著者
家串 哲生
出版者
山形大学
雑誌
萌芽研究
巻号頁・発行日
2007

本研究は、農業経営への環境会計導入を試みることを通じて、同経営に潜在的に隠れている可能性のあるコスト(potentially hidden cost)である環境コストを実証的に測定することを目的としたものである。研究初年度においては、主に対象事例の実態調査を行い、それに基づき、同事例の環境コストの集計範囲、事業活動に応じた分類、集計方法等の検討を行った。その具体的な研究内容は以下の通りである。(1)環境会計に関する内外の文献収集・検討を行った。また、同テーマの関連学会(日本農業経営学会、地域農林経済学会、日本社会関連会計学会等)に参加し、意見交換を行った。(2)前述した各学会において、それぞれ順に「農業経営における環境コスト及び環境資産の会計」、「農業経営における環境コストの認識・測定に関する-考察-農事組合法人Mにおける環境会計導入事例より-」、「農業経営における環境コスト及び環境資産の会計」の題目で学会報告を行った。最終年度となる次年度においては、(1)前年度の実態調査及び意見交換の結果に基づき、再度、対象事例の環境コストの集計範囲、事業活動に応じた分類、集計方法等の検討を行った。(2)それらの内容を勘案し、学会誌(『農業経営研究』)へ報告論文「農業経営における環境コスト及び環境資産の会計」を投稿し、掲載された。本研究では、対象事例の2004及び2005年度の農作業日誌データを用い、『環境会計ガイドライン2005』に基づいて環境会計を導入し、主に仮定按分法により6つの地域における環境保全コスト及び農業者当たり環境保全コスト、総費用に占める環境保全コストの割合を算出した。その結果、総費用に占める環境コストの割合は、いずれも2割前後をも占めており、その大部分は、「水質汚濁・土壌汚染防止」コストであること等を明らかにした。ただ、これらの結果には、対象事例の主観が多分に混入している。今後の課題として、いかに環境コストの認識・測定及びその方法の客観性の向上があげられる。