著者
寳月 誠
出版者
京都大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2002

1920年代から20世紀末までの約80年間のアメリカ社会学における主要な逸脱理論の展開過程は以下の時期に区分される。20年代から30年代のシカゴ学派、40年代から50年代のアノミー論や機能分析、60年代のレイベリング論や闘争論、70年代から80年代の保守的な時代の実証主義、90年代から21世紀にかけての統合理論の時代である。この過程を理論的パースペクティブからみると、構造論・相互作用論・行為者論の基本モデル間の循環・組み換え・統合として捉えられる。また、方法論は、実証主義/解釈主義、分析的/ナラティブ、リアリズム/構築主義に区別されるが、これらも時代によって主流となる方法論は交代している。こうした理論の展開過程から知の創造性を活性化する条件として、知識社会学的に以下の点を読み取ることができる。1.新規な逸脱理論は突然生み出されるものではない。構造論・相互作用論・行為者論の基本的パースペクティブ間の循環や組み換え、さらに実証主義や解釈主義などの方法論の交代として生じる。2.逸脱理論の発展は対立する視点を互いに考慮して、自らの立場をより鮮明にしたり、逆に相手の立場を取り入れて互いが類似してくることによって生じる。アボットが指摘するよう、対立する視点から現象を捉える「フラクタルな思考」は、理論の創造性において重要な役割を果たしている。3.理論が基本的なパースペクティブ間の循環であるとすれば、学界で影響力を発揮するには、それが伝統的な理論の継承や再解釈に基づくものであることをアピールし、一定の正統性を引きだすのが効果的である。4.学界での影響力は、理論自体の妥当性以外に、学派内部でのコリンズのいう「相互作用儀礼」の活発度や大学の威信などによって左右される。5.理論の交代を促す要因は社会・時代の要請と関連している。時代にマッチした逸脱理論は人々の関心を得て支持され、現実の政策に反映され、研究資金も獲得しやすく、大学でのポストも得やすい。注目を集める理論・学派ほど、「雪だるま式」に勢力を拡大する。