著者
富塚 祥夫
出版者
関東学院大学経済学部教養学会
雑誌
自然人間社会 (ISSN:0918807X)
巻号頁・発行日
vol.58, pp.107-123,

本稿では、戦前の一憲法学者である佐治謙譲の国家理論・憲法理論を取り上げ、その中で展開された日本的独自性強調の論理について考察する。佐治は、普遍性の研究のみならず特殊性の研究もまた学問上重要であることを説いたうえで、彼が高く評価する上杉慎吉の憲法理論を一歩前に進めることを自分の使命とみなし、当時のフランス人憲法学者レオン・デュギーの方法論にも依拠しつつ、日本国家の独自性の歴史的実証的解明にもとづく憲法理論の樹立をめざした。しかし、その主張内容には、天皇を西洋の君主とは質的に異なる存在だとする論理や権力を濫用するのは天皇ではなく天皇を補佐する者だとする論理、さらには日本的独自性は本来普遍性をもつもので、他国の模範となるべきものだとする論理が含まれていることに注意する必要がある。