著者
佐々木 猛智 小倉 知美 渡部 裕美 藤倉 克則
出版者
日本貝類学会
雑誌
Venus (Journal of the Malacological Society of Japan) (ISSN:13482955)
巻号頁・発行日
vol.74, no.1-2, pp.1-17, 2016-04-13 (Released:2016-04-15)
参考文献数
31

Provanna Dall, 1918ハイカブリニナ属は深海の化学合成生物群集に広く生息し多産するグループである。日本の近海では,ハイカブリニナ属にはP. glabra Okutani, Tsuchida & Fujikura, 1992サガミハイカブリニナ,P. abyssalis Okutani & Fujikura, 2002カイコウハイカブリニナ,P. shinkaiae Okutani & Fujikura, 2002シンカイハイカブリニナの3既知種が分布しており,種によって深度分布と底質が異なる。本研究では南西諸島海域から新たに発見された新種について報告する。貝殻の比較形態学的解析および分子系統解析の結果から,4新種の存在が明らかになった。(1)P. subglabra n. sp.ニヨリハイカブリニナ(似寄灰被蜷:和名新称)は膨らみのある平滑な貝殻で特徴づけられ,沖縄トラフの熱水噴出域では最も多産する。種小名と和名は,本種がかつてP. glabraサガミハイカブリニナに同定されていたことに由来する。(2) P. clathrata n. sp.コウシハイカブリニナ(格子灰被蜷:和名新称)は粗い格子状の彫刻を持ち,沖縄トラフ南部の熱水噴出域に生息する。(3) P. lucida n. sp.ミガキハイカブリニナ(磨灰被蜷:和名新称)の殻は平滑で縫合が深く,今のところ沖縄トラフ北部の南奄西海丘にのみ出現する。(4)P. kuroshimensis n. sp.クロシマハイカブリニナ(黒島灰被蜷:和名新称)の殻は平滑でオリーブ色の殻皮を持ち,黒島海丘に固有である。一方,歯舌の形態は4種の間で明確な差は見られなかった。この発見により,ハイカブリニナ属は南西諸島の狭い範囲で多様化していることが明らかになったが,その要因としては南西諸島海域の化学合成生態系形成域が多様な環境にあることが関係していると考えられる。