著者
宮村 泰直
出版者
東京大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2011

昨年度までに、独自に開発した重合闘始剤を利用した「ジエンモノマーのシンジオタクティック選択的立体規則性重合」によって、剛直な主鎖に対して側鎖が上下方向に交互に突き出した「くさび型ポリマー」を得ることに成功している。また、その特異な分子構造によって側鎖が分子間で互いに噛み合い、ナノファイバーを形成することで溶液をゲル化するなどの興味深い性質を有していることが明らかになっている。上述のように、シンジオタクティックな立体配置を有するくさび型ポリマーは側鎖を一次元的に突き出した構造をもつため、側鎖に導入した官能墓を対面的に固定することが可能である。当該年度は、このくさび型ポリマーにπ共役系の機能団を導入し、これらの側鎖官能基群が対面型に配置されることを利用したエキシマー発光材料の開拓に取り組んだ。最も単純なπ共役ユニットとしてフェニル基を選択し、これを側鎖に導入したくさび型ポリマーの合成を行った。得られたポリマーの溶液・固体状態ともに、紫外光(320nm)照射によってほぼ白色に発光することが明らかになった。単体では紫外領域にのみ発光性を示すフェニル基が可視光領域に及ぶ広い発光スペクトルを示すようになったことから、エキシマー発光を与えるポリマーを得られたことがわかる。対象実験として、立体規則性の異なるイソタクティックポリマーの側鎖にフェニル基を導入して同様の実験を行ったところ、発光強度・量子収率が低い水準に留まった。イソタクティックポリマーはらせん型構造をとることがしられており、以上の検討からフェニル基が対面型に配置されるくさび型構造がエキシマー発光に重要であることが示された。本研究で開拓した単一の発光種から白色発光をあたえる分子デザインは、今後の有機白色LEDの開発に新たな指針を与えるものである。