著者
藤野 善久 堀江 正知 寶珠山 務 筒井 隆夫 田中 弥生
出版者
公益社団法人 日本産業衛生学会
雑誌
産業衛生学雑誌 (ISSN:13410725)
巻号頁・発行日
vol.48, no.4, pp.87-97, 2006 (Released:2006-08-15)
参考文献数
18
被引用文献数
23 26

労働時間と精神的負担との関連についての体系的文献レビュー:藤野善久ほか.産業医科大学公衆衛生学教室―労働環境をとりまく厳しい状況のなか,労働者のストレスやうつ・抑うつなどメンタルヘルス不全が増加していると指摘されている.これに伴い,精神障害等の労災補償に関する請求件数,認定件数ともに著しい増加傾向にある.労働時間,対人関係,職場における支援,報酬などは労働者のメンタルヘルスに影響を与える要因と考えられている.平成16年には厚生労働省が「過重労働・メンタルヘルス対策の在り方に係る検討会」報告書を発表し,長時間の時間外労働を行ったことを一つの基準として対象者を選定し,メンタルヘルス面でのチェックを行う仕組みをつくることを推奨した.しかしながら,上で示されたメンタルヘルス対策としての長時間労働の基準は,企業・産業保健現場での実践性を考慮したものであり,労働時間と精神的負担との関連についての科学的な確証は十分に得られていない.一方で,労働時間が様々な労働環境要因,職業ストレス要因と関連して労働者の精神的負担やメンタルヘルスに影響を与えることは,過去の研究からも合理的に解釈できる.そこで本調査では,労働時間とうつ・抑うつなどの精神的負担との関連を検討した文献の体系的レビューを行い,労働時間と精神的負担の関連についての疫学的エビデンスを整理することを目的とした.PubMedを用いて131編の論文について検討を実施した.労働時間と精神的負担に関して検討した原著論文が131編のうち17編確認された(縦断研究10編,断面研究7編).それらのレビューの結果,精神的負担の指標との関連を報告した文献が7編であった.また,労働時間の評価に様々な定義が用いられており,研究間の比較を困難にしていた.今回のレビューの結果,労働時間とうつ・抑うつなどの精神的負担との関連について,一致した結果は認められなかった. (産衛誌2006; 48: 87-97)
著者
垰田 和史 中村 賢治 北原 照代 西山 勝夫
出版者
公益社団法人日本産業衛生学会
雑誌
産業衛生学雑誌 (ISSN:13410725)
巻号頁・発行日
vol.47, no.6, pp.246-253, 2005-11-20
被引用文献数
1 3

新医師臨床研修制度導入以前の研修医の労働や生活の実態を検討する目的で, 国立大学附属病院に所属する102名の研修医について, 連続した4週間の生活時間調査を行った.調査対象とした2,722人日のうち76%の有効回答をえた.平日の平均睡眠時間は5.7時間, 土曜・祝日の平均睡眠時間は6.8時間だった.研修医の40%は睡眠時間が6時間未満で5時間未満の者が17%おり, 外科に所属する研修医の睡眠時間は特に短かった.研修医の睡眠不足は健康を脅かすだけでなく医療の安全性を低下させることから, 新医師臨床研修制度のもとで, 研修医の睡眠時間を含む生活が適切に保たれるよう, 追跡検証する必要がある.
著者
津田 敏秀 馬場園 明 茂見 潤 大津 忠弘 三野 善央
出版者
公益社団法人日本産業衛生学会
雑誌
産業衛生学雑誌 (ISSN:13410725)
巻号頁・発行日
vol.43, no.5, pp.161-173, 2001-09-20
被引用文献数
1

医学における因果関係の推論-意思決定-:津田敏秀ほか.岡山大学大学院医歯学総合研究科社会環境生命科学専攻長寿社会医学講座-産業医学においては, 予防施策を講じるにおいても補償問題においても, しばしば業務起因性が問題となる.また近年ではリスクアセスメントにおいても疫学の重要性が増し疫学的因果論を産業現場においても認識する必要が出てきた.我々は, 医学における因果律が確率的因果律として認識される事を明らかにしてきた.この因果律は, 科学のモデルの1つとして見なされてきた物理学においても同様に確率現象として認知されて来た.数学者・物理学者たちは, 因果推論において確率的思考が重要であることを, 不確定性原理が発見される以前に同様に主張してきた.それから, 病因割合, 曝露群寄与危険度割合, 原因確率, 等々で呼ばれる指標を説明した.原因確率(PC)は, ある特定の曝露によって引き起こされた疾病の個々の症例への条件付き確率を知るために用いられてきた.これは, 適当な相対危険度を決定するために曝露集団の経験を使って求められ, 曝露症例への補償のためにしばしば用いられてきた.最近の原因確率に関する議論も本論文の中で示した.次に, 人口集団からの因情報を個別個人の因果情報として適用可能であることを示した.日常生活においてさえ, 我々は因果を考える際に, 多くの人々によって試行された結果に基づいて因果を判断している.その上で, 我々は疫学研究から得られた結果を個人における曝露と疾病の関連に応用することに関して疑う懐疑主義を批判した.第三に, 我々は疫学の手短な歴史的視点を提供した.疫学はいくつかの期間を経て発展してきたが, 日本においては, 近年それぞれの疫学者が学んだ時代に依存して疫学者間で多くの互いに共約不可能な現象を観察することになった.第四に, 疫学的証拠に基づいた判断や政治的応用について, 柳本の分類に基づいて考察した.そして, 判断の理由付けのいくつかの例を呈示した.疫学の分野では因果関係による影響の大きさが確率として認知され, 意志決定にも極めて役に立つ.最後に, 疫学の未来におけるいくつかの課題について考察した.
著者
辻 洋志 臼田 寛 高橋 由香 河野 公一 玉置 淳子
出版者
公益社団法人 日本産業衛生学会
雑誌
産業衛生学雑誌 (ISSN:13410725)
巻号頁・発行日
vol.58, no.2, pp.63-71, 2016-03-20 (Released:2016-06-07)
参考文献数
40

目的:現在,日本では少子化に伴う労働力不足を補うために外国人を採用する企業が増加している.米国では移民労働者の労働衛生に関する研究が進んでいるが,日本においてはほとんど報告がない.本調査は,米国における移民労働者の労働衛生の現状と課題,および取り組みを明らかにすることを目的とする.方法:米国誌に掲載された移民労働者の労働衛生に関する先行研究論文をレビューし,米国での移民労働者に対する労働衛生の現状と課題,および取り組み事例の調査を行った.結果:米国では移民労働者の労働衛生は主に健康格差という側面で研究されていた.先行研究レビューにより,健康格差に影響を及ぼすもしくは可能性のある因子は7つに分類された.カッコ内は各因子に対するキーワードを示す.1.職業選択(有害業務,業務上負傷,休業,ブルーカラー,低出生体重児)2.教育(学歴,ヘルスリテラシー,衛生教育),3.文化(配慮,コミュニティー人材),4.環境(劣悪環境,地域差,環境変化)5.アクセス(言語,統計,労災補償,医療保険,受診自粛),6.感染症(結核,エイズ,フォローアップ),7.差別(人種,暴行,ハラスメント).また,共通した課題として移民労働者のデータ不足が指摘された.取り組みの事例調査では企業や地域団体が複数の因子に対して組み合わせて対応することが行われていることがわかった.考察:米国では移民労働者の労働衛生研究が多く行われている.しかし,調査対象である移民労働者のデータが不足していることが課題となっている.先行研究レビューの結果,多くの論文が健康格差を取り上げていた.健康格差に影響を及ぼすもしくは可能性のある因子は7つに分類する事ができ,各因子のキーワードに関連した取り組みが求められていると推察された.取り組みの事例調査では企業や地域団体が複数の因子に対して組み合わせて対応することが行われており,社内外の労働衛生従事者は,7つの因子すべてに着目した柔軟な対応が求められている.日本でも健康格差の原因となりうる因子に関するデータの蓄積および研究の推進と共に,企業や地域の取り組みが喫緊の課題である.
著者
道下 竜馬 太田 雅規 池田 正春 姜 英 大和 浩
出版者
公益社団法人 日本産業衛生学会
雑誌
産業衛生学雑誌 (ISSN:13410725)
巻号頁・発行日
vol.58, no.1, pp.11-20, 2016 (Released:2016-02-18)
参考文献数
30
被引用文献数
1 2

目的:近年,運動負荷試験中の過剰な収縮期血圧の上昇が将来の高血圧や心血管病の新規発症と関連することが多数報告されている.本研究では,勤労者の職場環境や労働形態,労働時間,睡眠時間,休日数と運動負荷試験中の収縮期血圧の反応との関係について横断的に検討した.対象と方法:某市の健康増進事業に参加した者のうち,安静時血圧が正常であった労働者362名(男性79名,女性283名,平均年齢49.1歳)を対象とした.自転車エルゴメータを使用して3分毎に10–30 wattsずつ漸増する最大下多段階漸増運動負荷試験を実施し,各負荷終了1分前に血圧を測定した.Framingham Studyの基準に準じ,運動負荷試験中の収縮期血圧の最大値が男性210 mmHg以上,女性190 mmHg以上を過剰血圧反応と定義した.また,自記式質問票を用いて,職場の有害環境や労働形態,労働時間,睡眠時間,休日数,通勤時,仕事中の身体活動時間,余暇時の運動時間について調査した.結果:362名中94名(26.0%)に運動負荷試験中の過剰な収縮期血圧の上昇が認められた.有害環境や労働時間,睡眠時間,休日数,通勤時の身体活動時間別による過剰血圧反応発生の調整オッズ比について検討したところ,過剰血圧反応発生と関連する要因は,労働時間が1日10時間以上,睡眠時間が1日6時間未満,休日数が週1日以下であった.労働時間,睡眠時間,休日数を3分割し,それぞれの組み合わせによる過剰血圧反応発生の調整オッズ比について検討したところ,労働時間が長く,睡眠時間,休日数が少ないほど,過剰血圧反応発生の調整オッズ比が有意に高かった.まとめ:本研究の結果より,労働時間が長く,睡眠時間や休日数が少ない勤労者は,将来の高血圧や心血管病発症,過労死防止のため,日常生活や職場,運動負荷時の血圧変動を把握することが重要であると考えられる.
著者
舟越 光彦 田村 昭彦 垰田 和史 辻村 裕次 西山 勝夫
出版者
公益社団法人 日本産業衛生学会
雑誌
産業衛生学雑誌 (ISSN:13410725)
巻号頁・発行日
vol.45, no.6, pp.235-247, 2003 (Released:2004-09-10)
参考文献数
34
被引用文献数
4 7

タクシー運転手の腰痛の実態と腰痛に関わる労働要因を明らかにするために, 福岡市内某タクシー事業所の男性運転手を対象に1999年 (n=280名, 以下第1回調査) と2001年 (n=284名, 以下第2回調査) に腰痛と労働実態に関する質問紙調査を実施した. 調査は, 1) 第2回調査時における腰痛の有訴率と腰痛に関わる労働要因についての断面研究と, 2) 第1回調査で腰痛の既往がなく, かつ, 腰痛の訴えがなかった運転手で, 第2回調査時に「最近1年間の腰痛あり」と新規に回答した者を腰痛の罹患例とし, 腰痛の罹患率と腰痛罹患にかかわる第1回調査時点の労働要因について検討した縦断研究である. この結果, タクシー運転手の腰痛の有訴率は45.8%で, 腰痛多発が報告されている他の職業運転手と同様に高率であり, タクシー運転手にとって腰痛が重要な問題であることが示された. また, 2年間の腰痛の罹患率は25.9%と推定された. 断面研究と縦断研究の結果, 腰痛と有意な関連を認めた労働要因は, 「運転席座面 (以下, 座面) の適合性」, 「車両の延べ走行距離」, 「全身振動」, 「職務ストレス」および「タクシー運転手としての乗務経験年数」であった. さらに, 腰痛と「車両の延べ走行距離」の間には有意な量反応関係を認めた. 以上より, タクシー運転手の腰痛に「座面」の人間工学的問題と「全身振動」および「職務ストレス」が関与していることが示唆された. また, 「車両の延べ走行距離」が腰痛に関与しているとの報告例はなく, 「車両の延べ走行距離」が腰痛発症に関与する機序について今後の検討が必要であると考えられた. さらに, 「全身振動」の影響の評価のため, 実車両を対象とした曝露振動の実態把握が必要と考えられた.
著者
森山 葉子 豊川 智之 小林 廉毅 井上 和男 須山 靖男 杉本 七七子 三好 裕司
出版者
公益社団法人 日本産業衛生学会
雑誌
産業衛生学雑誌 (ISSN:13410725)
巻号頁・発行日
vol.54, no.1, pp.22-22, 2012 (Released:2012-03-05)
参考文献数
22
被引用文献数
1

単身赴任者と家族同居者における生活習慣,ストレス状況および健診結果の比較―MYヘルスアップ研究から―:森山葉子ほか.東京大学大学院医学系研究科公衆衛生学―目的:全国に支社を持つある金融保険系企業の男性従業員を対象に,生活習慣,ストレス状況および健診結果について,有配偶単身赴任者と有配偶同居者との比較を行うこととした.対象と方法:2004年の定期健康診断を受診しており,かつ同年に実施した質問票による調査に回答した男性のうち,有配偶であり40代および50代の事務職である3,026名を調査対象とした.質問票の配偶者はいるかとの問いに,「はい」と答えた者を同居群,「はい(単身赴任中)」と答えた者を単身赴任群とした.生活習慣については運動,飲酒,喫煙習慣など12項目を,ストレス状況については,質問票内の職業性ストレス簡易調査票の下位尺度から,活気の低下,イライラ感,疲労感,不安感,抑うつ感,身体愁訴の6項目について喫煙者と非喫煙者を層化してχ2検定で分析した.健診結果についてはBMI,収縮期血圧,拡張期血圧,空腹時血糖,GOT,GPT,γ-GTP,総コレステロール,中性脂肪,HDLコレステロール,赤血球,白血球を用いて,単身赴任との関連を年齢と喫煙を共変量として回帰分析で検討した.結果:単身赴任群は同居群と比較した結果,運動・喫煙・飲酒・食生活・休日日数などの生活習慣が好ましくない者が多く,ストレス状況では喫煙者においてイライラ感と不安感,抑うつ感が高く,健康状況を示す健診結果については,総コレステロール,中性脂肪,白血球数が高かった.結論:本研究は,有配偶単身赴任者において食生活などの生活習慣が好ましくない者が多く,ストレス状況のイライラ感と不安感,抑うつ感が高く,健診結果において脂質関連の数値が高いことを示した.
著者
岩切 一幸 毛利 一平 外山 みどり 野瀬 かおり 落合 孝則 城内 博 斉藤 進
出版者
公益社団法人日本産業衛生学会
雑誌
産業衛生学雑誌 (ISSN:13410725)
巻号頁・発行日
vol.48, no.1, pp.7-14, 2006-01-20
被引用文献数
1 3

フリーアドレス形式オフィスレイアウトでのVDT作業者の姿勢および身体的疲労感: 岩切-幸ほか.独立行政法人産業医学総合研究所-フリーアドレスとは, オフィス内の好きな机に作業者がコンピュータや資料を持って自由に座ることができる新しいオフィスレイアウトである.近年, このレイアウトの導入が増えてきていることから, 従来の固定席形式レイアウトと比較した, フリーアドレス形式レイアウトの実状と作業者の疲労状況を明らかにすることを目的としたアンケート調査を実施した.解析対象者は, システムエンジニア職でノート型コンピュータを使用している20歳から59歳までの男性VDT (Visual Display Terminals)作業者203名とした.そのうち, フリーアドレスの作業者は150名, 固定席の作業者は53名であった.フリーアドレス形式レイアウトは, 固定席形式レイアウトに比べて個人の作業スペースの改善に有効であった.フリーアドレスにおいて危惧されてきた作業者間のコミュニケーションやサポートの不備については, 作業者の不満は認められなかった.しかし, フリーアドレス形式レイアウトでは, 踵が浮いた姿勢で作業している者が多く, 椅子の高さ調節を行っていないと思われた.さらに, このレイアウトは, 首・肩および背中・腰のこり・痛みを増大させる可能性も否定できなかった.このことから, フリーアドレス形式レイアウトは, 何らかの問題を抱えている可能性があり, このレイアウトとVDT作業者の健康について更に研究が必要と考えられた.
著者
川崎 ゆりか 西谷 直子 榊原 久孝
出版者
公益社団法人 日本産業衛生学会
雑誌
産業衛生学雑誌 (ISSN:13410725)
巻号頁・発行日
vol.57, no.4, pp.130-139, 2015 (Released:2015-08-20)
参考文献数
36
被引用文献数
1

目的:産業現場ではメンタルへルスの不調を訴える労働者が増加傾向にあるとされ,生産性への影響が危惧されている.しかし,製造業のブルーカラー,ホワイトカラーにおける抑うつに関する調査は十分とはいえない.本研究の目的は特に睡眠状況や生活習慣に注目してブルーカラー,ホワイトカラーの職種別に抑うつと関連する要因を明らかにすることである.対象と方法:製造業A社社員1,963名を対象に,定期健康診断時に同意を得て自記式質問紙調査を実施した.回収できた1,712名(回収率87%)のうち精神疾患の治療中もしくは既往歴のあるものを除いた男性社員1,258名(ブルーカラー674名,ホワイトカラー584名)を分析対象とした.調査票には基本属性,生活状況のほか睡眠状況についてはWHOの「アテネ不眠尺度」,抑うつについては「CES-Dスケール」を用いた.また,生活習慣は健康診断の問診票に記入されたデータを用いて分析した.結果:抑うつがあるとみなされたCES-D16点以上の労働者はブルーカラー,ホワイトカラーともに15.1%で同率であった.アテネ不眠尺度6点以上の不眠者はそれぞれ18.8%,18.3%であった.多重ロジスティック回帰分析で抑うつと有意に関連のみられた要因はブルーカラーでは①「アテネ不眠尺度6点以上」(オッズ比:10.93;95%信頼区間:6.12–19.51),②「睡眠で疲労がとれない」(オッズ比:3.36;95%信頼区間:1.85–6.09),③「朝食を週3回以上抜く」(オッズ比:3.10;95%信頼区間:1.42–6.76),④「同居家族なし」(オッズ比:2.08;95%信頼区間:1.05–4.12),⑤「片道通勤時間」(オッズ比:1.01;95%信頼区間:1.00–1.02)であった.ホワイトカラーでは①「アテネ不眠尺度6点以上」(オッズ比:14.91;95%信頼区間:7.54–29.49),②「同居家族なし」(オッズ比:2.54;95%信頼区間:1.27–5.09)であった.なお,睡眠時間は両職種に有意差は認められなかった.また,アテネ不眠尺度6点以上の不眠者のうちCES-D16点以上の抑うつ症状がみられたのはブルーカラーで51.6%,ホワイトカラーで53.8%であった.結論:ブルーカラー,ホワイトカラーの両職種ともに抑うつを有する者が同程度にみられ,職種にかかわらず保健対策を行うことが必要であると考えられた.また,抑うつには両職種ともに不眠が最も強く関連していることが明らかになり,職場での抑うつ対策として不眠に注目していくことの重要性が示唆された.職種による生活習慣の特徴と不眠状態に焦点を当てて保健指導に活かすことは意義があると考えられた.
著者
寶珠山 務
出版者
公益社団法人 日本産業衛生学会
雑誌
産業衛生学雑誌 (ISSN:13410725)
巻号頁・発行日
vol.45, no.5, pp.187-193, 2003 (Released:2004-09-10)
参考文献数
42
被引用文献数
7 7

いわゆる過労死は, 医学的な概念ではなく, 過重労働により虚血性心疾患や脳血管疾患など致死的職業性疾病が発症したと判断されて労災補償認定がなされたものを指す. 近年の文献レビューから明らかになったことは, 1) 多くの研究で過重労働は心血管系疾患の発症やリスク因子の増悪を促進することが支持されていること, 2) 過重労働により死亡リスクを直接示した研究報告は今のところなされていないこと, および3) 過重労働による健康障害は労働者の特性により変化し得ることである. いわゆる過労死の最近の認定割合は増加傾向にあり, 1988年度の3.1%から2001年度には20.7%に達したが, これは認定基準の改正と関係があると思われる. 認定基準に盛り込まれた過重労働があるか否かの判断の対象になる期間は, 1987年に示されたものには1週間であったが, 2001年に示された最新のものでは最長で6カ月まで拡張された. 社会学的な分析によれば, 日本の長時間労働は, 労働時間制度だけでなく, 労働に関する社会文化的背景と関係することが指摘されている. 2002年に厚生労働省から発表された過重労働の健康影響の予防対策は, いわゆる過労死の発生予防を目的とした初めての政策であり, 全ての労働者にひと月の残業時間が45時間を超えないように求めたもので, さらに, それが100時間を超えた労働の実態があった場合は, 当該労働者および事業場へ指導が課されることになっている. その政策は全労働者を一律に対象とするPopulation strategyであり, 特定のリスクファクターを有する労働者などを対象にしたHigh-risk strategyではない. その施策の実施にあたって, 弾力性のある活用, 例えば, 高齢労働者や高ストレス状態にある労働者に対し, 職場の生産サイクルと歩調を合わせた管理を強化すること等で, より実効性のある成果が得られるものと思われる. 特に, 産業医や産業看護職などの産業保健専門職は, いわゆる過労死問題の解決への重要な役割を果たし得ると思われ, 政策決定のエビデンスの確立を目指した調査研究への取り組みやさらなる対策への進展にも関与することが期待される.
著者
左達 秀敏 村上 義徳 外村 学 矢田 幸博 下山 一郎
出版者
公益社団法人 日本産業衛生学会
雑誌
産業衛生学雑誌 (ISSN:13410725)
巻号頁・発行日
vol.52, no.2, pp.67-67, 2010 (Released:2010-04-08)
参考文献数
42

歯磨き行為の積極的休息への応用について:左達秀敏ほか.花王株式会社東京研究所―目的:本研究の目的は,歯磨き行為における積極的休息としての有用性を明らかにすることである. 対象と方法:生理指標としてフリッカー値を,心理指標として主観的アンケートを用いて検証した.まず,17名の健康な若年男女(男性12名,女性5名,平均年齢±標準偏差;22.5±1.5歳,右利き)を歯磨き群と非歯磨き群に無作為に割り当てた後,両群にパソコン上で20分の連続計算課題を実施させた.その後,歯磨き行為を行わせ,その前後でフリッカー値と気分を計測した. 結果:歯磨き群のフリッカー値は,歯磨きをしない群と比べて有意に増加した( p<0.05).一方,気分については,“爽快感”が歯磨きをしない群と比べて有意に増加し( p<0.05),“集中力”,“頭のすっきり感”が増加傾向を示した(p<0.1).また,“倦怠”,“眠気”は,有意に減少した( p<0.01).考察と結論:歯磨き行為による体性感覚刺激や口腔内触覚刺激が総合的に大脳活動を賦活させたと考えられ,また,気分を爽快にする効果が認められたことから,歯磨き行為は,積極的休息として応用できる可能性が示唆された. (産衛誌2010; 52: 67-73)
著者
小松 優紀 甲斐 裕子 永松 俊哉 志和 忠志 須山 靖男 杉本 正子
出版者
公益社団法人 日本産業衛生学会
雑誌
産業衛生学雑誌 (ISSN:13410725)
巻号頁・発行日
vol.52, no.3, pp.140-140, 2010 (Released:2010-06-02)
参考文献数
47
被引用文献数
5 3

職業性ストレスと抑うつの関係における職場のソーシャルサポートの緩衝効果の検討:小松優紀ほか.東邦大学医学部看護学科―目的:本研究は,職業性ストレスと抑うつの関連性における職場のソーシャルサポート(以下サポート)の緩衝効果について検証することを目的とした. 対象と方法:調査方法は無記名自記式質問紙を用いた横断的研究である.対象者は某精密機器製造工場に勤務する40歳以上の男性712名であった.調査項目は,年齢,職種等の属性,抑うつ,職業性ストレス(仕事の要求度・仕事のコントロール),職場のサポート(上司のサポート・同僚のサポート)等であった.職業性ストレスと職場のサポートの測定はJCQ職業性ストレス調査票(JCQ)を用いた.抑うつは抑うつ状態自己評価尺度(CES-D)を用い,得点が16点以上の者を抑うつ傾向とした.職業性ストレス,サポートについては各尺度の得点を中央値で二分し,得点の高い群を高群,低い群を低群とした.職業性ストレスおよびサポートの高低別のCES-D得点の平均値の比較をt検定にて行った.またCES-D得点を従属変数とし,対象者の属性,職業性ストレス,サポート,職業性ストレスとサポートの交互作用項を独立変数として階層的重回帰分析を行った.交互作用が有意であった場合には,年齢を共変量として共分散分析を行い,職業性ストレスの高低別にサポートの高低がCES-D得点に及ぼす効果を検討した. 結果:調査の結果,全対象者のうち抑うつ傾向者は23.2%であった.仕事の要求度の高低別のCES-D得点は,高群が低群よりも有意に高かった.仕事のコントロール,上司のサポート,同僚のサポートそれぞれにおけるCES-D得点は,各低群が高群よりも有意に高値であった.階層的重回帰分析を行った結果,仕事の要求度,仕事のコントロール,上司のサポート,同僚のサポートはそれぞれCES-D得点に対する有意な主効果が認められた.さらに仕事のコントロールと上司のサポートの要因間でCES-D得点に対する有意な交互作用が認められた.また,仕事のコントロールの低い状況でのみ,上司のサポート高群よりも低群のCES-D得点が有意に高値であった. 結論:これらのことから,上司によるサポートは仕事のコントロールの低さと関連する抑うつを緩衝する効果がある可能性が示唆された. (産衛誌2010; 52: 140-148)