著者
山田 紀彦
出版者
独立行政法人 日本貿易振興機構アジア経済研究所
雑誌
アジア経済 (ISSN:00022942)
巻号頁・発行日
vol.64, no.3, pp.2-30, 2023-09-15 (Released:2023-09-29)
参考文献数
128

特定の人物の選出が目的にもかかわらず,多くの独裁者は競争的選挙を実施する。しかし選挙は不確実であり,目的達成には操作が必要となる。とはいえ過度な操作は選挙だけでなく体制の正当性を低下させる。つまり独裁者は,操作による目的達成と正当性維持のあいだでジレンマに直面する。本稿はラオスの村長選挙を事例に,ラオス人民革命党が選挙を巧妙に操作することで目的を達成する一方,候補者選出過程に有権者の声を反映させるなど「民主的」選挙の外形を頑なに守り,ジレンマ解消に努めていることを明らかにする。選挙は茶番かもしれないが,党にとっては「民主主義」を演出する重要な舞台であり,体制が「民主主義」の価値を国民と共有しているとの認識を創り出す場となっている。本稿からは,「民主主義」へのコミットメントを示すことが,選挙ジレンマの解消だけでなく,独裁体制の正当化にとっても重要であることが示唆される。
著者
馬 欣欣 岩﨑 一郎
出版者
独立行政法人 日本貿易振興機構アジア経済研究所
雑誌
アジア経済 (ISSN:00022942)
巻号頁・発行日
vol.60, no.3, pp.2-38, 2019-09-15 (Released:2019-10-08)
参考文献数
93

共産党一党独裁制を維持する中国では,共産党員資格が,その保持者に賃金プレミアムをもたらすと論じられている。しかし,党員資格の賃金効果は,経済理論的に決して明確ではなく,その上,実証研究の成果も,肯定説と否定説が混在している。本稿は,先行研究のエビデンスの統合を介して,党員資格が賃金水準に及ぼす真の効果の特定を試みる。既存研究30点から抽出した332推定結果のメタ統合は,低位の水準ながらも,正の党員資格賃金効果の存在を示した。この結果は,公表バイアス及び真の効果の有無に関する検証結果によっても支持された。さらに文献間異質性のメタ回帰分析は,調査対象企業の所有形態,サーベイデータの種別,賃金変数の補足範囲や定義,推定期間及び推定量や制御変数の選択が,既存研究の実証成果に体系的な差異を生み出している可能性を強く示唆した。
著者
三木 理史
出版者
日本貿易振興機構アジア経済研究所
雑誌
アジア経済 (ISSN:00022942)
巻号頁・発行日
vol.46, no.5, pp.2-18, 2005-05
被引用文献数
1
著者
千坂 知世 山尾 大 末近 浩太
出版者
独立行政法人 日本貿易振興機構アジア経済研究所
雑誌
アジア経済 (ISSN:00022942)
巻号頁・発行日
vol.64, no.1, pp.2-26, 2023-03-15 (Released:2023-03-30)
参考文献数
58

イランのイスラーム革命防衛隊(IRGC)は,1979年革命から現在までイランの革命体制を国内外の脅威から守るという重要任務を担ってきた。その一つに周辺諸国のシーア派支援のための派兵が挙げられる。しかし,海外派兵には安全保障のジレンマや経済制裁など国益と相反する問題が生じる可能性がある。このようなパラドクスを孕むIRGC派兵をイラン国民がどのように捉えてきたのか。言論統制の厳しいイランにおいて,IRGCという体制そのものを象徴する組織に対する正確な世論を測ることは困難とされてきた。本論文では,そのような「社会的望ましさバイアス」の問題に対して,独自に実施したサーベイ実験を通じて克服を試みた。その結果,IRGCの海外派兵支持者はイラン全国で約35パーセントにとどまること,さらに支持/不支持の差は,体制への支持,信仰心,経済状況ではなく,対米意識の異なる回答者の間で最も強く有意に見られることがわかった。これは,革命体制への追従や宗教理念に基づく非合理性によって語られることの多かったこれまでのイラン対外政策研究とは異なる見方を示唆するものである。
著者
向山 直佑
出版者
独立行政法人 日本貿易振興機構アジア経済研究所
雑誌
アジア経済 (ISSN:00022942)
巻号頁・発行日
vol.59, no.4, pp.34-56, 2018-12-15 (Released:2019-03-25)
参考文献数
52

石油をはじめとする天然資源が民主主義を阻害するという「資源の呪い」に関する研究は,石油と民主主義の間に負の相関関係を見出す「資源の呪い」肯定論に対し,それを真っ向から否定する否定論,そして「呪い」は特定の場合にしか成り立たないとする条件論が修正を迫るという形で展開してきた。最近の研究では,「資源の呪い」には時間的・空間的な限定が付されるようになっており,これは一方で理論の精緻化に結びつくものではあるが,他方で歴史的,あるいは国際的な要因の軽視に繋がる危険性を孕んでいる。植民地支配から脱植民地化に至る期間にまで遡って分析の対象とし,かつ国際関係の影響に注目しつつ研究することで,資源と政治体制の間の因果関係のより的確な理解に近づくことができる可能性がある。