著者
寳劔 久俊 山口 真美 佐藤 宏
出版者
独立行政法人 日本貿易振興機構アジア経済研究所
雑誌
アジア経済 (ISSN:00022942)
巻号頁・発行日
vol.63, no.2, pp.2-31, 2022-06-15 (Released:2022-06-29)
参考文献数
51

中国の「農民工」(農村出身の非農業就業者)は,安価な労働力の源泉として,中国経済の急速かつ持続的な発展を支えてきた。しかしながら,労働年齢人口の減少や農村労働力の高齢化とともに,農民工の供給の頭打ち傾向が強まり,賃金の引き上げや企業間の獲得競争も広まっている。そのため,農民工の熟練形成や職場への定着を促進し,コミットメントの向上を図ることが,企業経営者や政策担当者に求められてきている。このような問題意識のもと,中国における製造業の一大集積地域である江蘇省蘇州市において従業員へのアンケート調査を行い,農民工の職務意識を規定する要因を共分散構造分析によって考察した。分析の結果,「職務満足」と「仕事への埋め込み」は「組織コミットメント」を有意に高めること,「組織コミットメント」は農民工の「離職意向」を有意に引き下げること,若年層の農民工(「新世代農民工」)では「仕事への埋め込み」が「組織コミットメント」の高さを支える主要な要因であることが明らかとなった。以上の結果から,新世代農民工の組織コミットメントを向上させるため,新規就業者や若年従業員向けのきめ細かな研修・指導の重要性が示唆される。