著者
寺澤 浩樹
出版者
文教大学
雑誌
文学部紀要 = Bulletin of the Faculty of Language and Literature (ISSN:09145729)
巻号頁・発行日
vol.25, no.2, pp.136-118, 2012-03-01

武者小路実篤の童話劇「かちかち山」(『白樺』大6・7)の特質は、巌谷小波の〈昔話〉「勝々山」との比較によれば、原話にみられる前半部と後半部の飛躍や不統一が、兎を主人公とする報恩譚とされたこと、および人物造型に一貫性が与えられたことによって解消され、同時に兎と爺の連携による勝利の歓喜が表現されたことである。また、この作品は、登場人物の心理と思考の精細でリアルな表現によって、復讐の〈昔話〉から、信頼の主題や悲壮を帯びた歓喜という情調をもった、近代の〈童話劇〉へと変った。戯曲として読んだ場合、子どもには難しいが、大人向けの芸術作品を教材としていた信州白樺の教師赤羽王郎に慫慂されて創作したこの作品に、武者小路は、その主題が子どもの心にも感じられ得ると信じていた。〈昔話〉を〈童話劇〉に昇華させた過程の、歓喜から拭い去り得ない悲壮の情調は、まさに武者小路の創作の歩みと一致する。
著者
寺澤 浩樹
出版者
文教大学
雑誌
文学部紀要 (ISSN:09145729)
巻号頁・発行日
vol.26, no.1, pp.146-131, 2012-09-29

武者小路実篤の中期(大3〜6)作品群において、素材を同じくする戯曲「罪なき罪」(大3・3)と小説「不幸な男」(大6・5)の二作品は、他の諸作品を挟む時期に位置する。その中には、小説「彼が三十の時」(大3・10〜11)、戯曲「その妹」(大4・3)、戯曲「ある青年の夢」(大5・3〜11)など、戦争への作者の関心が反映された著名な作品が多く、この中期が「ヒューマニズムの時代」と呼ばれるゆえんである。しかし、小説「不幸な男」の特質として、戯曲「罪なき罪」から小説「不幸な男」への変容の根底には、〈死のリアルな表現〉の意図であること、その素材のデフォルメの意図には、モデルの〈苦境と苦悩の明確化〉があること、その主題は、〈神ならざる凡人には重すぎた運命〉であり、その情調は、〈厳粛な暗澹たる悲哀〉であることなどから、小説「不幸な男」という視座からは、この中期には、〈死の認識〉のモチーフが明瞭に見える。それが、「非戦」的と言われる諸作品を芸術として成立させる礎であり、武者小路独自の運命の観照なのである。
著者
寺澤 浩樹
出版者
文教大学
雑誌
文学部紀要 (ISSN:09145729)
巻号頁・発行日
vol.26, no.1, pp.146-131, 2012-09 (Released:2012-10-18)

武者小路実篤の中期(大3~6)作品群において、素材を同じくする戯曲「罪なき罪」(大3・3)と小説「不幸な男」(大6・5)の二作品は、他の諸作品を挟む時期に位置する。その中には、小説「彼が三十の時」(大3・10~11)、戯曲「その妹」(大4・3)、戯曲「ある青年の夢」(大5・3~11)など、戦争への作者の関心が反映された著名な作品が多く、この中期が「ヒューマニズムの時代」と呼ばれるゆえんである。しかし、小説「不幸な男」の特質として、戯曲「罪なき罪」から小説「不幸な男」への変容の根底には、〈死のリアルな表現〉の意図であること、その素材のデフォルメの意図には、モデルの〈苦境と苦悩の明確化〉があること、その主題は、〈神ならざる凡人には重すぎた運命〉であり、その情調は、〈厳粛な暗澹たる悲哀〉であることなどから、小説「不幸な男」という視座からは、この中期には、〈死の認識〉のモチーフが明瞭に見える。それが、「非戦」的と言われる諸作品を芸術として成立させる礎であり、武者小路独自の運命の観照なのである。