著者
小尾口 邦彦
出版者
一般社団法人 日本集中治療医学会
雑誌
日本集中治療医学会雑誌 (ISSN:13407988)
巻号頁・発行日
vol.30, no.3, pp.163-169, 2023-05-01 (Released:2023-05-01)
参考文献数
36
被引用文献数
1

日本の集中治療領域では国際的に承認されていない独自の薬剤や医療機器があり,時にガラパゴス化と呼ばれる。2000年以後に認可された独自治療の国内認可試験と公開審査議事録を検討した。シベレスタットは,国内第Ⅲ相試験で有効性を示せなかったが,追加の単 一群試験の人工呼吸器離脱日数が最初の第Ⅲ相試験やARDS network試験を上回り,認可された。シベレスタットの国際試験は,中間解析の180日死亡率において対照群よりも劣ったため,早期中止された。トロンボモジュリンは国内第Ⅲ相試験のDIC離脱率においてヘパリンに対して非劣性を示し,認可された。トロンボモジュリンは,国際試験の28日死亡率において対照群に対して優位性を示せず,海外において認可されていない。AN69ST膜を用いた血液濾過器は,敗血症を対象として単一群試験が行われ,28日生存率がAPACHEⅡスコアによる予測生存率に比して著しく高かったため,敗血症の保険適用を得た。日本の医薬品や医療機器の臨床試験において,死亡率よりも代用指標や単一群試験結果が重視されて認可されることがある。
著者
宮﨑 勇輔 小尾口 邦彦 福井 道彦 加藤 之紀 和田 亨 横峯 辰生 小田 裕太 大手 裕之
出版者
一般社団法人 日本集中治療医学会
雑誌
日本集中治療医学会雑誌 (ISSN:13407988)
巻号頁・発行日
vol.25, no.4, pp.255-258, 2018-07-01 (Released:2018-07-01)
参考文献数
13
被引用文献数
1

肺血栓塞栓症による心停止に対し,機械的胸部圧迫装置が有用であったが,外傷性肝・脾損傷を併発し,開腹手術が必要となった症例を経験した。症例は73歳女性で,呼吸困難感を主訴に救急搬送され,来院後に心停止となった。直ちに心肺蘇生を開始,機械的胸部圧迫装置AutoPulse®(旭化成ゾールメディカル)を使用した。気管挿管・アドレナリン投与を行い自己心拍再開が得られた。心停止は肺血栓塞栓症によるものと診断した。ICU入室後は,血行動態は比較的保たれていたが,約15時間後から不安定となり,貧血の進行も認めた。腹部超音波検査・CTを実施し,多発肋骨骨折に伴う外傷性肝・脾損傷による出血性ショックと診断した。開腹し,脾臓摘出術と肝裂創部凝固止血術を実施した。症例は肥満(BMI 38 kg/m2)だったこともあり,AutoPulse®のバンド位置が尾側にずれ,合併症を生じたものと推測された。機械的胸部圧迫装置の使用では特性を十分理解し,合併症に注意する必要がある。
著者
大澤 武 福井 道彦 小尾口 邦彦 井上 静香 山田 知輝
出版者
The Japanese Society of Intensive Care Medicine
雑誌
日本集中治療医学会雑誌 (ISSN:13407988)
巻号頁・発行日
vol.15, no.1, pp.63-66, 2008

子宮外妊娠破裂に伴う心肺停止の蘇生後に相対的副腎機能不全を発症した1例を経験した。症例は33歳,女性。子宮外妊娠破裂の発症から14時間後に当院に搬送され,直後に心肺停止となった。蘇生により心拍再開し,手術を行った。術後第1病日に循環動態が不安定になり,肺動脈カテーテルにて血管拡張性ショックと判明した。第2病日に相対的副腎機能不全を疑いACTH負荷試験後にヒドロコルチゾン200 mg・day<SUP>-1</SUP>の投与を開始し,循環動態は安定した。ヒドロコルチゾンを漸減しながら16日間投与した。負荷試験の結果は相対的副腎機能不全と一致した。また凝固障害,disseminated intravascular coagulation(DIC),急性肝不全・腎不全,多発脳出血などの多臓器不全に対して持続血液濾過透析,血漿交換などの治療を行い,状態が安定したので第24病日に一般病棟へ退室した。軽度の知能低下以外に障害を生じず社会復帰した。過大侵襲後の急性循環不全では,原因として相対的副腎機能不全も鑑別に入れて早期診断・治療を行うべきである。
著者
朱 祐珍 小尾口 邦彦 福井 道彦 新里 泰一 阪口 雅洋 板垣 成彦 稲見 直子 藤原 大輔
出版者
一般社団法人 日本集中治療医学会
雑誌
日本集中治療医学会雑誌 (ISSN:13407988)
巻号頁・発行日
vol.20, no.1, pp.47-50, 2013-01-01 (Released:2013-04-23)
参考文献数
11

症例は66歳,女性。2型糖尿病でメトホルミン内服中であった。酒石酸ゾルピデムの大量内服後に乳酸アシドーシスを発症しICU入室となった。入室後,輸液などによるアシドーシス補正中に胸痛を訴えた。超音波検査で心尖部の収縮低下を認め,たこつぼ心筋症が疑われた。第4病日には壁運動異常は著明に改善し,たこつぼ心筋症と診断した。経過良好で第9病日にICU退室となった。メトホルミンによる乳酸アシドーシスは,稀だが致死的な合併症である。本症例においては酒石酸ゾルピデムの大量内服による低酸素状態がメトホルミンによる乳酸アシドーシスを発症する契機の一つとなった可能性が考えられた。また,アシドーシスによる身体的ストレスや自殺企図にまで至った精神的ストレスによって,たこつぼ心筋症を続発したと考えられる。