著者
岩波 徹 小泉 銘册 家城 洋之
出版者
日本植物病理學會
雑誌
日本植物病理学会報 (ISSN:00319473)
巻号頁・発行日
vol.59, no.6, pp.642-650, 1993
被引用文献数
2 9

温州萎縮ウイルス(SDV)とその近縁ウイルスについて, 6分離株(S-58, MIE-88, Ci-968, LB-1, Az-1, NI-1)のカンキツ,草本植物での症状,外被タンパク質の血清学的性状および電気泳動度を比較した。カンキツおよび草本植物上の反応より, S-58とMIE-88, Ci-968, NI-1はそれぞれ典型的なSDV,カンキツモザイクウイルス(CiMV),ネーブル斑葉モザイクウイルス(NIMV)と考えられた。LB-1とAz-1は既報のものとはやや病原性が異なっていた。S-58とCi-968に対するポリクローナル抗体を用いて,直接二重ELISA (DAS-ELISA), electro-blot immunoassayおよびSDS-ポリアクリルアミド電気泳動 (SDS-PAGE)を行った。DAS-ELISAの結果, S-58とMIE-88, Ci-968とLB-1はそれぞれS-58抗体, Ci-968抗体に強く反応したが, Az-1とNI-1は両方の抗体に反応しなかった。SDS-PAGEの結果, S-58とMIE-88では約42Kと22K, Ci-968, LB-1, Az-1では約42Kと23K, NI-1では約42Kと22.5Kのそれぞれ2本のバンドが検出された。Electro-blot immunoassayによる分析では, S-58抗体はS-58とMIE-88の約42Kのバンドと強く反応し, Ci-968抗体はCi-968, LB-1, Az-1の約42Kのバンドと強く, S-58とMIE-88のそれとやや弱く反応した。NI-1の約42Kのバンドは両方の抗体と反応しなかった。また,いずれの分離株の場合でも,約22~23Kのバンドの反応は,どちらの抗体に対しても極めて弱かった。以上の結果から,供試分離株はSDVグループ(S-58, MIE-88), CiMVグループ(Ci-968, LB-1, Az-1), NIMV (NI-1)グループに分けられたが,これらを1ウイルスの系統,または別のウイルスとする為には,更に他の性状の比較が必要であると考えられる。
著者
家城 洋之 山口 昭 加納 健 小泉 銘册 岩波 徹
出版者
日本植物病理学会
雑誌
日本植物病理學會報 (ISSN:00319473)
巻号頁・発行日
vol.63, no.3, pp.170-175, 1997-06-25
被引用文献数
3

カンキツトリステザウイルス(CTV)強毒系統保毒森田ネーブルの苗木を熱処理して作出した無毒苗木に,ほ場より探索したCTV弱毒5系統および熱処理で作出した2系統ならびにカンキツベインエネーションウイルス(CVEV)を接種して弱毒保毒母樹を育成した。これらの母樹から増殖した苗木の新梢に,CTV強毒系統を保毒する森田ネーブルで飼育したミカンクロアブラムシを2日間放飼して接種した。接種1〜2年後にミカンコンテナに移植して戸外に置き,さらに3年後に周囲にカンキツが栽培されているほ場へ定植した。その後,定期的にライム検定,ステムピッティングの発生度,樹の生育,収量等の調査を行った。その結果,数種CTV弱毒系統の強毒系統の感染に対する干渉効果は,ライム検定,SP発生度調査より弱毒ウイルス接種後7〜9年間は認められたが,それ以降になると見られなくなった。弱毒系統接種樹では強毒系統接種樹に比べて樹の初期生育が旺盛で,樹が大きくなり,干渉効果が見られなくなった後も収量が多く,かつ大玉果であった。特に,弱毒系統M-15AおよびM-16Aは優れており,1990〜95年の間の5年間総収量が強毒接種樹に比べ約50%増,果実が1〜2階級大きくなった。果実のBrixおよび酸度は弱毒および強毒ウイルス接種樹間に差がなかった。