著者
寺田 勇人 曽根 智史
出版者
公益社団法人日本産業衛生学会
雑誌
産業衛生学雑誌 (ISSN:13410725)
巻号頁・発行日
vol.42, no.2, pp.49-60, 2000-03-20
被引用文献数
3

地域産業保健センター事業(以下「地域センター」という.)は, 常勤50人未満の小規模な事業場(以下「小規模事業場」という.)の身近なところで, 無料で産業保健サービスを提供する事業として誕生したが, 利用実績は全国的に低調である報告が多く, 新宿地域センターについても同様である.本研究では, 新宿地域センターを対象に, 1996年10月〜1999年3月に利用のあった78事業場の利用状況の分析とともに, 1998年度1年間に1回以上利用のあった50事業場を対象に, 利用に至った経緯, 利用前に抱いていたイメージ, 利用後の感想などについて質問紙調査を実施することにより, 多くの地域センターの利用状況が低調である要因及び小規模事業場の産業保健ニーズを質的に検討し, 地域センターの効果的な運用について考察した.地域センターの利用状況が低調である要因として, まず, 地域センターの存在とその機能が十分に知られていないことが明らかになった.また, 相談日時・回数などのサービス体制, マンパワー, 予算措置などが小規模事業場数及びニーズに見合っていないといったサービス基盤が不十分であること, サービスエリアが, 市・区役所及び町村役場(以下「基礎的自治体」という.)の保健サービスと一致していない地域があることなど, 多くの課題が浮き彫りになった.その解決策として, 地域センター機能の普及啓発の推進, マンパワーの充実, 初回アクセスへの迅速かつ的確な対応, 規定のサービス内容の充実, 健診などの規定外サービスとの組み合わせること, 事業者団体及び個々の小規模事業場とのパイプを太くすること, 関係機関(医療機関及び関連医師会, 基礎的自治体, 都道府県型保健所及び政令型保健所(以下「保健所」という.), 市区町村保健センター(以下「保健センター」という.), 健康保険組合, 地域の労働衛生機関, 民間健康増進施設等)との連携協力や他の地域センターとの交流が重要である.また, 1997年度から開始された「産業医共同選任事業」の活用, 1998年度から開始された機能を強化する地域センター(以下「拡充センター」という.)や「母性健康管理相談事業」としての指定を積極的に受けることなどが考えられた.さらに, 産業保健推進センター事業(以下「推進センター」という.), 専門労働衛生機関, 労働衛生行政等からの支援も必要である.その他, 早急な解決は難しいと思われるが, さらなる予算措置の拡大とその柔軟な運用, 基礎的自治体とサービスエリアを一致させることなども有効であると思われる.