著者
對馬 敏夫
出版者
東京女子医科大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1996

ヒト甲状腺腫瘍では幾つかの癌遺伝子の異常、あるいは成長因子受容体の過剰発現などが報告されている。しかし細胞増殖に関与する情報伝達に関する異常は明らかにされていない。MAPキナーゼカスケードは各種細胞において細胞増殖や分化に重要な役割を果たす。そこでヒト甲状腺腫瘍組織におけるMAPキナーゼ(MAPK),その上流に存在するMAPKキナーゼ(MEK),Raf-1の発現、その活性を正常組織で比較した。甲状腺乳頭癌とろ胞癌組織では大部分でMAPK,MEKの発現量、活性ともに正常部に比して数倍に増加しており、これは免疫組織学的にも証明された。Raf-1活性には差がなかった。一方、良性の腺腫やバセドウ病組織ではMAPK,MEK,Raf-1ともに正常と差がなかった。培養した正常甲状腺細胞にIGF-Iなど種々の成長因子を添加した場合にも増殖に先んじてよMAPKが活性化された。癌組織ではGF-I,IGFBP-2 mRNAの発現増加も観察された。以上よりMAPKカスケードは腫瘍発育に関与する可能性が示唆される。今後の方針としてはMAPK,MEKの遺伝子自体に異常があるか否かを明らかにしたい。
著者
對馬 敏夫
出版者
日本脳神経外科コングレス
雑誌
脳神経外科ジャーナル (ISSN:0917950X)
巻号頁・発行日
vol.6, no.3, pp.147-154, 1997-03-20 (Released:2017-06-02)
参考文献数
20

成長ホルモン(GH)は正常な発育,成熟に不可欠である.GHの合成や分泌は,視床下部のソマトスタチン(SS)とGH放出ホルモン(GHRH)により制御されている.これらのホルモンやその受容体のDNAがクローニングされ,その発現調節機構が研究されている.GHRH,SS受容体は,いずれもG蛋白と会合し,アデニールサイクラーゼを介して,GH合成分泌を調節する.このほかに,強力なGH分泌刺激作用をもつ一群のペプチド(GHRP)が開発されている.その作用は,プロテインキナーゼC(PKC)を介するようにみえる.最近,GHRPの受容体が同定され,これは内因性GHRPの発見を刺激するであろう.GHRPはあるタイプのGH欠損症の治療に有用であろう.また・GH合成やGH産生細胞の分化には,転写因子であるpit-1が必要なことも明らかにされている.GHは糖,脂質,蛋白,電解質代謝に広範な影響をもつ.これらの作用は受容体に会合するJAK2というテロシンキナーゼを介して発現するが,PKCを介する系もある.GHの成長促進作用は,主としてインスリン様成長因子(IGF-1)を介する.IGF-Iは各種諸細胞の増殖や分化を促進する.また,IGF-Iやその受容体は,腫瘍発育にも関与する.IGF-IIは非膵腫瘍に伴う低血糖の原因と推定されている.血中のIGF-I,IIの大部分は,IGF結合蛋白(IGFBP)と結合して存在する.6種類のIGFBPが同定されているが,その生理的意義は不明な点が多い.