著者
西本 雅彦 宮里 勝政 大橋 裕 清水 健次 神谷 純 熊谷 浩司 齋藤 巨 大原 浩市 大原 健士郎
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.991-997, 1993-09-15

【抄録】 10名の習慣的喫煙者で,24時間禁煙後の再喫煙(ニコチン)の影響を脳波周波数解析を用いて,検討した。通常喫煙時(禁煙前)と24時間禁煙後の脳波周波数分布を比較すると,禁煙によりβ波とα2波などの速波は減少し,α1波や徐波(θ波)が増加する傾向を認めた。24時間禁煙後の再喫煙により10名中9名で,脳波上α1波の減少とβ波の増加が認められ,自覚状態も改善された。同時に覚醒度を変化させる他の要因(ホワイトノイズ)を負荷した結果,喫煙による周波数の変動と一致していた。このことより,喫煙による変動は覚醒度の変動と考えられ,ニコチンによる覚醒水準の上昇が,自覚的に快状態をもたらすことが示唆された。一方,1名で自覚的に不快な状態となった。これはニコチンの二相性の効果のうち,中枢抑制効果が顕著に現れた結果と考えられた。さらに1週間後に10名中9名で再現性が確認された。以上のことはニコチンの精神依存性を形成する重要な因子の一つと考えられた。
著者
宮里 勝政
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.117, no.1, pp.27-34, 2001 (Released:2002-09-27)
参考文献数
41
被引用文献数
5 5

タバコ/ニコチン依存症は精神依存と身体依存の双方を含んでいる.臨床での最近のまとめは世界保健機構の国際疾病分類第10版に詳しい.ニコチンの強化効果がドパミン(DA)を介しているとの知見は増え続けている.DA受容体拮抗薬投与によりDA機能を阻害すると, ニコチンの弁別刺激能, ニコチンによる頭蓋内自己刺激の促進, ニコチン静脈内自己投与, ニコチンの条件性場所嗜好性が影響を受ける.側坐核での細胞外液中のDA増加はニコチン自己投与には欠かせない現象である.最近では, 腹側被蓋野のα7ニコチン性受容体が中脳辺縁系DA神経でのニコチンの急性効果, 強化効果, 退薬症候の発現に関与していることがわかってきた.腹側被蓋野のN-methyl-D-aspartate(NMDA)受容体へのグルタミン酸の作用もニコチンが側坐核においてDA放出を促進するのに必要である.分子遺伝学的研究からは, 喫煙がセロトニントランスポーター遺伝子と神経質性(neuroticism)双方が同時に存在することにより強く影響されることがわかっている.臨床的には抗うつ薬であるbupropionが米国ではニコチン依存症者への処方薬になっている.その効果は側坐核でのDA濃度を高めることによると考えられている.