著者
宮澤 大志 白井 英彬 五味 恭佑 江戸 優裕
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2015, 2016

【はじめに,目的】ウィンドラス機構は足部の剛性と柔軟性を制御する上で重要であるが,臨床での定量評価は難しく,簡便な方法が示されてはいない。そこで,本研究ではウィンドラス機構の働きを,臨床で評価可能な中足趾節関節(以下,MP関節)の伸展に対する内側縦アーチの挙上率で定義した。その上で,他の理学所見や歩幅との関係からウィンドラス機構が破綻した症例に対する介入の糸口を見出すことを目的とした。【方法】対象は,健常成人25名(男性12名・女性13名:年齢24.5±2.1歳・身長164.0±9.1cm・体重55.0±10.0kg)とし,ウィンドラス機構の定量評価と,歩幅・下肢の関節可動域(以下,ROM)および筋力の計測を行った。ウィンドラス機構の評価は,全足趾のMP関節の伸展0度に対する他動的な伸展20度条件における舟状骨高の変化率と定義した(以下,ウィンドラス比率)。計測肢位は端座位とし,大腿遠位部に体重の10%の荷重をかけた。歩幅の計測は目盛をつけた歩行路上の歩行をビデオカメラにて矢状面から撮影して判定した。ROMおよび筋力は,股関節屈曲・伸展・外転・内転・外旋・内旋,膝関節屈曲・伸展,足関節背屈・底屈をランダムな順に計測した。筋力は徒手筋力計ミュータスF-1(アニマ社製)を使用し,アニマ社が規定する方法に準拠して計測した。また,筋力は3回計測,歩幅は4回計測した平均値を採用し,各々体重比(%BW)と身長比(%BH)を算出した。統計学的分析は,各項目間の関係をPearsonの相関係数を用いて,危険率5%(p<0.05)で検討した。【結果】ウィンドラス比率の平均は,108.9±4.9であった。ウィンドラス比率とその他の項目の関係は,反対側の歩幅(r=0.44)・足関節背屈ROM(r=0.46)・足関節底屈筋力(r=0.44)に有意な相関を認めた。足関節背屈ROMと足関節底屈筋力(r=0.45)および反対側の歩幅(r=0.38),足関節底屈筋力と反対側の歩幅(r=0.45)にも有意な相関を認めた。【結論】本研究で定義したウィンドラス比率は,MP関節の伸展によるアーチ拳上の大きさを表す。したがって,ウィンドラス比率が高ければ足部の剛性を効率的に高めることができるため,足関節底屈筋による足関節底屈トルクを効率的に前足部へ伝達できると考える。歩行中,このような強力なテコとしての役割が足部に求められるのはTerminal Stance(以下,TSt)である。TStは下腿前傾に伴って足関節背屈を強めるとともに前足部に荷重が移行し,反対側の下肢を振り出す時期である。このようなTStの要求に合わせて,ウィンドラス比率と足関節背屈ROMおよび底屈筋力,反対側の歩幅に相関を認めたと考える。臨床上,MP関節を伸展してもアーチが挙上しないウィンドラス機構が破綻した症例に遭遇する。足部内在筋強化や足底板などによりウィンドラス機構の改善を図るとともに,足関節底屈筋や背屈ROMの拡大により,安定したTStの構築に繋がると考える。
著者
柳田 顕 江戸 優裕 宮澤 大志
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.42 Suppl. No.2 (第50回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.1447, 2015 (Released:2015-04-30)

【はじめに,目的】足部は荷重位において様々な動作を遂行する際の安定した土台としての役目を担っている。時々刻々と変化する要求に対して,足部は剛性と柔軟性を変化させながら対応している。足部の剛性は,距骨下関節(以下,ST関節)の肢位や,ウィンドラス機構の影響を受ける。ST関節の回外は,横足根関節の縦軸と車軸の交差を強めることにより,可動性を制限し強固な足部を形成する。ウィンドラス機構は,中足指節関節(以下,MP関節)伸展に伴う足底腱膜の巻き上げにより内側縦アーチが緊張し,足部の剛性が高まる現象である。この2つの機能について別々に評価は行うが,関連を考慮することでより詳細な評価が出来ると考える。よって,本研究の目的はST関節肢位が,他動的な足趾背屈による内側縦アーチの挙上に与える影響を明らかにすることとした。【方法】対象は下肢に既往のない健常若年者22名(44肢)とした。対象者の内訳は男性14名・女性8名,年齢22±2.2歳,身長167.8±7.6cm,体重60.3±8.5kgであった。ウィンドラス機構の計測は,赤外線カメラMX-T8台で構成される三次元動作解析システムVICON-NEXUS(Vicon motion system社製)を使用した。反射マーカーの貼付位置は,脛骨粗面・内果・外果・踵後面・踵内側面・踵外側面・舟状骨・第1中足骨頭・第5中足骨頭・母趾頭の1肢につき10点とした。計測肢位は端座位にて股・膝関節屈曲90度とし,大腿遠位部に体重の10%重の重錘を載せることによって足部に荷重をかけた。計測課題はMP関節の他動的な伸展を5回反復する動作とした。計測されたMP関節伸展角度と内側縦アーチ角度における一次回帰係数[以下,ウィンドラス比(MP関節伸展角度/内側縦アーチ角度)]をウィンドラス機構の動態の指標とした。なお,計測はST関節の肢位を変化させるために,傾斜板に足部をおいて行った。傾斜板は,20度外側傾斜(以下,回外位)・10度外側傾斜(以下,軽度回外位)・傾斜なし(以下,中間位)・10度内側傾斜(以下,軽度回内位)・20度内側傾斜(以下,回内位)の5条件とした。そして,下腿に対する踵骨の平均回内外角度をST関節角度[回外(+)]とした。統計学的分析は,1元配置分散分析とGames-Howell法による多重比較検定を用いた。有意水準は危険率5%(p<0.05)で判定した。【結果】ウィンドラス比の平均は,回外位で9.1±3.0,軽度回外位で9.5±2.9,中間位で10.1±3.2,軽度回内位で11.0±3.2,回内位で12.4±4.5であった。回外位のウィンドラス比は,回内位(p<0.01)・軽度回内位(p<0.05)に比べて有意に大きかった。回内位のウィンドラス比は,軽度回外位(p<0.01)・中間位(p<0.05)に比べて有意に小さかった。なお,傾斜板の各条件によるST関節の角度は,回外位で7.4±5.7度・軽度回外位で1.2±5.2度・中間位で-2.4±5.2度・軽度回内位で-5.6±5.0度・回内位で-8.8±5.1度であった。【考察】本研究で定義したウィンドラス比は,内側縦アーチ挙上に必要なMP関節伸展運動の大きさを表すことから,ウィンドラス比が大きいほどウィンドラス機構の効率は低いことを意味する。したがって,本研究の結果は,ST関節の回外位は回内位よりもウィンドラス機構が効率的に作用することを示している。ST関節の回外は,内側縦アーチを挙上させる(Neumann2005)とともに,長腓骨筋に張力を与える。長腓骨筋は,前足部を屈曲させる働きにより内側縦アーチの高さを増す(Kapandji1986)ことから,ST関節が回外位では長腓骨筋も内側縦アーチへの関与を強めると考える。以上により,ST関節回外位ではウィンドラス機構が効率的に作用したと推察される。【理学療法学研究としての意義】本研究よりウィンドラス機構はST関節肢位の影響を受けることがわかった。したがって,ウィンドラス機構を評価する際は,ST関節肢位を考慮すべきと言える。歩行周期において,ウィンドラス機構が最も働くのは立脚終期であり,さらにST関節も回外位となっており,両機能により足部は剛性を高めている。立脚終期の,ST関節回外の減少は,直接的に足部剛性を減少させるだけでなく,ウィンドラス機構の非効率化を生じさせ,間接的にも足部剛性の減少を引き起こす可能性がある。