著者
一瀬 早百合
出版者
田園調布学園大学
雑誌
田園調布学園大学紀要 = Bulletin of Den-en Chofu University (ISSN:18828205)
巻号頁・発行日
no.10, pp.199-210, 2016-03

障害のある子どもをもつ親のメンタルヘルスの実態を「保護者のためのこころのケア相談」における語りをKJ法にて分析し,明らかにした。障害のある子どもの出現は,一旦決着がついていた過去の解決されていない問題,原家族との関係やトラウマを再燃させることになると考えられる。子どもの出生以後の過度の疲労や傷つき体験が手当てされていないこと,さらに現在の生活における家族,特に夫との関係やママ友や所属集団での生きづらさがメンタルヘルスに負の影響を与えることになる。それらが長期化すると,自分自身のふるまいに不安を感じ,無価値な存在なのではないかという自己否定感が強まり,メンタルヘルスが危機的な状況となる。一方では,その焦りが子どもへの虐待へ向かう場合もある。メンタルヘルスサポートには現在の生活における家族や所属集団での「生きづらさ」だけではなく,過去からの様々な「傷つき体験」へのケアというライフヒストリーの視点が必要である。
著者
隅河内 司
出版者
田園調布学園大学
雑誌
田園調布学園大学紀要 = Bulletin of Den-en Chofu University (ISSN:18828205)
巻号頁・発行日
no.13, pp.81-99, 2019-03

2014 年(平成26 年)6 月に介護保険法が改正(2015 年4 月施行)された。この法改正では,2025 年を目途に,地域で誰もが安心して最期まで暮らせる社会の実現に向け,医療,介護,住まい,生活支援・介護予防を包括的に確保する「地域包括ケアシステム」の構築を目指している。このため,新たな事業として介護予防・日常生活支援総合事業(以下「総合事業」という。)及び生活支援体制整備事業が創設された。そして,これら事業において,助け合い活動や地域活動を進める上で中核的な役割を果たす生活支援コーディネーターを全国の市区町村全域と日常生活圏域に設置することになったのである。本研究では,相模原市の生活支援コーディネーターを対象に,その活動の現状を調査し,今後の可能性を探った。結果として,相模原市の生活支援コーディネーターの配置については,市人口・区域面積の規模や地区の特性,各高齢者支援センターの運営など地域実情の違いから地域差は見られるものの,市全体でみると,資源の開発を目的とした生活支援体制整備事業は着実に取り組まれており,地域づくりや生活支援等サービスの整備を図るための土台づくりは進んでいることが明らかになった。今後,市コーディネーターが活躍できるように,全ての高齢者の介護予防を含めた地域づくりや地域福祉を推進する視点を市の方針として明確に組織内で共有するとともに,地域づくり部会の運営や住民主体サービス補助制度の見直しを図るほか,小地域活動の活性化を図ることが求められている。
著者
望月 隆之
出版者
田園調布学園大学
雑誌
田園調布学園大学紀要 = Bulletin of Den-en Chofu University (ISSN:18828205)
巻号頁・発行日
no.12, pp.195-204, 2018-03

2016 年7 月26 日未明,「津久井やまゆり園」にて元施設職員による殺傷事件が起きた。被害者は施設の利用者と職員であり,19 名の利用者が亡くなり,26 名が重軽傷を負うという大事件となった。事件後,報道機関により大きく報道され,専門家によるコメントや検証がなされた。しかし,事件の当事者である知的障害者の声は,ほとんど報道されてないという状況が続いた。「にじいろでGO!」は,横浜市在住の知的障害者の女性が,神奈川県内在住の知的障害者及び家族,支援者に呼びかけ,知的障害者のこれまでの人生や相模原障害者施設殺傷事件について,当事者が語る声を社会に伝えるために作られた当事者団体である。これまでの活動は,知的障害者の声として多くのメディアを通じて社会に発信されている。本報告では,「にじいろでGO!」の立ち上げの経緯及び事件後1 年までの活動について報告し,知的障害者が自ら事件について語ることの意義及び今後の課題と活動の展望まで述べる。
著者
矢萩 恭子 松山 洋平
雑誌
田園調布学園大学紀要 = Bulletin of Den-En Chofu University
巻号頁・発行日
no.5, pp.217-256, 2010

本研究は、田園調布学園大学が平成18年4月に4年制・共学の保育者養成学科を開設して以来、1年次の必修科目として開講されている「子ども家庭福祉演習」において行ってきた授業内容の一部である「田園調布学園大学・川崎フロンターレ『託児室』」の過去5年間の総括と、そこから導き出された保育という専門分野への導入教育としての意義と課題を明らかにするものである。地域における大学の果たすべき役割の一つとして、保育者養成大学が地域や市民に向けて行っている子育て支援事業は、種々行われているが、プロサッカーチームとの産学協働事業として展開されている本事業は他に例を見ない試みであると言える。限られた時間と空間と人材を用いて、サッカー観戦に訪れるサポーターを保護者とする乳幼児を試合時間の前後にかけて預かることが果たして真の子育て支援と言えるかどうかの議論はもちろん欠かせないが、今回は、科目担当者として託児室実習に参加してきた受講生の参加レポートおよび授業アンケート等をもとに、保育の初学者である1年次生が本実習をどのように経験し、本実習が保育への導入教育としてどのような意義を発揮できているかを見ることとした。その結果、どの年度においても託児室実習は、受講生に強い印象と経験内容を保障していることが確認され、託児室実習から学生が子どもとかかわる上での疑問や困難を感じ、自分自身の体験を通して子どもや保育に関する多岐にわたる学びや気づきを得ていることが分かった。しかし、同時に、学外実習である託児室実習の運営および実施上の課題も否めない。今後も継続していく上での課題としては、大学とサッカーチームとの連絡・協力体制の維持・強化、専任スタッフ・運営事務局・科目担当教員との連携・協力、学科専任教員による引率分担、試合日程に左右される授業内容進行上の問題、2年次以上の経験者の参加希望の受け入れや1年次生との同時参加、事前・事後指導授業のもち方、などが託児室スタッフへのインタビューや、託児室を利用する保護者アンケートなどから明らかとなった。より意義のある導入教育とするために、サッカーチーム・大学・学科の協力を得ながら、改善を積み重ねていくことが今後も求められていると言える。
著者
和 秀俊
出版者
田園調布学園大学
雑誌
田園調布学園大学紀要 = Bulletin of Den-en Chofu University (ISSN:18828205)
巻号頁・発行日
no.13, pp.115-131, 2019-03

本研究は,現代社会の深刻な問題となっている大学生のメンタルヘルスにおいて,大学生の自己肯定感や自尊感情を高め,SOC(Sense of Coherence=首尾一貫感覚)やレジリエンスを向上させるための「きっかけ」や「仕組み」を,先行研究や既存調査などの考察から探索的に検討する。その結果,ボランティア活動は,学校や家庭以外において,大学生が共同して社会的課題に取り組むという社会貢献を通して,社会的な役割を獲得することにより自己有用感や自己肯定感,自尊感情が向上し,人とのつながりを構築できる社会活動であることがわかった。したがって,ボランティア活動は,大学生のSOCやレジリエンスを高め,問題解決能力やストレス対処能力を向上させ,若者のメンタルヘルスに寄与する可能性があると思われる。
著者
伊東 秀幸 大西 守 田中 英樹 桑原 寛 伊藤 真人 大塚 俊弘 野口 正行 金田一 正史 斎藤 秀一 山本 賢 呉 恩恵
出版者
田園調布学園大学
雑誌
田園調布学園大学紀要 = Bulletin of Den-en Chofu University (ISSN:18828205)
巻号頁・発行日
no.10, pp.1-31, 2016-03

精神障害者支援に関して,市町村は精神障害者に対して身近な地域できめ細かく支援していく役割があり,保健所はその市町村に対して専門性や広域性が必要な事項について支援していく役割がある。また,精神保健福祉センターは,保健所,市町村に対する技術援助の役割を担っている。以上のように各機関は,それぞれ異なる役割を期待されているが,精神保健福祉法の改正や障害者自立支援法の施行などもあり,精神保健福祉行政を取り巻く環境は大きく変化している。そのため,保健所,市町村そして精神保健福祉センターによる精神障害者に対する支援の現状を把握し,それぞれの機関の果たすべき役割について見直していくことが重要である。そこで本研究では,厚生労働省平成26 年度障害者総合福祉推進事業「保健所及び市町村における精神障害者支援に関する全国調査」の結果から,保健所及び人口30 万人未満の市町村のデータを抽出し,精神障害者支援に関する,保健所と市町村の役割とその現状について考察を試みた。調査の結果から,指定都市型保健所,中核市型保健所や10 万人未満,30 万人未満の市町村においては,精神障害者支援に関する様々な取り組みがされているのに対し,都道府県型保健所ではこれまでの事業を中心に実施されている現状が分かった。これは,都道府県型保健所と市町村との間で精神障害者支援に関する役割分担が進んでいることからくることと推測される。30 万人未満の市町村では,精神障害者支援に関して,これまでの都道府県中心から市町村主体と変わっているが,その実施にあたり様々な困難を抱えており,これからも都道府県(保健所)等のバックアップが必要と考えている。そのための具体的な対策としては,保健所や精神保健福祉センターによるバックアップ体制を強化するとしている。一方,保健所は,今後重要となる精神保健福祉業務の体制については,管内市町村との連携強化を考えているという現状が把握できた。精神保健福祉センターに対する調査では,精神保健福祉センターの業務のうち保健所への技術援助は積極的に取り組む必要があるとしている。以上のことから,今後,保健所から管轄市町村に対して,これまで以上に技術援助や連携を進めていくことが必要であり,精神保健福祉センターからの技術支援は,保健所はもとより直接的に市町村にも積極的に進めることが課題であると思われる。また,「保健所及び市町村における精神保健福祉業務運営要領」は,平成18 年に発出以来10 年が経過していることから,現状にあった改訂の必要性があると思われる。
著者
岡田 啓子
出版者
田園調布学園大学
雑誌
田園調布学園大学紀要 = Bulletin of Den-en Chofu University (ISSN:18828205)
巻号頁・発行日
no.9, pp.173-185, 2015-03-25

不妊治療後に妊娠した妊婦は自然妊娠の妊婦と比べて,情緒不安定になりやすく,その後の育児においても子どもを過保護に扱ったり,過剰な期待をするといった育児への不適応が指摘されていた。これらの研究では不妊そのものを妊娠や育児への不安の主な原因としているが,不妊であったこと自体が問題となるだけではなく,治療中の経験がその後の妊娠に対する感情に影響を与えると考えるべきであろう。本稿では不妊治療中のストレスや夫婦関係が妊娠中の女性や男性に与える影響を明らかにすることを目的とし,検討を行った。不妊治療を経て妊娠した女性は,妊娠したことに対して肯定的な感情を強く持つ反面,それを強く望んでいた者ほど流産に対しての不安が高いという先行研究が支持されたほか,不妊治療中に家族との関係によって生じたストレスと妊娠への感情との間に関連が認められた。一方,男性に関して不妊治療経験の有無と“親になること”という意識との間に関連は認められなかった。しかし,不妊治療期間における夫婦関係のあり方によっては,エリクソンのいう「世代性」への意識が強められることがうかがえた。
著者
佐藤 芳子 林 和子 坂井 忠通
雑誌
田園調布学園大学紀要 = Bulletin of Den-En Chofu University
巻号頁・発行日
no.2, pp.29-40, 2007

麻疹は小児にとって,重症度の高い疾患であるが,最近成人(15歳以上)の発症も多くなってきている。国立感染症研究所の調査によると,近年患者数増加傾向にある年齢群は定期接種対象年齢を超えた20歳代前半での増加が見られていると報告している。2007年1月以降,東京都では高等学校や大学などで集団感染するなど,罹患患者が増え都内の多くの大学では休講になり,教育実習シーズンを迎え学生が各地に散らばるため,大学では麻疹対策に追われるという状況になった。また各大学では,感染防止のため抗体検査やワクチン接種を行なわなければならなくなり,そのうえ試薬やワクチン不足に直面する状況であった。田園調布学園大学では2名の罹患者にとどまり,集団感染は免れ,休講にはならなかったが,各施設実習や病院実習の時期にかかり,抗体検査やワクチン接種の必要性にせまられ,各病院やクリニックに連絡するなど,対応におわれた。幸い教職員の協力で,全学生及び教職員は抗体検査がおこなわれ,また抗体陰性の学生にはワクチン接種を行なうことが出来た。そこで抗体検査の結果などを元にその現状と今後の方向性などについて考察を加えたので報告する。
著者
一瀬 早百合
出版者
田園調布学園大学
雑誌
田園調布学園大学紀要 = Bulletin of Den-En Chofu University (ISSN:18828205)
巻号頁・発行日
no.10, pp.199-210, 2015

障害のある子どもをもつ親のメンタルヘルスの実態を「保護者のためのこころのケア相談」における語りをKJ法にて分析し,明らかにした。障害のある子どもの出現は,一旦決着がついていた過去の解決されていない問題,原家族との関係やトラウマを再燃させることになると考えられる。子どもの出生以後の過度の疲労や傷つき体験が手当てされていないこと,さらに現在の生活における家族,特に夫との関係やママ友や所属集団での生きづらさがメンタルヘルスに負の影響を与えることになる。それらが長期化すると,自分自身のふるまいに不安を感じ,無価値な存在なのではないかという自己否定感が強まり,メンタルヘルスが危機的な状況となる。一方では,その焦りが子どもへの虐待へ向かう場合もある。メンタルヘルスサポートには現在の生活における家族や所属集団での「生きづらさ」だけではなく,過去からの様々な「傷つき体験」へのケアというライフヒストリーの視点が必要である。
著者
大上 真礼 寺田 悠希
出版者
田園調布学園大学
雑誌
田園調布学園大学紀要 = Bulletin of Den-En Chofu University (ISSN:18828205)
巻号頁・発行日
no.11, pp.169-188, 2016

近年,人口に膾炙している「女子力」という概念について,その下位概念を構成するものが従来の「男らしさ・女らしさ」と異なるかについて探ることを目的に先行研究を概観した。「女子力」に関する研究を概観した結果,女性は男性に比べて「女子力」のイメージとして外見に関する項目を選ぶ者が多いこと,雑誌記事が想定する女子力と大学生たちが実際に考える「女子力」にはギャップがあることなどが明らかになった。次に,「男らしさ・女らしさ」の測定語の変遷を性格・身体・行動に分けて概観した。変化していない測定語も多かったが,「やさしさ」が女らしさの測定語のみならず,男らしさの測定語としても出現し,逆に男らしさとされてきた「包容力」が女らしさの自由記述でも挙がるようになるなどの変化があった。また,行動面では消費行動とその性らしさを結びつける研究はほとんどなかった。「女子力」と女らしさの測定語を比較すると,「女子力」は比較的短期間の行動で獲得・維持できるといった側面が女らしさと異なることが明らかになった。また,性格や消費以外の行動面では直接的に役に立つものが「女子力」とされていることもうかがえた。以上の結果を踏まえて,「女子力」の高低がメンタルヘルスに与える影響などについて,その性らしさとは異なる角度から検証していく必要があることが示唆された。
著者
山本 博之
出版者
田園調布学園大学
雑誌
田園調布学園大学紀要 = Bulletin of Den-En Chofu University (ISSN:18828205)
巻号頁・発行日
no.11, pp.23-36, 2016

1987(昭和62)年に社会福祉士及び介護福祉士法が制定され、社会福祉士の国家資格化が実現した。その流れを受けて、精神保健福祉士法が1997(平成9)年に制定され、精神保健福祉士の資格化がなされた。社会福祉士及び介護福祉士法制定から30年の年月が経過し、社会福祉士の活躍する場も当時のそれと比較しても格段に増すようになった。社会福祉士及び介護福祉士法はその後2007(平成19)年12月に改正され、その改正とともにソーシャルワーカー養成カリキュラムもその質及び量ともに大幅な見直しがなされて現在にいたっている。「新たな時代に対応した福祉の提供ビジョン」(2015(平成27)年)や「ニッポン一億総活躍プラン」(2016(平成28)年)といった未来志向の福祉政策プランが提言されている。本稿において、わが国におけるソーシャルワーカー養成課程の歴史を踏まえつつ、北米のソーシャルワーカー養成課程を紹介しながらソーシャルワーカー養成の現状と今後の課題への提言を行う。
著者
鈴木 文治
出版者
田園調布学園大学
雑誌
田園調布学園大学紀要 = Bulletin of Den-en Chofu University (ISSN:18828205)
巻号頁・発行日
no.7, pp.109-129, 2013-03-25

教育と福祉の連携について様々な取組が行われている。特別支援教育の時代になってからは、特に移行支援の観点からの連携の重要性が指摘されている。学齢期前の児童生徒における地域療育センターから特別支援学校小学部及び小学校特別支援学級への入学段階や、中学校特別支援学級から特別支援学校高等部への進学段階、さらに特別支援学校高等部生徒における学校から社会への卒業段階の課題は、円滑な移行支援のあり方をめぐり、種々のシステムが考案され実施されている。背景にあるものは、特別支援教育の理念と中核となっている個別のニーズへの対応であり、移行支援が単なる引き継ぎではなく、新たな段階を大きな混乱なく乗り越えていくための方策が、福祉と教育の重要な連携課題と見られるようになっている。 例えば、地域療育センターから特別支援学校小学部への入学については、環境の変化に適応することに困難性のある児童が、新しい学校という環境にソフトランディングできるために、入学前の状況を特別支援学校教員が見学し、指導場面の環境を把握し、構造化のための視覚支援カードの共有化を図る等の取組が行われている。また、学校から社会への移行支援に関しては、高等部での教育全体を通して、実際の社会生活をする上で必要な事柄について身につけるための指導が行われている。とりわけ、移行支援教育の鍵となっている、①職業訓練、②自立生活、③余暇活動、④コミュニティ参加、等が教育目標に掲げられ、特例子会社の担当者が職業アドバイザーになって、作業学習を企業の観点から助言を行い、作業所での校外実習の結果を学校の担任に詳しく伝えて、自立活動への助言をする等、実社会と学校との連携が機密に行われるようになっている。 これらは、福祉(家庭)から学校へ、また学校から社会への移行支援教育として、障害のある児童生徒のライフステージでの大きなステップを、スムーズに移行できることのために設定されているものである。 だが、このような移行支援がスムーズに行われず、寄るべき絆からドロップアウトする障害者がいる。ホームレス障害者たちである。なぜ彼らが家庭や施設、会社等から落ちていってしまうのか、社会のセイフティーネットからこぼれ落ちてホームレスになってしまうのか。本論では具体的な事例に基づいて、この点について探ってみたい。 なお、筆者は川崎市南部にある教会の牧師として、20年にわたってホームレス支援活動に取り組んできた。そこで出会った人たちの中から、障害者と思われる人々との関わりの中で知り得た様々な情報をもとに、教育と福祉の連携課題を探る。
著者
鈴木 文治
出版者
田園調布学園大学
雑誌
田園調布学園大学紀要 = Bulletin of Den-en Chofu University (ISSN:18828205)
巻号頁・発行日
no.12, pp.37-65, 2018-03

キリスト教におけるインクルージョン研究の第三弾として,ルカ神学の「貧しき者」を取り上げる。ルカは医師であり,ギリシャ人である。医師という客観的・科学的に対象を分析する視点があり,また,彼の生きた時代の重圧の中で人々の苦しみに直接手を触れる場面を多く体験した人物である。彼の語る福音書には,同じ出来事を記した共観福音書と比較すれば,ルカの視点の特徴が明確になっている。それは,事柄を何か精神主義的なものに解釈したり,時代的・政治的背景に配慮するような記述の傾向は少なく,事実を事実として捉えようとする意図が浮かび上がってくる。ギリシャ人であること,すなわち異邦人としての視点からは,ローマ帝国の圧政に苦しむユダヤ人とは一歩距離を置いた位置に立ち,政治的状況からの影響もあまり受けていない。このことが,事実を事実として把握する論調になっている。最も分かりやすい例は,マタイとの比較である。マタイは,「心の貧しい者」と記すのに対して,ルカは端的に「貧しい者」と表している。これはマタイが単純な貧しさではなく,心の貧しさ,精神の貧しさに触れていることは,マタイの持つ精神化,内面化の傾向の強さと同時に,ローマ帝国の植民地であるユダヤの置かれている政治的な状況を念頭にした表現であることが理解できる。すなわち,ローマ帝国の植民地政策の最大の関心事は,ローマへの反逆,抵抗運動を封じ込めることにある。貧しい者それ自体がローマ帝国への反逆分子となりうる可能性を持った人々ということになる。そのまま貧しき者という表現は,ローマ帝国への潜在的反逆者を意図すると考えられる恐れがあり,「心の貧しき者」という精神主義的表現を用いざるを得なかったと考えられる。ルカは自身が見聞きする事柄を直截に述べている。「貧しい者」,「今飢え渇いている者」,「今泣いている者」という,まさにルカの目の前にいる人々の「生の姿」を描くことによって,人間存在を描き出していて,臨在感のある言葉になっている。当然,彼らの前に立つキリストの言動も臨場感の迫る活き活きとした姿に描かれている。それが,ルカ神学の特徴である。では,ルカはこのような「貧しい者」をどのような視点から描いているのか。それはユダヤ教の時代の貧しい者の理解とは,どう異なっているのか。さらに,今日のインクルージョンの観点から,ルカの描く「貧しい者」の理解を探るのが本論の趣旨である。同時に,聖書における「貧しさ」の問題は,正に今日的世界的な課題となっていることを踏まえて,今日の「貧しさ」の意味と,その救済について触れてみたい。それは,論者が,現代の貧困の象徴であるであると考えられるホームレスの支援活動に,25 年間関わってきたことと関係している。そこで知らされる現代の貧困の課題と,ルカ神学の貧困の課題との対比を試み,インクルージョンのあり方に迫りたい。
著者
望月 隆之
出版者
田園調布学園大学
雑誌
田園調布学園大学紀要 = Bulletin of Den-En Chofu University (ISSN:18828205)
巻号頁・発行日
no.11, pp.151-168, 2016

本研究の目的は、知的障害者グループホームのサービス管理責任者と世話人の関係性に着目し、利用者への個別支援の現状と課題について明らかにすることである。本研究では、6名のサービス管理責任者を対象にインタビューを実施し、そのデータを質的データ分析法を用いて分析した。分析の結果、サービス管理責任者は、個別支援計画に基づいた個別支援の実現のために、<世話人への助言・指導>を日常的に行っており、その内容として、①利用者との関わりに関する相談、②個別支援に関する助言とフォローを行っている。世話人は、サービス管理責任者の助言・指導に基づき、<日常生活に必要な援助等の提供>として、①利用者ニーズに合った個別支援を行っている。サービス管理責任者は、<サービス管理責任者の課題>として、①世話人が年配者であることによる助言・指導のためらい、②世話人との関係構築への気遣いがあることが明らかになった。 <世話人の課題>として、①利用者との関係構築の困難さ、②グループホームのウチ化、④世話人不足を捉えていることが明らかになった。結果として、サービス管理責任者は、<サービス管理責任者の代行・対応>として、①世話人の役割代行、②利用者トラブルへの対応を行わなければならず、サービス管理責任者が果たすべき本来の役割遂行が困難である。知的障害者グループホームにおいて、利用者への十分な個別支援を実現するためには、世話人の人手不足の解消とスキル向上のための継続的な研修等への取り組みとサービス管理責任者への支援体制の確保が必要である。
著者
江島 尚俊
出版者
田園調布学園大学
雑誌
田園調布学園大学紀要 = Bulletin of Den-en Chofu University (ISSN:18828205)
巻号頁・発行日
no.10, pp.137-151, 2016-03

本稿においては,“日本倫理学史”を大学という視点から明らかにしていくべく,1874(明治7)年度から1881(明治14)年度の東京大学(前史を含む)における「ethics」の教育課程に着眼し調査を行った。その結果,この時期では「倫理学」という名称の科目は設置されておらず,「修身学」,「道義学」という名称であったこと,かつ,それらの科目はサイルやクーパーといった外国人教師が担当していたことを明らかにした。なお,そこでの内容は現在でいう「史学」,「心理学」が教授されていた。「倫理学」概念が大きく変化したのが1881(明治14)年度であり,井上哲次郎によってであった。井上は,「倫理問題」ではなく「倫理学問題」を解決するための学問として「倫理学」を定義し,「倫理学」の学問領域の確定を試みていたが,その背景には,「東洋」の再発見という文化史的な背景が存在していたことを論じた。
著者
増田 いづみ 生田 久美子
出版者
田園調布学園大学
雑誌
田園調布学園大学紀要 = Bulletin of Den-en Chofu University (ISSN:18828205)
巻号頁・発行日
no.10, pp.91-109, 2016-03

福祉における「自立」についての重要性は倫理的側面を含めて,様々な形で論じられており,その重要性については誰もが認めるものである。しかしながら,その「じりつ」には,同じ読み方でも「自立」と「自律」が存在し,両者の概念の違いについてはこれまで明確な形で議論されてこなかった。そしてそのことが,実践における「じりつ」をめぐる様々な在り様を現出させてきたと言えよう。そこで本論では,介護の中で用いられる「自立」「自律」という概念に注目し,各々の概念の意味するところを整理するとともに,特に高齢者介護その目指すべきものはなにかということについて,哲学・教育・介護の領域における文献分析を基に考察していく。
著者
鈴木 文治
出版者
田園調布学園大学
雑誌
田園調布学園大学紀要 = Bulletin of Den-en Chofu University (ISSN:18828205)
巻号頁・発行日
no.8, pp.17-48, 2014-03-25

特別支援学校では,児童生徒の教育的ニーズや学校の置かれた地域性を考慮して,教育課程を編成することが学習指導要領に記されている。それは,児童生徒を取り巻く様々な環境的要因を考慮し,また保護者や地域住民の要望,さらには時代的要請などを盛り込んだ教育目標の設定,教育の展開が求められているからである。教育の持つ普遍的な価値の実践をふまえつつ,一方で学校独自の教育の展開が期待されている。私は8年前に「神奈川県の特別支援学校のモデル校」として開設された神奈川県立麻生養護学校の初代校長を務め,学校独自の教育の展開を試みてきたが,本論は,その独自性の一つである全国初の「高等部の芸術コース」を取り上げ,「芸術コース」の意図する背景にあるもの,またその教育的成果について考察するものである。障害児教育における「美術・音楽・工芸」という芸術活動は,特別支援学校のみでなく,卒業後の福祉施設でも重要な位置づけとなっている。そのような芸術活動を高等部の教育の中核として位置づけた背景にあるものや,8年間の教育実践で見られる教育的成果について改めて検討したい。また,本論で取り上げる内容は,特別支援学校での教育実践だけでなく,インクルージョンの理念から見る芸術活動の意義についても考察している。これには次のような背景がある。開校以来,全国から教員を始めとする関係機関の人々が学校見学に訪れ,その中に文部科学省や厚生労働省の担当者がいた。彼らは芸術コースの取組を見学した後,このような活動が社会自立を目ざす障害児の教育に相応しいものかと発言し,障害者にとって,就労や自立のために労働意欲や体力を培う教育が本筋であり,芸術活動の取組は重要ではないと言い切った。障害者にとっての芸術活動は,教育的な意義においても社会自立のためにも極めて重要であるとの主張は認めてもらえなかった。従来から教育現場においては,芸術科目は基礎教科(国語,数学等)に比して一般大学の入試科目からも外されていることもあり,重要な教科と認められていない傾向がある。障害者にとっても「癒しの活動」と位置づけられるため,その活動の本来的な意義は十分に認識されていない。芸術活動は人間形成の上で最も重要な要素であり,教育上必須のものであるが,一般的にも専門家の間でも十分には理解されていない。その背景には,知育教育の偏重の根幹にある受験教育がある。全国初の芸術コースの設置を疑問視したことは,文部科学省や厚生労働省での,また一般社会における芸術活動への無理解が示されたものと見て取れる。しかし,開校後7年経った全国の特別支援学校校長会の冒頭の挨拶で,文部科学省の調査官は麻生養護学校の芸術コース設置の取組を紹介し,その意義を高く評価する発言をした。7年経って再評価された背景にはいったい何があるのだろうか。障害者の芸術活動の取組の拡大や,東日本大震災後のアートによるワークショップの充実が知れ渡ったこともあるのだろう。だが,文部科学省の芸術コースの評価が芸術活動への高揚には結びつかず,全国には芸術コースの置かれた特別支援学校は,その後一校だけ増えたに過ぎない。そのことは障害者のみならず,一般の教育における芸術活動への低い評価が払拭されていないことを示している。古く障害者や高齢者などの様々なニーズのある人々を対象に行われてきた芸術活動は,「芸術療法」として行われてきた。音楽療法や絵画療法,演劇療法,創作療法(俳句・短歌),工芸療法(工作や手芸)などがそれに当たる。これらは学校や福祉施設,病院などで広範に行われているが,「療法」として位置づけされている背景には,「病んでいる人」を対象に「社会自立」のための一環とされているからである。病人や障害者を対象とすることは,その活動を通して社会自立させる要因を内部に生じさせ,健常な人間を育成するという動機が伺えるからである。人間そのものを作り上げていく重要な教育的観点としての芸術活動からは,「癒しの芸術療法」とは依って立つ基盤が根底から異なっている。インクルーシブな社会を目指す今日的な考え方では,「療法」という用語には,「病人や障害者を癒すことにより,健常者に近づけ,社会自立を目指す」という発想が見て取ることができる。つまり障害者を健常者にするための芸術活動という考え方がある。しかし,そもそも芸術活動とは何か,また障害者を対象にした場合には「療法」として位置づけられているが,芸術活動は本質的に「療法」という領域に押し込められるものであるのか。とりわけ「インクルージョン」の理念による社会のあり方が求められている現在,障害者の芸術活動の意義を探ってみたい。
著者
喜始 照宣
出版者
田園調布学園大学
雑誌
田園調布学園大学紀要 = Bulletin of Den-en Chofu University (ISSN:18828205)
巻号頁・発行日
no.10, pp.285-296, 2016-03

本稿の目的は,2013 年に美術系大学4 校の学生を対象に実施された質問紙調査をもとに,大学入学以前での予備校・画塾経験の差異が,学生の大学生活に与える影響について検討することである。具体的には,つぎの分析課題を設定し,検証する。 分析課題1:予備校・画塾経験は,大学生活での諸活動への熱心さを高めるのか 分析課題2:予備校・画塾経験は,大学生活での悩みや消極性を低減するのか分析の結果,クロス集計レベルでは,予備校・画塾経験者のほうが,大学生活における,制作活動での熱心さが高い一方で,制作・研究面で悩みを抱く傾向があることが確認される。しかし,多変量解析によって,他の変数の効果を統制した上では,予備校・画塾経験は,1)制作活動での熱心さを高める効果を持たないが,2)制作・研究での悩みをもたらす効果を持つことが示される。よって,予備校・画塾での経験が,その後の学生の生活に及ぼす影響範囲は限定的であり,それは必ずしも正に働かないことが明らかとなる。