著者
小山 千登世
出版者
日本文学協会
雑誌
日本文学 (ISSN:03869903)
巻号頁・発行日
vol.64, no.8, pp.42-52, 2015-08-10 (Released:2020-08-29)

客体とは主体にとらえられたものであるならば、主体の変化は世界の変化をもたらす。故に〈語り〉を顕在化させ、作品と主体との格闘と、主体の倒壊こそ「読むこと」であるとする「第三項理論」は読み手の世界観認識を転換させる。「第三項理論」による『夢十夜』「第一夜」の読解から見えてくる〈語り手〉を通して、「読むこと」が世界観認識の転換をもたらす文学教育を目指し、混迷する日本社会の「読み手」「担い手」を育てたい。
著者
小山 千登世
出版者
日本文学協会
雑誌
日本文学 (ISSN:03869903)
巻号頁・発行日
vol.55, no.8, pp.30-43, 2006-08-10 (Released:2017-08-01)

なぜ先生は「私」に遺書を送ったのか。「私」は手紙の齟齬から、父危篤の時を選んで、「私」に自らの死を告げる遺書を送った先生の仕掛けに気付いていく。それは遺書の読み手たり得ない「私」に「先生」と類似の<罪>(父を裏切る)を体験させることで「私」の成長を促そうとしたものであった。遺書の読み手たるにはそれを体験することが要求された。ここに先生の<血>を浴びせかけられた「私」との対比で、<純白>に保たれた妻への愛を読み取ることが出来るのである。
著者
小山 千登世
出版者
日本文学協会
雑誌
日本文学 (ISSN:03869903)
巻号頁・発行日
vol.62, no.8, pp.51-61, 2013-08-10 (Released:2018-08-06)

語りの向こう側を拓こうとする第三項理論により、語り手である先生も「私」も語り得ぬ領域を見据え、矛盾や違和を喚起する言葉によってもう一つの文脈を創り、語ろうと挑んでいることが読める。そこから先生に自殺を決意させたのは「私」であり、自分と類似した体験を受け渡すことで「私」という他者のなかに食い込み、罪を背負った倫理の在り方を〈自由と独立の己れ〉の〈淋しい〉時代に問おうとする先生の認識の深さが見えてくる。