- 著者
-
宮良 高弘
- 出版者
- 札幌大学
- 雑誌
- 一般研究(C)
- 巻号頁・発行日
- 1995
泉・蒲生らは、昭和25年に門別村の富浜、門別、賀張地区の漁業世帯の調査を行い、「北海道移住漁民の人類学的研究(一)-沙流郡門別村における漁村の成立とその生活-」において次のような結果を発表している。(1)漁民人口の50%がすでに三世によって占められている。(2)夫婦の出身県は青森、秋田、岩手、宮城、新潟、富山、石川、福井、三重、兵庫、広島、山口の12県に及び、父母の出身県が同一である夫婦が49.6%、夫婦の出身県が同一である者は17.5%である。(3)「世帯主夫婦とその子」の割合は83%、「その他の直系親族」は12%、「傍系親族」5%であるなどが報告されている。平成7年度の調査では漁村部に限らず、門別町の大部分を占める農村部にも及んだ。漁村部への和人の移住は、内陸部の農村よりも早い。それとの関連で、(1)の漁村部は昭和25年現在で三世であったが、農村部では平成現在で三世代目・四世代目に当たっている。(2)の漁村部は歴史が長く、12県に及ぶ移住者の血縁的混交が繰り返され、東北文化に彩られた函館地方との船による交易が行われる中で、文化の画一化が一層進展している。それに対して、農村部へは明治30年代に越中団体や越後団体は豊郷へ、石川団体は清畠へ、兵庫県淡路島出身者は庫富や幾千世へ多く入地し、移住当初は住み分ける傾向がみられる。農村部における先祖が共通する母村内婚率は、明治末期から大正生まれの移住二世代目の結婚期である戦前までは同県人同士が多い。産業構造の変化にもよるが、(3)との比較において、平成7年度の地域全体の家族形態は、単身世帯が35.6%、夫婦家族が22.5%、夫婦と未婚子が35.6%、直系家族が6%、複合家族が0.1%である。単身世帯は富川や本町などの市街地や牧夫を雇って軽種馬を営む平賀、福満、旭町、豊郷などに多い。夫婦家族は酪農、農業、漁業を営んでいる地域に多い。以上から、内陸農村部においては母村の生活文化は、戦後の昭和30年代まで家ごとに母村の習俗が受け継がれている。例えば、年中行事においては正月のオトシサン、雑煮の形態、七草の叩き菜、農業の予祝行事である地祭り、小正月の小豆粥、善哉などがみられる。更に、民間信仰では四国や淡路地方にみられる地神信仰が顕著であり、春秋の社日に五角形の石に刻んだ地神塔を祀っている。