著者
寺脇 拓
出版者
立命館大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2002

本年度は,大きく分けて二つの実証分析を行った.第一に,昨年度検討した,里山保全に取り組むボランティアがその里山から受ける純便益を計測するための基礎理論をもとにして,そこから実際にその純便益額を計測することに取り組んだ.この分析では,まず兵庫県中町の「観音の森」におけるボランティア活動データを用いてボランティア労働供給関数を推定し,その曲線が旅行費用については右下がりとなるが,賃金率については右上がりの形状をもつことを明らかにした.そして,その旅行費用の係数推定値を用いてボランティア活動一回当たりの純便益を計算した結果,それは747円となった.さらに年間の延べ参加者数153人を乗じることにより,ボランティア活動者が里山から受ける便益は,年間11万4248円と推定された.第二に,昨年度の現地調査の結果を踏まえて,大津市仰木地区の里山を事例としたCV調査を行い,里山が周辺住民に及ぼす便益を計測することに取り組んだ.本調査の一つの特徴的な点は,圃場整備されていない棚田をもつ里山に対する支払意志額(WTP)と圃場整備された棚田をもつ里山に対するWTPをそれぞれ質問したところである.圃場整備による生物相への影響はないものとして質問しているため,そのWTPの差は,単純に景観に対するWTPの差ということになる.二段階二肢選択CVMによる分析により,圃場整備されていない昔ながらの棚田に対するWTPは6719円,圃場整備された棚田に対するWTPは1735円となり,前者が後者をはるかに上回る結果となった.この結果は,今後の里山保全のあり方を考える場合に,生態系への影響だけでなく,景観への影響も考慮に入れなければならないことを示唆している.またこの分析では,里山保全に対する価値を構成するものとしては,遺贈価値が最も大きく,ついで存在価値が大きいことが明らかとなった.これは,非利用価値を考慮した資源配分の必要性を示すものである.