著者
寺沢 英理子
出版者
田園調布学園大学
雑誌
田園調布学園大学紀要 = Bulletin of Den-en Chofu University (ISSN:18828205)
巻号頁・発行日
no.16, pp.71-84, 2022-03

20代後半に「生きづらさ」を自覚してサイコセラピーを求めるクライエントの中には,幼少期から安心感のない養育環境に置かれて,親の精神安定に多大なエネルギーを注いできた人々がいる。彼らは広義のヤングケアラーということができ,そのサイコセラピーから得られた知見は,狭義のヤングケアラーのケアを考える上でも重要な示唆を与える。そのひとつは,スクールカウンセラーの役割の再認識である。広義のヤングケアラーは虐待や経済的困窮の渦中にはいないので,福祉のアプローチでは発見される可能性が極めて低い。しかし,学校で彼らに接する機会が多いスクールカウンセラーなら,「離人」を手がかりに広義のヤングケアラーを発見できる可能性がある。その際,非言語的表現の中に現れた持続的空想を察知することが助けになると考えられる。また,発見したヤングケアラーの母親をスクールカウンセラーがサポートできれば,養育環境の安定化も期待できる。狭義のヤングケアラーでも,社会的支援に次いで精神的ケアが必須であるが,非言語的表現方法を使いこなすスクールカウンセラーが,この部分を担うことができれば,セーフティネットの強化につながるであろう。