著者
一瀬 早百合
出版者
田園調布学園大学
雑誌
田園調布学園大学紀要 = Bulletin of Den-en Chofu University (ISSN:18828205)
巻号頁・発行日
no.10, pp.199-210, 2016-03

障害のある子どもをもつ親のメンタルヘルスの実態を「保護者のためのこころのケア相談」における語りをKJ法にて分析し,明らかにした。障害のある子どもの出現は,一旦決着がついていた過去の解決されていない問題,原家族との関係やトラウマを再燃させることになると考えられる。子どもの出生以後の過度の疲労や傷つき体験が手当てされていないこと,さらに現在の生活における家族,特に夫との関係やママ友や所属集団での生きづらさがメンタルヘルスに負の影響を与えることになる。それらが長期化すると,自分自身のふるまいに不安を感じ,無価値な存在なのではないかという自己否定感が強まり,メンタルヘルスが危機的な状況となる。一方では,その焦りが子どもへの虐待へ向かう場合もある。メンタルヘルスサポートには現在の生活における家族や所属集団での「生きづらさ」だけではなく,過去からの様々な「傷つき体験」へのケアというライフヒストリーの視点が必要である。
著者
塚本 まゆみ
出版者
田園調布学園大学
雑誌
人間文化研究 (ISSN:13477781)
巻号頁・発行日
vol.1, pp.103-114, 2003-03-20

ハリウツド映画に登場した新しいタイプの行動的なヒロイン像の分析を通じて,性別役割分担論や女性の社会的地位に関する現実と理念の変容を読む。そこに現われた女性の自己決定への強い意志は,他方では身体を通じて表象されてきた「女性らしさ/男性らしさ」というジェンダー規範そのものの変容として表現されようとしており,そのような規範に対する根本的な疑問の出発点ともなり得るだろう。
著者
望月 隆之
出版者
田園調布学園大学
雑誌
田園調布学園大学紀要 = Bulletin of Den-en Chofu University (ISSN:18828205)
巻号頁・発行日
no.12, pp.195-204, 2018-03

2016 年7 月26 日未明,「津久井やまゆり園」にて元施設職員による殺傷事件が起きた。被害者は施設の利用者と職員であり,19 名の利用者が亡くなり,26 名が重軽傷を負うという大事件となった。事件後,報道機関により大きく報道され,専門家によるコメントや検証がなされた。しかし,事件の当事者である知的障害者の声は,ほとんど報道されてないという状況が続いた。「にじいろでGO!」は,横浜市在住の知的障害者の女性が,神奈川県内在住の知的障害者及び家族,支援者に呼びかけ,知的障害者のこれまでの人生や相模原障害者施設殺傷事件について,当事者が語る声を社会に伝えるために作られた当事者団体である。これまでの活動は,知的障害者の声として多くのメディアを通じて社会に発信されている。本報告では,「にじいろでGO!」の立ち上げの経緯及び事件後1 年までの活動について報告し,知的障害者が自ら事件について語ることの意義及び今後の課題と活動の展望まで述べる。
著者
隅河内 司
出版者
田園調布学園大学
雑誌
田園調布学園大学紀要 = Bulletin of Den-en Chofu University (ISSN:18828205)
巻号頁・発行日
no.13, pp.81-99, 2019-03

2014 年(平成26 年)6 月に介護保険法が改正(2015 年4 月施行)された。この法改正では,2025 年を目途に,地域で誰もが安心して最期まで暮らせる社会の実現に向け,医療,介護,住まい,生活支援・介護予防を包括的に確保する「地域包括ケアシステム」の構築を目指している。このため,新たな事業として介護予防・日常生活支援総合事業(以下「総合事業」という。)及び生活支援体制整備事業が創設された。そして,これら事業において,助け合い活動や地域活動を進める上で中核的な役割を果たす生活支援コーディネーターを全国の市区町村全域と日常生活圏域に設置することになったのである。本研究では,相模原市の生活支援コーディネーターを対象に,その活動の現状を調査し,今後の可能性を探った。結果として,相模原市の生活支援コーディネーターの配置については,市人口・区域面積の規模や地区の特性,各高齢者支援センターの運営など地域実情の違いから地域差は見られるものの,市全体でみると,資源の開発を目的とした生活支援体制整備事業は着実に取り組まれており,地域づくりや生活支援等サービスの整備を図るための土台づくりは進んでいることが明らかになった。今後,市コーディネーターが活躍できるように,全ての高齢者の介護予防を含めた地域づくりや地域福祉を推進する視点を市の方針として明確に組織内で共有するとともに,地域づくり部会の運営や住民主体サービス補助制度の見直しを図るほか,小地域活動の活性化を図ることが求められている。
著者
和 秀俊
出版者
田園調布学園大学
雑誌
田園調布学園大学紀要 = Bulletin of Den-en Chofu University (ISSN:18828205)
巻号頁・発行日
no.13, pp.115-131, 2019-03

本研究は,現代社会の深刻な問題となっている大学生のメンタルヘルスにおいて,大学生の自己肯定感や自尊感情を高め,SOC(Sense of Coherence=首尾一貫感覚)やレジリエンスを向上させるための「きっかけ」や「仕組み」を,先行研究や既存調査などの考察から探索的に検討する。その結果,ボランティア活動は,学校や家庭以外において,大学生が共同して社会的課題に取り組むという社会貢献を通して,社会的な役割を獲得することにより自己有用感や自己肯定感,自尊感情が向上し,人とのつながりを構築できる社会活動であることがわかった。したがって,ボランティア活動は,大学生のSOCやレジリエンスを高め,問題解決能力やストレス対処能力を向上させ,若者のメンタルヘルスに寄与する可能性があると思われる。
著者
犬塚 典子
出版者
田園調布学園大学
雑誌
田園調布学園大学紀要 = Bulletin of Den-en Chofu University (ISSN:18828205)
巻号頁・発行日
no.13, pp.133-147, 2019-03

日本における女性医師の比率は,2016年では21. %である。一方,OECD加盟国では概ね医師の2人に1人が女性という状況である(2015年)。海外における女性医師の養成並びに生涯学習の状況を知るために,カナダの医学教育,医師の専門分野における男女統計,女性医師団体による継続専門教育(Continuing Professional Development)の実践を考察する。カナダにおける女性医師比率は41.2%であるが,医師養成課程の在籍者数においては,1995年に50%を超え,2015年では55.1%である。医学教育の場では女性が多数派となり20年が経っているが,ワーク・ライフ・バランスやリーダーシップなどの面で課題は残されている。そのため,女性医師団体はネットワーキング活動と共に,カナダ専門医協会が定める継続専門教育の機会を提供し,女性のキャリア形成支援を行っている。
著者
鈴木 文治
出版者
田園調布学園大学
雑誌
田園調布学園大学紀要 = Bulletin of Den-En Chofu University (ISSN:18828205)
巻号頁・発行日
no.11, pp.55-80, 2016

本論は、ルカ神学におけるインクルージョン研究として、「異邦人」の理解を取り上げたものである。ルカは『ルカによる福音書』及び『使徒言行録』の著者として知られるが、当時の社会で差別や排除の対象となっている「異邦人」を、ルカ神学ではどのように取り上げ、位置づけているのかを探り、キリスト教におけるインクルージョンの思想や実践を考察するものである。なお、本論は昨年の大学紀要第10号「キリスト教におけるインクルージョン研究-ルカ神学における障害理解-」の続編に当たるものである。さて、「異邦人」とはユダヤ人以外の民族のことを示す言葉である。この「異邦人」をルカはどのように福音の中に位置づけていたのかが、研究テーマである。ユダヤ人は、自分たちが神によって選ばれ、導かれた民として、強固な「選民意識」を持っていた。その選民意識の故に、他民族に対しては排他的・差別的な態度を取っている。ユダヤ人の歴史は、この「選民意識」による他民族への侵略であるが、その背景には何があるのか。また、選びの神ヤハウェは、真実の神を信じない「異邦人」への裁きと同時に、「不信仰なユダヤ人」に対しても裁きを行う。その頂点にあるのは、神による国の滅びである。ユダヤ民族を選び、導いた神が、最後はユダヤ人の不信仰を理由に約束の地を他民族に与え、民族は捕囚の憂き目を見る。このような歴史の過酷さの中でも、神信仰を失わず、選ばれた民の誇りを失わなかったのはなぜか。本論では、旧約聖書における「裁きの神」の強い一面によって、「異邦人」への排他性・攻撃性が正当化され、カナン侵略が描かれている。ユダヤ人のカナン定着の歴史は、他民族の抹殺、殺戮の歴史である。そこには異邦人に対する憐れみ、配慮は見られない。「異邦人」は「異教徒」であるが故に、滅ぼされる運命にあると考えられている。一方、新約聖書におけるイエス・キリストの言動は、「異邦人」に対する排他的・差別的扱いではなく、むしろ異邦人が神の国を継ぐ者との表現に示されるように、好意的に扱われる場面が多く見られる。ルカは、「異邦人」が救いの対象になるのかという議論の渦中にいて、ユダヤ人だけが救いの対象であることの原則を超えて、むしろ頑ななユダヤ人ではなく、異邦人の救いに強い関心を示している。使徒言行録における初代キリスト教会の進むべき道が、大きく方向転換されるようになった経緯が、ルカ神学の随所に見られる。ルカ自身がギリシャ人であり、すなわち異邦人であったという事実が、異邦人の救いへの強い関心を生み出し、キリスト教が世界宗教へと発展する足場を作ったと考えられる。現代社会の大きな潮流に、「インクルーシブ社会」への展望がある。福祉や教育、社会のあり方が、特定のマイノリティの人々を排除・差別するのではなく、包み込む共生のあり方が求められる時代になってきている。キリスト教における「インクルージョン」思想の背景を探り、今日的な宗教的意義について探りたい。それは、とりわけ世界全体が、マイノリティへの排除や差別の方向性に突き進んでいるからである。今日の重いテーマとなっている「異邦人、すなわち他国民との共生」について、ルカ神学が私たちに何を指し示しているのか。ルカの神学における「インクルージョン」思想を明らかにすることが、本論の趣旨である。それは、福音書や使徒言行録に示されている「排除されている人たち」を本質的には教会の宣教の対象としてこなかった現代のキリスト教会のあり方への批判、そして社会全体への批判についての示唆になると考えられる。
著者
冨永 健太郎
出版者
田園調布学園大学
雑誌
田園調布学園大学紀要 (ISSN:13477773)
巻号頁・発行日
vol.2, pp.195-204, 2007

1949年の身体障害者福祉法では,その制定過程において,いわゆる「総合法」的な議論がなされたが,結果としてそれは実現しなかった。また,1960年の精神薄弱者福祉法は,児童福祉法の唱える「独立自活」規定との連続性を(形式的にであったとしても)担保するという考えのもとで,機能障害によって保護・収容するのではなく,あらゆる「広義の障害者」を対象としてきた救護施設を周到に排除することで成立した。わが国では,この身体障害者福祉法と,精神薄弱者福祉法の制定によって,障害種別施策が確立する。この2法が成立したことで,他国に例を見ない機能障害別の縦割り制度が誕生したのである。こうした「機能障害の種類と年齢による対象区分」が先立つわが国の障害者福祉のあり方に対して,日本障害者協議会(JD)は,1996年に総合福祉法としての障害者福祉法を試案として提起している。だが,現行の障害者自立支援法では,そのような試案を必ずしも反映するものにはなりえていない。平成21年度には障害者自立支援法の改正が行なわれる。当該の法改正においては,制度が支援を阻む事態を回避しなければならない。それは,何よりもまず,障害のある当事者の支援ニーズが先行するものでなければならない。
著者
藤澤 益夫
出版者
田園調布学園大学
雑誌
人間福祉研究 (ISSN:13477773)
巻号頁・発行日
vol.1, pp.3-48, 1998-12-25

社会保障ないし福祉社会のように理念としても制度としても成立後まだ歴史が浅く,しかもいまなお展開のしきりな分野については,その実体と機能は日々揺れ動いているに等しい。そこで,社会保障評価の土台を固めるフレームワークのひとつとして,これまで意外におろそかにされてきた社会保障/福祉社会をめぐる基本的な諸用語の生まれ育った経緯を探るエティモロジカルな発生論的考察をあらためて試みた。こうして,現代の福祉概念をささえているキーワードが,社会経済的環境条件の変遷とたがいにからみあいながら,変容を重ね定着してゆく道筋を具体的・沿革的に回顧し追跡することにより,社会保障/福祉社会の現座標にたいする認識の錯綜を整理して,その役割への理解を深め,ひいては将来像の堅実な展望に資そうとするものである。
著者
岡田 啓子
出版者
田園調布学園大学
雑誌
田園調布学園大学紀要 = Bulletin of Den-en Chofu University (ISSN:18828205)
巻号頁・発行日
no.9, pp.173-185, 2015-03-25

不妊治療後に妊娠した妊婦は自然妊娠の妊婦と比べて,情緒不安定になりやすく,その後の育児においても子どもを過保護に扱ったり,過剰な期待をするといった育児への不適応が指摘されていた。これらの研究では不妊そのものを妊娠や育児への不安の主な原因としているが,不妊であったこと自体が問題となるだけではなく,治療中の経験がその後の妊娠に対する感情に影響を与えると考えるべきであろう。本稿では不妊治療中のストレスや夫婦関係が妊娠中の女性や男性に与える影響を明らかにすることを目的とし,検討を行った。不妊治療を経て妊娠した女性は,妊娠したことに対して肯定的な感情を強く持つ反面,それを強く望んでいた者ほど流産に対しての不安が高いという先行研究が支持されたほか,不妊治療中に家族との関係によって生じたストレスと妊娠への感情との間に関連が認められた。一方,男性に関して不妊治療経験の有無と“親になること”という意識との間に関連は認められなかった。しかし,不妊治療期間における夫婦関係のあり方によっては,エリクソンのいう「世代性」への意識が強められることがうかがえた。
著者
小田 敏雄
出版者
田園調布学園大学
雑誌
田園調布学園大学紀要 = Bulletin of Den-en Chofu Univerisy (ISSN:18828205)
巻号頁・発行日
no.14, pp.63-78, 2020-03

本研究は,精神障害者の意思表出と自己決定支援のための「場と空間の活用」の可能性を実証研究で探ることを目的にした研究のための文献からの検討である。そのため「場」,「空間」が,対人支援など人にかかわる分野でどのように活かされ,意義があるか文献から検討した。文献検索にはCiNiiを活用し該当した31 件の論文と著者検索から9 本の論文を選定した。社会福祉,高齢者福祉,社会教育,精神医療,建築,学校教育の分野から検討し,人がかかわりあう「場」の持つ力と構成する成員の意欲を創出することが確認できた。そして,精神障害の特性を踏まえ検討していった。そのなかで「基地として,隠れていられる場」「抱える環境」が明示され,続いて,当事者であり支援者でもあるパトリシアディーガンが述べている,リカバリーを育むリハビリテーションの要点である①柔軟性②多様性③当事者の存在と希望は伝染する④共に弱さに向き合い成長しようとする支援者の姿勢が,関連しあっていた。今後,前述の二点と合わせ,六つの視点をもち精神障害者の意思表明,自己決定支援のための「場と空間の活用」を実証していくのが課題である。
著者
伊東 秀幸 大西 守 田中 英樹 桑原 寛 伊藤 真人 大塚 俊弘 野口 正行 金田一 正史 斎藤 秀一 山本 賢 呉 恩恵
出版者
田園調布学園大学
雑誌
田園調布学園大学紀要 = Bulletin of Den-en Chofu University (ISSN:18828205)
巻号頁・発行日
no.10, pp.1-31, 2016-03

精神障害者支援に関して,市町村は精神障害者に対して身近な地域できめ細かく支援していく役割があり,保健所はその市町村に対して専門性や広域性が必要な事項について支援していく役割がある。また,精神保健福祉センターは,保健所,市町村に対する技術援助の役割を担っている。以上のように各機関は,それぞれ異なる役割を期待されているが,精神保健福祉法の改正や障害者自立支援法の施行などもあり,精神保健福祉行政を取り巻く環境は大きく変化している。そのため,保健所,市町村そして精神保健福祉センターによる精神障害者に対する支援の現状を把握し,それぞれの機関の果たすべき役割について見直していくことが重要である。そこで本研究では,厚生労働省平成26 年度障害者総合福祉推進事業「保健所及び市町村における精神障害者支援に関する全国調査」の結果から,保健所及び人口30 万人未満の市町村のデータを抽出し,精神障害者支援に関する,保健所と市町村の役割とその現状について考察を試みた。調査の結果から,指定都市型保健所,中核市型保健所や10 万人未満,30 万人未満の市町村においては,精神障害者支援に関する様々な取り組みがされているのに対し,都道府県型保健所ではこれまでの事業を中心に実施されている現状が分かった。これは,都道府県型保健所と市町村との間で精神障害者支援に関する役割分担が進んでいることからくることと推測される。30 万人未満の市町村では,精神障害者支援に関して,これまでの都道府県中心から市町村主体と変わっているが,その実施にあたり様々な困難を抱えており,これからも都道府県(保健所)等のバックアップが必要と考えている。そのための具体的な対策としては,保健所や精神保健福祉センターによるバックアップ体制を強化するとしている。一方,保健所は,今後重要となる精神保健福祉業務の体制については,管内市町村との連携強化を考えているという現状が把握できた。精神保健福祉センターに対する調査では,精神保健福祉センターの業務のうち保健所への技術援助は積極的に取り組む必要があるとしている。以上のことから,今後,保健所から管轄市町村に対して,これまで以上に技術援助や連携を進めていくことが必要であり,精神保健福祉センターからの技術支援は,保健所はもとより直接的に市町村にも積極的に進めることが課題であると思われる。また,「保健所及び市町村における精神保健福祉業務運営要領」は,平成18 年に発出以来10 年が経過していることから,現状にあった改訂の必要性があると思われる。
著者
藤澤 益夫
出版者
田園調布学園大学
雑誌
人間文化研究 (ISSN:13477781)
巻号頁・発行日
vol.1, pp.1-49, 2003-03-20

絶対に一過性の時間の流れのなかで,その速度を相対的に緩める努力の典型が情報の領域をめぐってみられる。それは,伝達速度改善の永い道程をへて,いまでは情報の生産と処理の全面におよぶが,情報伝達の即時性を高めるさまざまな工夫の文化史を近世日本を中心にして具体的にふりかえり,現代の情報社会のもつ社会的意味を考える。それを通じて,時間という資源の利用効率の飛躍的向上が拓く広大な可能性を評価し,反面で,管理社会での情報の集中的な支配と操作がもたらす危うさを問いかける。