著者
小坂 克子
出版者
九州大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1992

我々は嗅覚の一次中枢嗅球におけるGABAニューロンについて、ニューロンの化学的性質及び形態的性質の両方に注目し、発生学的解析を進めてきた。現在までの結果は以下のことである。A.発生過程での表現形質の可塑的変化の可能性:我々の免疫細胞化学的研究によって、従来独立であるとされていた古典的神経伝達物質GABAとカテコールアミンが嗅球糸球体層で同一ニューロンに共存していることが判明し、しかも成体では共存関係を示さないニューロンも発生過程では一過性に共存関係を示し発生過程において古典的伝達物質GABAとカテコールアミンの共存関係が変化していく所見を得た.これは胎生後期に発生したGABA陽性カテコールアミンニューロンが、発生途上での表現形質の可塑的変化の可能性を示唆する所見であった。更に、ある時期に発生するニューロンを特異的に除去するX線照射実験により、上記の所見を支持する結果を得た。B.免疫細胞化学的研究によって嗅球の外網状層に存在するCa-結合蛋白parvalbumin(PV)含有ニューロンがGABAニューロンの一部であることを明かにし、Golgi鍍銀様に染色できるPV抗体で細胞体及び神経突起の形や広がりを解析した。その結果外網状層に存在するPV含有GABAニューロンは形態的に少なくとも5つ以上のサブグループに分けられた。更に、発生学的解析でそれらのPV含有ニューロンはラットでは生後10日頃、外網状層の内半層に観察され、その後急激に数が増えるが外網状層外半層には生後2週で初めて陽性細胞が出現し生後3週でほとんど成体と同様になる事を明かにした。我々はこの観察からa)外網状層の外半、内半の発生が著しく異なること、b)PVの発現が、推定されるニューロンとしての発生からかなり遅れていることを示唆する所見を得ることができた。