- 著者
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寺田 一薫
- 出版者
- 慶應義塾大学
- 雑誌
- 三田商学研究 (ISSN:0544571X)
- 巻号頁・発行日
- vol.43, no.3, pp.171-186, 2000-08-25
交通市場において,弱い調整政策は規制緩和と両立するのであろうか。本稿は,そのようなケースでの弱い最小限の交通調整政策の実行案を提示しようとするものである。英国では,先進国で最初に,1985年交通法によって域内バスの規制緩和が行なわれた。しかし,現労働党政権は,白書(『ニューディール』)と協議文書(『サラブレッド』)から2000年交通法案までのプロセスにおいて,部分的な再規制を立法化しようとしている。この立法化の重要な部分に,地方政府とバス事業者の間での協力があり,それらは「品質協定」ないし「品質契約」と称するものの下で行なわれることになっている。本稿では,その品質協定/契約が英国の域内バス市場においてもつ意味,ならびにその下で政府が果たすべき役割について分析を行なう。比較的中央集権的な国家である英国においても,域内バスに関しては分権的な対応をとらざるをえなくなっており,自治体ごとの対応を通じて,比較制度的な検討ができる。以下,Iにおいて,当該規制緩和の概要と政策修正論議について概観したあと,IIで15年間にわたって行なわれてきた自治体の規制緩和への公式な対応を論じる。IIIにおいては,自治体の行動の前提となる市場の構造と行動について紹介する。IVにおいては,弱い交通調整の一例として,英国で自然発生した自治体とバス事業者間での品質協定について検討する。Vでは,これらの趨勢をふまえての現労働党政権の政策動向について紹介する。さらにVIにおいて,これらの政策論の総括を行なうことにする。