元配置分散分析の結果,安静吸気時の横隔膜筋厚と,努力性最大吸気時の横隔膜変位量に有意差を認めた(p=0.001,p=0.003).背臥位,座位ともに横隔膜筋厚,横隔膜変位量,胸郭周囲径との間に相関関係は認められなかった.【考察】 本研究結果から,背臥位では座位と比較し横隔膜の変位量が増大する傾向が示された.背臥位では努力性最大吸気時の横隔膜変位量が有意に大きい一方で,座位では横隔膜は重力によって吸気時に尾側へ変位しやすいはずであるが,背臥位と比較し変位量は少なかった.これは背臥位では腹部内容物が頭側へ移動する際に生じる圧力による影響が大きいと考えられる.座位では背臥位と比較し横隔膜筋厚と胸郭周囲径が増大する傾向が示された.これは横隔膜変位量減少の代償とも考えられるが定かではない.今後,肺機能検査を含めた検討を行っていく必要があると考えられる.【理学療法学研究としての意義】 横隔膜機能評価法を確立するために,背臥位と座位における横隔膜筋厚と横隔膜変位量の関連性について検討を行った.様々な因子を含む体幹機能を漠然と定量化することは不可能であるが,呼吸運動と下部体幹の安定化の二重作用を有する横隔膜の機能評価法が確立できるならば,体幹機能評価の一つとして利用できるのではないかと考える.
著者
梶本 寿洋 長勢 大介 秦 菜苗 坂上 未咲 高橋 由依 安住 昌起 吉川 文博 高橋 光彦
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.38 Suppl. No.2 (第46回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.AbPI1084, 2011 (Released:2011-05-26)

【目的】 ブリッジ動作は臨床で頻繁に使用される一般的な理学療法プログラムのひとつである。これまで下肢の肢位や負荷条件の違いによる検討が多数報告されているが、十分に解明されているとは言えない。両脚・片脚にて膝屈曲70~130°の角度変化では膝屈曲角度が増すにつれて大殿筋の筋活動量は増加し、ハムストリングス(Ham)では減少したとされる。膝屈曲の参考可動域は130°とされるが、実際にはさらに屈曲可能である。今回、参考可動域以上に膝を屈曲した場合のブリッジ動作を筋電図学的に検討し、筋力トレーニングとして有効かを検討した。【方法】 対象は健常成人男性8名で、平均年齢25.5歳、平均身長172.6cm、平均体重65.8kgである。試行動作は、両脚膝屈曲130°位ブリッジ動作(両膝130°)、両脚膝屈曲150°位ブリッジ動作(両膝150°)、片脚膝屈曲130°位ブリッジ動作(片膝130°)、片脚膝屈曲150°位ブリッジ動作(片膝150°)の4種目で、終了姿勢は股関節伸展0°位とした。 筋活動量は表面筋電計を用いて計測し、大殿筋(GM)、大腿二頭筋(BF)、半腱様筋(ST)、脊柱起立筋(ELS :L4レベル)、中殿筋(Gm)、外側広筋(VL)の計6筋から導出した。測定は終了姿勢で3秒間の筋電図測定を各3回実施し、計測開始から2秒間の筋電積分値(IEMG)を算出し3回の平均値を求めた。また、徒手筋力検査法における正常段階でのIEMGで正規化し、各筋の%IEMGを求めた。統計学的処理は一元配置分散分析後に多重比較を行い、有意水準を5%未満で検討した。【説明と同意】 対象者には本研究の趣旨および目的を説明し、同意を得て行った。【結果】 筋活動量は、GMで両膝130°・150°、片膝150°で21.5%・21.2%、22.2%であった。片膝130°は47.5%とその他と比べ有意に増加した。BFは両膝130°・150°で18.5%・12.3%、片膝130°・150°は37.3%・32.8%であり、両脚・片脚ともに130°に比べ150°で活動量が低かった。また、両膝130°と片膝130°、両膝150°と片膝130°・150°に有意差を認め、両脚ブリッジ動作に比べ、片脚ブリッジ動作が有意に高値を示した。STでは両膝130°・150°は14.5%・9.3%、片膝130°・150°は24.9%・21.6%であり、BFと同様に両膝150°に比べ、片脚でのブリッジ動作が有意に高値を示した。ELSの筋活動量は60.5%~63.6%間で、全てで有意差はなかった。Gmは両膝130°・150°は19.8%・14.8%、片膝130°・150°は50.6%・54.5%で両脚ブリッジ動作に比べ、片脚ブリッジ動作が有意に高値を示した。VLでは両膝130°・150°は5.1%・15.0%、片膝130°・150°は24.3%・65.7%で片膝150°が両膝130°・150°に比べ有意に高値を示した。【考察】 膝の角度変化と作用する筋に特異性が認められた。片膝130°はGMが他の肢位に比べ有意に増加したが、片膝150°では増加しなかった。このときVLで筋活動量が増加した。膝屈曲130°位では下腿長軸が頭側へ傾斜し、ブリッジ活動で足底を床に押し付けるとHamによる膝屈曲が生じる。これに対し、膝屈曲150°位では足部が殿部に近づき下腿長軸が尾側へ傾斜する為、膝においては大腿四頭筋による膝伸展が生じる。このことから膝屈曲130°と150°では主動作筋と拮抗筋が逆転する現象が起こり、目的動作の遂行に対する運動特性が変化すると考える。 ELSは両脚・片脚の膝屈曲70~130°で、膝の角度変化はGMとHam間で比率が変化し、体幹筋活動に影響しないとされる。今回の結果も60.5%~63.6%の範囲で同様の結果が得られた。両膝90°でELSは37.7%MVCであったと報告がある。筋電位と発揮筋力には直線関係があり、30~40%MVC負荷で筋力増強が得られるといわれる。ELSは膝の角度に影響されず、臥床を強いられる術後や虚弱高齢者に対して簡便に行える筋力トレーニング方法と言える。 Gmは片脚で著しく増加し、骨盤固定に対する股内旋作用が高まった為と考える。股外転筋は骨盤の側方安定性に重要であり、高齢者の歩行安定性に関連がある。今回の結果では片脚で50.6%・54.5%であり股外転筋のCKC筋力トレーニングとして活用できると考える。【理学療法学研究としての意義】 片脚ブリッジ動作は膝を過度に屈曲するとGMの活動量が低下し、筋力増強としての負荷条件を満たせないことが示唆される。また、膝屈曲150°位ではVLの高い筋活動が観察され、床からの立ち上がりに必要となる膝深屈曲位からの膝伸展筋力トレーニングとして活用できる可能性を有している。ELSは膝屈曲角度に影響されず筋力増強の負荷が得られ、臥床を強いられる場合でも簡便な筋力トレーニングとして有用であると考える。
著者
工藤 慎太郎 濱島 一樹 兼岩 淳平 小松 真一
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.38 Suppl. No.2 (第46回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.CcOF1067, 2011 (Released:2011-05-26)

【目的】足部横アーチ(横アーチ)の低下は,中足骨頭部痛や外反母趾の発生機序と関係するため,その形態を捉えることは,臨床上重要である.横アーチの測定方法として,第1~5中足骨頭の距離を足長で除した横アーチ長率(TAL)が知られ,その妥当性が報告されている.しかし,その再現性については検討されていない.また,TALは静止立位で測定する.臨床上,静止立位において,横アーチが保持できているが,歩行や走行などの動的場面において,横アーチが保持できず,中足骨頭部痛などを惹起している例も存在する.つまり,従来のTALは横アーチの形態を捉えることができるが,その保持機能を捉えられない.我々は先行研究において,従来のTALに加えて,下腿最大前傾位(前傾位)でTALを測定し,その差から横アーチの保持機能を捉える方法を報告した.本研究では,従来のTALと共に,前傾位でのTALの測定方法の再現性を検討することを目的とした.【方法】対象は健常成人8名(男女各4名,平均年齢19.3±2.4歳)の右足とした.検者は経験年数15年目と2年目の理学療法士(検者A・B)および理学療法士養成校に就学中の学生(検者C)の3名とした.各検者には実験実施1週間前に測定方法を告知した.各被験者に対し,1施行で静止立位と前傾位でのTALを3回測定し,中央値を採用した.測定にはデジタルノギス(測定誤差±0.03mm)を用いた.1施行ごとに1時間休息し,3施行繰り返した.統計学的手法にはPASWstatistics18を用いて,級内相関係数(ICC)と標準誤差(SEM)を求めた.なお,検者内信頼性にはICC(1,k),検者間信頼性にはICC(2,k),測定結果の解釈にはShroutらの分類を用いた.【説明と同意】被験者には,本研究の趣旨を紙面と口頭で説明し,同意を得た.【結果】検者AのICC(1,k)は静止立位で0.82(SEM:0.67),前傾位で0.92(SEM:0.36)であった.検者BのICC(1,k)は静止立位で0.80(SEM:0.02),前傾位で0.79(SEM:0.02)であった.検者CのICC(1,k)は静止立位で0.75(SEM:0.03),前傾位で0.98(SEM:0.04)であった.静止立位でのICC(2,k)は0.75(SEM:0.13),前傾位でのICC(2,k)は0.81(SEM:0.03)であった.【考察】歩行や走行において,立脚終期で,前足部に荷重が加わると,横アーチは低下する.中足骨頭部痛や外反母趾などの前足部の障害において,横アーチの過剰な低下を認めることがあるため,横アーチの形態を捉えることは臨床上重要になる.本研究の結果から,従来のTALは3名の検者とも,Shroutらの分類でgood以上と,高い検者内・検者間信頼性を示している.よって,横アーチの測定方法としての従来のTALの信頼性は高いと考えられた.諸家により,内側縦アーチの測定方法であるアーチ高率や踵骨角,第一中足骨底屈角の再現性は,触診の難易度と密接な関係があることが報告されている.そのため,従来のTALで高い再現性が得られた原因は,中足骨頭の側面に軟部組織が比較的少なく,触診が容易であるためと考えられた.臨床においては,横アーチの形態を捉える方法として,レントゲン上での第1,5中足骨角の測定やフットプリントでの評価などが用いられることが多い.しかし,レントゲンでの評価は,理学療法の臨床場面で簡便に測定することは不可能である.またフットプリント上の評価は信頼性に関して検討がされているが,報告者によって見解が異なっている.すなわち,従来のTALは,他の測定方法と比較して,簡便かつ定量的な測定方法と考えられる.一方,臨床において静止立位では,横アーチが保持できている例でも,歩行動作などの場面では,横アーチが過剰に低下する例も経験する.我々は先行研究において,動作場面での横アーチの保持機能を測定するには,従来のTALでは不十分であり,前傾位でのTALと比較することが必要なことを報告した.本研究の結果から,従来の方法と同様に,前傾位でのTALも,高い検者内・検者間信頼性を示している.そのため,前傾位でのTALの測定も臨床において簡便かつ定量的な測定方法であり,両肢位でのTALの測定は,横アーチの形態と保持機能を評価し得る信頼性の高い測定方法と考えられた.【理学療法学研究としての意義】本研究の結果から,従来のTALと前傾位でのTALの測定方法の信頼性が証明され,横アーチ保持機能の簡便かつ定量的な測定が可能になると考えられた.つまり,有痛性足部障害の疼痛発生機序を捉える場合や,足底挿板療法を処方する際に,同方法は客観的な測定方法として有効になると考えられる.
著者
遠藤 正樹 建内 宏重 永井 宏達 高島 慎吾 宮坂 淳介 市橋 則明
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.38 Suppl. No.2 (第46回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.CcOF2078, 2011 (Released:2011-05-26)

【目的】 ADLやスポーツでは、肩関節内・外旋運動が繰り返し行われており、内・外旋運動時の肩甲骨運動と肩関節障害との関連が指摘されている。2nd外旋では、肩甲骨の後傾・上方回旋・外旋、鎖骨の後方並進が生ずるとされているが、機能的な問題が生じやすい内・外旋最終域まで詳細に報告したものは少ない。また胸椎の屈曲・伸展は肩甲骨の運動に関連があると考えられているが、内・外旋運動において胸椎の運動を調査した研究はほとんどない。臨床的にも肩関節疾患において、内・外旋運動の障害は多く見られるため、内・外旋運動時の肩甲骨・鎖骨・胸椎の運動や動態を明らかにできれば、効果的な治療が可能になると考える。よって本研究の目的は、1st、2nd、3rdポジションにおける内・外旋運動時の肩甲骨・鎖骨・胸椎の運動を3次元的に明らかにすることとした。【方法】 対象は健常若年男性17名(23±3.9歳)とし、測定側は利き手上肢とした。測定には6自由度電磁センサーLiberty (Polhemus社製)を用いた。8つのセンサーを肩峰、三角筋粗部、前腕中央、胸骨、鎖骨中央、Th1、Th12、S2に貼付し、肩甲骨・鎖骨・胸椎の運動学的データを収集した。測定課題は座位での1st、2nd、3rdポジションの内・外旋運動とし、最大内旋位から3秒で外旋し、最大外旋位で1秒静止保持させ、3秒で最大内旋位まで内旋する運動とした。測定回数は3回とし、その平均値を解析に用いた。解析区間は最大内旋位~最大外旋位までを100%として、解析区間内において5%毎の肩甲骨・鎖骨・胸椎の運動学的データを算出した。なお、肩甲骨・鎖骨・胸椎の運動角度は、胸郭セグメントに対する肩甲骨・鎖骨セグメント、および胸椎はTh12に対するTh1の相対的なオイラー角を算出した。運動軸の定義として、肩甲骨は内・外旋、上方・下方回旋、前・後傾、鎖骨は前方・後方並進、上・下制について解析を行った.統計分析では、解析区間における肩甲骨・鎖骨の動態、および同一角度における内旋運動時と外旋運動時の肩甲骨・鎖骨の動態の違いを分析するために、反復測定二元配置分散分析を用いた。有意水準は5%とした。【説明と同意】 対象者には研究の内容を紙面上にて説明した上、同意書に署名を得た。なお、本研究は本学倫理委員会の承認を得ている。【結果】 1stの外旋では肩甲骨は約17度外旋、約6度下方回旋、鎖骨は約5度後方並進、胸椎は約5度伸展した。2ndの外旋では肩甲骨は約14度外旋、約7度上方回旋、約19度後傾、鎖骨は約11度後方並進・下制、胸椎は約14度伸展した。3rdの外旋では肩甲骨は約12度外旋、約6度下方回旋、約12度後傾、鎖骨は約5度下制、胸椎は約7度伸展した。また、1st、2ndでは肩甲骨・鎖骨・胸椎の全ての運動で、3rdでは肩甲骨内・外旋、上・下方回旋、鎖骨の挙上・下制、胸椎の屈曲・伸展で交互作用が認められ(P<0.05)、同一角度においても内旋運動中と外旋運動中とでは肩甲骨・鎖骨・胸椎の動態が異なっていた。1st、2nd、3rdポジションの共通の傾向として、内・外旋運動の最終域付近において、肩甲骨・鎖骨・胸椎の運動は急な増大を示した。【考察】 外旋運動において、1stでは肩甲骨の外旋・下方回旋、鎖骨の後方並進、胸椎の伸展、2ndでは肩甲骨の外旋・上方回旋・後傾、鎖骨の後方並進・下制、胸椎の伸展、3rdでは肩甲骨の外旋・下方回旋・後傾、鎖骨の下制、胸椎の伸展が同時に生じていた。内旋運動では逆の運動を同時に示した。胸椎は全てのポジションにおいて、外旋運動時に伸展し、内旋運動時に屈曲が生じており、内・外旋運動においても胸椎と肩甲骨の運動が協調していることが明らかとなった。また、3ポジション全てで外旋運動時に胸椎は伸展したが、特に2ndでの伸展角度が大きく、2nd外旋では胸椎の伸展がより重要であることが示唆された。さらに、同じ角度であっても内旋運動中と外旋運動中とでは肩甲骨・鎖骨・胸椎の運動パターンが異なることが明らかとなった。例を挙げると、外旋最終域付近において、外旋運動中には肩甲骨・鎖骨・胸椎の運動が大きくなるのに対して、内旋運動中には肩甲上腕関節の運動が大きくなる傾向にあった。肩甲骨・鎖骨・胸椎の動態は、内・外旋運動の運動方向を踏まえて理解することが必要である。【理学療法学研究としての意義】 肩関節疾患を有する多くの患者において、内・外旋運動時の肩甲上腕関節の可動域低下だけでなく、肩甲骨運動の異常も観察される。臨床的に問題が生じやすい内・外旋運動時の肩甲骨・鎖骨・胸椎の運動や動態が明らかとなり、患者の治療戦略立案にとって有用な情報になると考える。
著者
野元 友貴 矢部 綾子 石井 恵美 安彦 和星 本田 篤司 高島 嘉晃
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.38 Suppl. No.2 (第46回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.CdPF2037, 2011 (Released:2011-05-26)

【目的】 頸椎は重い頭部を支えるわりに大きな可動性を有し、可動性の確保は頭頸部周囲筋群のバランスが重要視されている。頸部伸展動作では上位頸椎の過伸展、下位頸椎伸展制限(以下、伸展制限)が生じる事が多く、その要因の一つとして頸部深層屈筋群(以下、屈筋群)の機能低下が考えられる。先行研究では頸部痛患者や頭部前方位などの姿勢不良と頸部表層筋群の筋活動増加や屈筋群の機能低下との関連は報告されている。しかし屈筋群の機能低下が伸展制限を起こすとの報告は無く、屈筋群の機能と下位頸椎伸展可動域の関連を明らかにした研究は少ない。その為、本研究ではJullらの屈筋群の評価であるCranio-Cervical Flexion Test(以下CCFT)を用い、圧力量として数値化し、屈筋群と下位頸椎伸展可動域の関連を明らかにする事を目的とした。【方法】 頸部に痛みの訴えのない健常成人男性25名、女性15名、年齢25.9±7.0歳、身長166.1±8.0cm、体重63.2±14.4kgとした。頭頸部伸展運動は第3頸椎横突起と肩峰にマーカーを付け、安静坐位にて下位頸椎伸展最終域を矢状面からデジタルカメラ(CASIO社製)で撮影し画像分析ソフトimageJにより角度を算出した(以下、伸展角度)。屈筋群圧力量の測定はベッド上に背臥位となり、後頭下部にアネロイド型血圧計のマンシェットを置き、肩峰と耳垂を結んだ線とベッドが水平となる肢位で行った。CCFTに従い、後頭下部のマンシェットに空気を入れ、圧力計が基準値の20mmHgになるよう調節した。胸鎖乳突筋に筋電計を付け筋活動の観察をしながら頸椎前彎を減少させる様に頭部をうなずいてマンシェットを圧迫してもらった。圧力計が22,24,26,28,30mmHg指すように小さい圧力からうなずいてもらい各目標値を3秒間保持する。その中での胸鎖乳突筋の筋活動が生じない状態での保持可能な最大圧力量を測定した。統計学的検討は保持可能であった最大圧力量と伸展角度に対し正規分布検定を行い、正規分布と仮定した両値の関連性をピアンソンの相関係数を用いて検討した。また各圧力最大値で群分けし、各群の伸展角度に対しノンパラメトリック法の多重比較検定を行った(p<0.05)。【説明と同意】 ヘルシンキ宣言に基づき事前に被験者に文章と口頭にて実験内容と利益、不利益を十分に説明し同意を得た。【結果】 最大圧力量と伸展角度はr=0.66と高い相関を認めた。各最大圧力量の伸展角度は22mmHgでは-6.55±7.50°、24mmHgは2.48±9.40°、26mmHgは6.42±6.74°、28mmHgは9.78±6.16°、30mmHg以上は14.77±5.87°であった。伸展角度は22mmHgと24mmHgの間では有意な差は無く、22mmHg、24mmHgと比べ26、28、30mmHgにおいて有意に増加した。28、30mmHg間での有意な差は無かった。【考察】 今回の結果により、屈筋群の機能低下がある場合、伸展制限を有する可能性が高い事が示唆され、また最大圧力量が24mmHg以下の場合に伸展制限がある可能性が高い。これは屈筋群のエクササイズにより頸部伸展可動域が増加するとの先行研究を補足する結果となった。頸部伸展動作は頭部と上位頸椎から動きだし徐々に下位頸椎が動き出す。下位頸椎が伸展する頸部伸展動作の後半では表層屈筋群の屈曲モーメントアームが減少し、屈筋群の遠心性収縮が必要な為、機能低下により伸展制限が生じていたと考える。【理学療法学研究としての意義】 今回は屈筋群と伸展制限が関連している事、屈筋群の機能低下が伸展制限として表出する可能性が示唆された。この事から下位頸椎の伸展可動域が屈筋群の機能評価の一つにとなりえる可能性が考えられた。
著者
岡田 洋平 福本 貴彦 高取 克彦 梛野 浩司 平岡 浩一
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.38 Suppl. No.2 (第46回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.BeOS3029, 2011 (Released:2011-05-26)

【目的】 パーキンソン病(PD)患者は歩行開始動作に障害を有することが多く,歩幅の減少,振り出し開始前の足圧中心(center of pressure :COP)の後方あるいは振り出し側への移動の異常,COPの移動開始から振り出し開始までの期間の延長などが報告されている。PD患者の歩行障害は歩行開始1歩目と同様,定常歩行においても報告されているが,歩行開始から定常歩行に至る過渡期について定量的に解析した先行研究はない。健常人は歩行開始から定常歩行に至るまで2~3歩要する。本研究では,PD病患者の歩行開始後3歩の異常性を明らかにするため,PD患者と健常高齢者を対象に運動学的指標を評価し比較検討した。【方法】 対象はPD患者10名と年齢を一致させた健常高齢者10名とした。対象者は長さ9mの歩行路において歩行開始動作を実施した。9mの歩行路の最初に2.18mのforce platformを設置し,歩行開始後3歩の足圧分布データをサンプリング周波数100Hzにて記録し,合成COP座標を算出した。対象者はforce platform上において数秒間立位保持し,歩行路の最後端の中央に設置した目標を注視しながら自身のタイミングで至適速度にて歩行開始し,歩行路の最後まで歩行した。歩行開始側は指示せず,いずれかの歩行開始側が10試行に達するまで試行を実施した。 解析項目は,歩行開始後3歩の時空間指標,COP最大移動距離(前後,側方),踵接地位置(前後,側方),踵接地位置とCOPの前額面上の距離とした。時空間指標は歩幅,ステップ速度,ステップ時間,両脚支持期とした。COP 最大移動距離は,歩行開始後のCOP軌跡における4つのpeakにおいて,歩行開始時のCOP座標を0として算出した。1st peakは歩行開始後COPが最も後方かつ振り出し開始側に移動した点とし,2nd Peakは最も初期立脚側に達する点とする。3rd Peakは1歩目の接地後COPが最も外側に移動した点とし,4th Peakは2歩目の接地後COPが最も外側に移動した点とした。踵接地位置は踵中央線の後端とした。踵接地位置とCOPの前額面上の距離は, COPが踵接地位置と同じ前後座標に到達した際の側方の距離とした。 PD患者における評価はON期に統一して行った。統計解析は,2群間における各項目の平均値の差について対応のないt検定を用いて検討した。有意水準は5%とした。【説明と同意】 本研究は大阪府立大学総合リハビリテーション学部研究倫理委員会の承認を受けて実施された。対象者には実験の目的,方法,及び予想される不利益を書面にて説明し同意を得た。【結果】 PD患者における歩行開始後3歩の歩幅,ステップ速度は健常高齢者と比較して有意に低下していた。PD患者の1歩目のステップ時間,1,2歩目の両脚支持期は有意に延長していた。歩行開始後3歩におけるPD患者のCOP軌跡と踵接地位置は振り出し開始側に偏移する傾向が認められた。PD患者の2nd Peakの側方移動距離は減少する傾向にあり,3rd Peakの側方移動距離は有意に大きかった。PD患者の1歩目と3歩目の踵接地位置は振り出し開始側に有意に偏移していた。PD患者は健常高齢者と比較してCOPが踵接地位置のより内側を通過し,1歩目と2歩目の踵接地位置とCOPの前額面距離は有意に大きかった。【考察】 本研究の結果,PD患者の歩行開始後3歩のCOP軌跡は振り出し開始側に偏移し,踵接地位置の内側を通過するという異常性が示唆された。COP軌跡の振り出し開始側への偏移は,踵接地位置が振り出し開始側に偏移した影響を受け,これらは2nd PeakのCOP側方移動距離の減少に起因すると考察する。2nd Peakの側方移動距離の低下は,初期支持脚への荷重移動の低下を反映すると考えられる。先行研究においてPD患者の歩行開始動作における初期支持脚への側方荷重移動能力の低下が報告されている。歩行開始時の支持脚への荷重移動の不十分さとその後3歩目まで続く正常な荷重移動により,振り出し開始側へのCOPの偏移が生じたと考えられる。1,2歩目においてCOP軌跡が踵接地位置の内側を通過するのは,両脚支持期の延長に起因する可能性がある。両脚支持期の延長は踵接地後に対側下肢が接地している時間が長いことを表す。COP軌跡が踵接地位置の内側を通過するのは,先行肢が踵接地した後も対側下肢への荷重が多いことを示唆する可能性がある。【理学療法学研究としての意義】 本研究によってPD患者の歩行開始後3歩における異常性が初めて示された。本研究における知見はPD患者における歩行開始から定常歩行への過渡期に対する介入に寄与すると考えられる。
著者
小原 由紀彦 児玉 隆夫 小川 祐人 沼田 友一 中村 俊康 川北 敦夫
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.38 Suppl. No.2 (第46回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.CbPI2261, 2011 (Released:2011-05-26)

【目的】橈骨遠位端骨折に対して、近年多くのロッキングプレートが開発され、橈骨遠位端骨折に対しては強固な固定が可能となった。結果、術後に外固定をせずに手関節可動域訓練を早期に施行し、良好な成績を得たとする報告が近年多くされている。しかし、本受傷では橈骨のみが損傷を受けるのではなく、手関節尺側部にも同程度の損傷が及んでいることがある。これらの症例に早期運動療法を施行することは、手関節尺側部損傷の治癒を遅らせ、最終的に悪影響が生じるのではないかと我々は危惧する。当院では橈骨遠位端骨折の手術時に、全例に遠位橈尺関節(以下、DRUJ)鏡で三角線維軟骨複合体(以下、TFCC)の尺骨小窩からの剥離の有無を確認している。手関節尺側部損傷を主にTFCC、尺骨茎状突起骨折として、その合併率、治療成績を比較した。今回、これらの結果からどのような症例に早期運動療法が適応になるか、検討した。【方法】橈骨遠位端骨折に対して手関節鏡、DRUJ関節鏡視と観血的整復固定術を行った133例135手を対象とした。平均61.0歳 AO分類はA2:36手 A3:21手 B1:1手 B2:1手B2:5手 C1:27手 C2:37手 C3:7手であった。尺骨茎状突起骨折型はTip:19例、中央:26例、基部(水平):24例、基部(斜):3例、尺骨小窩剥離損傷:7例であった。尺骨茎状突起骨折(Tip以外)、TFCC尺側小窩剥離損傷がともに無いものは術後の外固定はせずに早期運動療法(術翌日より手関節掌背屈、自動他動可動域訓練、術2週間後より前腕回内外、自動他動可動域訓練)を施行した(A群)。そのほかの症例では3週間の外固定ののち運動療法(術3週後より手関節掌背屈、自動他動可動域訓練、術5週後より前腕回内外、自動他動可動域訓練)を施行した(B群)。術後1年以上経過した症例で、可動域、痛み、握力、Mayo Wrist Scoreを比較検討した。【説明と同意】手術方法を説明する段階で、本治療が関節鏡での所見を基にして適切に選択され、治療成績を集計することで今後の治療指針にしていることを説明し、同意を得ている。【結果】DRUJ鏡視でTFCC尺骨小窩剥離を38手で認めた。TFCC剥離損傷は合併していた例はいずれも50歳以上であった。80歳代の合併率は60%であった。術後1年以上経過した症例はA群37例、B群52例であった。可動域は健側比でA群:90.6%、B群: 91.1。握力はA群:86.0%、B群:85.0%°。Mayo Wrist ScoreはA群:89.2点、B群:90.5点。手関節痛はA群:6例16.2%、B群:2例3.8%であった。【考察】各治療グループで可動域、握力に差はなかった。疼痛はA群で多く認められた。結果的には早期運動療法は術後1年での可動域、握力の増加要素とはならず、むしろ疼痛が多く残存していたことになる。今回、手関節尺側部損傷をTFCC尺骨小窩付着部に重点を置き、その有無でリハビリ開始期間、方法を変えて行なったが、真に早期運動療法の危険性を示すのであれば、損傷の有無にかかわらない無作為前向き研究を計画しなくてはならない。このような研究は実際の治療では計画できず、エビデンスレベルはどうしても低下してしまう。今回の結果では橈骨遠位端骨折の28%にTFCC剥離損傷が合併していた。この率はおそらく我々の予想を大きく超える結果と言えよう。DRUJ鏡はすべての橈骨遠位端骨折に行う必要はなく、橈骨遠位端骨折には手関節尺側部損傷が合併しているものと考え、3週間の術後外固定を行うほうが賢明と考える。早期運動療法を行なうのであれば、回内外時の手関節尺側部痛に注意を払い、認める例では運動療法を遅らせることを推奨する。年齢別での手関節尺側部損傷の差が生じており、既存の変性損傷が含まれていると考えられ、今後は若年者に限った検討が必要と思われる。【理学療法学研究としての意義】上記の如く、今回の結果から橈骨遠位端骨折後の早期運動療法にはPitfallが存在することを認識すべきである。
著者
遠藤 雅之 大友 篤 小林 舞子 小野寺 真哉 伊達 久
出版者
日本理学療法士協会(現 一般社団法人日本理学療法学会連合)
雑誌
理学療法学Supplement Vol.38 Suppl. No.2 (第46回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.CbPI1253, 2011 (Released:2011-05-26)

【目的】慢性疼痛は,3カ月間以上の持続または再発,急性組織損傷の回復後1カ月以上の持続,あるいは,治癒しない病変の随伴がみられる疼痛である。急性疼痛から慢性疼痛に移行する上で、局所的要因から生じたものが長期間経過することにより全体的要因に変化し、痛みを複雑化させてしまう。慢性的な痛みは、身体機能を低下、また、抑うつや不安を引き起こし、睡眠を妨げ、日常活動の多くを阻害しうるといわれている。 慢性疼痛を抱える人の約18%がうつ病を合併しているとの報告もある。うつ病になることで治療に対する意欲低下などの問題が生じ、理学療法などの治療に影響を与えることがある。痛みが長期化することで抑うつ傾向となり、更なる痛みの増悪につながってしまうといった痛みの悪循環を引き起こしてしまう。 慢性疼痛による腰痛関連機能障害は心理・社会的因子が深く関与しており、治療とリハビリに対する患者の反応に早期に影響を及ぼすといわれている。また、腰痛の発症原因に関する研究では、仕事の満足度や精神的ストレスなどの要因も腰痛の発症に影響しているとの報告がある。腰部疾患として臨床上、数多くの疾患がある。その中でも腰椎椎間板ヘルニアは現代病と言われており、10代から60代に多く、勤労者が占める割合が高いとの報告がある。今回、腰椎椎間板ヘルニアにおける罹病期間とうつ症状、NRSとうつ症状の関係を検討する。【方法】当院を受診し理学療法を施行した65歳未満の腰椎椎間板ヘルニア患者154名(男性81名 女性73名) 年齢(男性43.25±11.88歳、女性44.74±11.85歳)を対象に、自己評価抑うつ性尺度(SDS:self rating-depression-scale)、罹患期間、数値的評価尺度(NRS:numerical rating scale)、仕事の有無・合併症の有無・睡眠の質を測定した。罹患期間を短期群(≦12ヶ月) 中間群(13-36ヶ月) 長期群(37ヶ月≦)の3つに分類した。また、NRSも同様に低値群(0-5) 中間群(6-7) 高値群(8-10)に分類し、罹患期間・NRSをそれぞれ独立変数、SDSを従属変数とした共分散分析を行った。共変量は性別、年齢、合併症の有無、仕事の有無、睡眠の質とした。【説明と同意】本研究をするあたり、対象者に検査者が説明し理解を得られ同意を得た。【結果】罹患期間を3群に分けたときのSDSは短期群で76名(調整後平均値37.46[95%CI:35.64-39.28])であり、中間群で40名(40.47[95%CI:38.14-42.81])、長期群で38名(43.92[95%CI:41.24-46.60]) (傾向性p値=0.000)となり、罹患期間が長くなればSDSが上昇した。また、NRSを3部位に分けたときのSDSの低値群は52名(36.67[95%CI:34.50-38.84])であり、中間群は54名(40.98[95%CI:39.10-42.86])、高値群は48名(41.98[95%CI:39.31-44.65]) (傾向性p値<0.01)となり、NRSが高値になると、SDSが上昇するとことがわかった。【考察】本研究結果より罹患期間の長期化とうつ症状に有意差がみられ、また、痛みの強さとうつ症状にも同様に有意差がみられた。罹患期間の長期化と痛みの強さがそれぞれ、うつ傾向を高める要因であることが明らかになった。このことから局所的要因から生じたものが長期間経過することにより全体的要因に変化し、痛みとうつ症状を高めるといった慢性疼痛サイクルのような痛みの悪循環が生じていることがわかった。理学療法を施行する上で慢性疼痛患者自身の心理的側面を考慮する事が大切であると思われる。痛みが長期化・痛みの強さが増悪することで心理面の問題が強まり、理学療法の介入が困難になる。機能訓練を中心とする病院が多い傾向であるが、理学療法介入時には心理的側面などに対する他覚的所見へのアプローチも必要であると考える。慢性疼痛患者はうつ傾向にあり、痛みに対する訴えが強い。そのため、理学療法施行する際には、慢性疼痛患者が抱えている心理的な問題を考慮する必要がある。【理学療法学研究としての意義】慢性疼痛では、理学療法施行するにあたり、心理的側面の考慮が必要である。