著者
阿保 勝之 宮村 和良
出版者
日本海洋学会
雑誌
沿岸海洋研究 (ISSN:13422758)
巻号頁・発行日
vol.42, no.2, pp.161-169, 2005-02-25

麻痺性貝毒の原因となる渦鞭毛藻Gymnodinium catenatumの個体群増殖に及ぼす海水流動の影響を解明するため,2002年11月20日から2003年5月6日に大分県の猪串湾において潮流調査とプランクトン調査を行った.冬季には,海面冷却や黒潮系暖水の影響により逆エスチュアリー循環流が発生し,湾内上層では湾外から高温水が流入し,下層では湾内の低温水が湾外方向へ流出する傾向にあった.しかし,猪串湾は南東方向に開口しているため,北よりの季節風が吹いた場合には高温水の流入が妨げられ,残差流が小さくなり湾内の海水は停滞した.また,降雨時には一時的にエスチュアリー循環流が発生し湾内の表層水が流出した.G.catenatumの増殖速度は小さいため,湾内における個体群増殖は海水流動の影響を強く受けた.季節風が強い時には湾内の海水交換は小さくG.catenatumの増殖に適した物理環境であったが,逆エスチュアリー循環やエスチュアリー循環が発達した時にはG.catenatumは湾外へ流出し湾内の細胞数は減少した.また,密度流に伴ってG.catenatumが湾奥に集積され濃密度分布を形成することもあった.