著者
国本 佳範 小山 裕三 印田 清秀
出版者
養賢堂
雑誌
農業および園芸 (ISSN:03695247)
巻号頁・発行日
vol.84, no.5, pp.540-545, 2009-05

奈良県は露地での小ギクや二輪菊生産が盛んで、とくに小ギクは生駒郡平群町を中心に栽培面積約80 ha、生産量約3,600万本と全国でも有数の産地として知られている。このキクの害虫の1つにタバコガ類があり、とくにオオタバコガによる茎頂部の食害が大きな問題となっている。生産者は主に殺虫剤散布で防除しているが、以下のような理由から十分な効果が得られない場合が多い。(1)成虫が夜間に飛来し、茎頂部に1個ずつ産卵するため発見が難しい(2)幼虫は植物体に食入するうえ、移動が激しく、発生場所が特定しにくい(3)発生期がお盆や彼岸などの収穫繁忙期と重なるため散布作業が十分に行えない一方、オオタバコガ防除には殺虫剤に頼らない方法もある。たとえば、黄色灯の夜間点灯、合成性フェロモン剤による交信攪乱やネットによる圃場の被覆である。これらは、他の作物ではすでに実用化されている。筆者らは露地ギク栽培でのタバコガ類防除を目的に小規模な家族経営の生産者でも安価で簡単に設置できる新しいネット被覆法を開発した。これを平群町の小ギク栽培圃場に設置したところ、タバコガ類による被害を大幅に減少させ、殺虫剤使用回数も半減できた。本稿では、この新しいネット被覆法の概要を紹介するとともに、現地でのネット被覆栽培の普及状況やネット被覆から波及する露地ギクでの総合的害虫管理等の可能性について述べる。