著者
小山 誠次
出版者
社団法人日本東洋医学会
雑誌
日本東洋醫學雜誌 (ISSN:02874857)
巻号頁・発行日
vol.48, no.1, pp.49-52, 1997-07-20

『日本東洋医学雑誌』第47巻第1号に筆者の論文「〓苡仁の治疣処方」が掲載された。今回, その論文の内容を追補しうる文献を見出したので報告する。山脇東洋著『養寿院山脇先生方函』には, 「肬ヲ理スル方 〓苡仁五銭 右一味, 水三合ヲ以テ煮テ一合ヲ取り, 或ハ服シ, 或ハ洗フ。(原文漢文)」とあり, 山脇東洋が〓苡仁を民間薬的に茯の治療として使用していたことが明白である。本書の成立年は全く不明であるが, 治療年代は山脇東洋の没年(宝暦十二年)より以前であることは論を俟たない。この記事は『大和本草』中の〓苡仁の治茯記事より遥かに確実である。また, 〓苡仁の治茯処方を最初に記載した『名家方選』は, 山田元倫が10歳代後半から秘かに諸家の諸名方を盗掠し, 纂集した書であり, 山田元倫の名は諸文献によれば惟亨となっているが, 『名家方選』自叙には維亨とあり, 『黴瘡約言』には惟亨とあるので, 始めは維亨だったかもしれない。
著者
小山 誠次
出版者
社団法人日本東洋医学会
雑誌
日本東洋醫學雜誌 (ISSN:02874857)
巻号頁・発行日
vol.45, no.2, pp.371-376, 1994-10-20

下部直腸sm癌に低位前方切除術を施行した。入院中から退院後仕事再開までは特に下着汚染等の訴えは全くなかったが,鈑金業に復職後から粘液による下着汚染をみるようになった。手術はEEA器械吻合によるS状結腸直腸端々吻合術であったが,その際ドーナツリングに一部不確実な箇所があり,そのため手縫いによる全層縫合を3針迫加し,横行結腸に一時的人工肛門を造設した。術後2週間IVH管理としたため特に明瞭な縫合不全等は認めなかったが,粘液による下着汚染は吻合部に何らかの炎症が遷延していると考え,漢方的には大腸湿熱と診断し,黄連解毒湯で清熱化湿を図った。結果的には黄連解毒湯がよく奏効した。しかし下着汚染が激減しても,なお肛門括約筋は緊張低下のままだったので,補中益気湯で升提して括約筋緊張の回復を図った。文献上,低位前方切除術後の粘液による下着汚染に漢方薬治療した症例は見出し得ないので,今回報告した。
著者
小山 誠次
出版者
The Japan Society for Oriental Medicine
雑誌
日本東洋医学雑誌 (ISSN:02874857)
巻号頁・発行日
vol.47, no.3, pp.469-475, 1996-11-20 (Released:2010-03-12)
参考文献数
39
被引用文献数
2 2

帰脾湯及び加味帰脾湯の出典について論考した。今日一般的に帰脾湯は人参, 白朮, 茯苓, 竜眼肉, 酸棗仁, 黄耆, 遠志, 当帰, 木香, 甘草, 生姜, 大棗と処方される。『済生方』の帰脾湯には当帰, 遠志が配合されず,『玉機微義』では『済生方』処方に当帰を加味した帰脾湯が記載され,『薛氏医案』中の諸書では更に遠志も加味した処方が記載されている。一方, 加味帰脾湯は『薛氏医案』中の諸書にあっては, 柴胡, 山梔子加味の処方, 柴胡, 牡丹皮, 山梔子加味の処方, 牡丹皮, 山梔子加味の処方の3種類が記載されている。いずれも我が国で江戸時代の通用処方書に採用されていたが, 今日では柴胡, 山梔子の加味方が最も多く処方される。これは恐らく『勿誤薬室方函』及び『勿誤薬室方函口訣』の影響によるものではないかと思われる。総じて, 出典としては帰脾湯も加味帰脾湯も共に『済生方』,『玉機微義』,『薛氏医案』をもって充てるのが順当である。
著者
小山 誠次
出版者
The Japan Society for Oriental Medicine
雑誌
日本東洋医学雑誌 (ISSN:02874857)
巻号頁・発行日
vol.45, no.3, pp.529-534, 1995-01-20 (Released:2010-03-12)
参考文献数
23
被引用文献数
2 1

加味逍遙散の出典は書物により一定しない。今日の10種薬物の処方からみれば,『和剤局方』には単に逍遙散のみ収載され,『女科撮要』,『内科摘要』には生姜, 薄荷を含まない8種薬物の処方が収載されているだけである。薛己以後,『万病回春』に初めて10種薬物の処方が登場する。また四物湯合方の出典も書物により一定しない。『和剤局方』には四物湯合方の記載はないが,『内科摘要』に8種薬物処方の加味逍遙散合四物湯の医案例がある。更に『勿誤薬室方函口訣』には10種薬物処方の加味逍遙散合四物湯は確かに記載されているが, 今回の調査でそれより約90年前の『療治経験筆記』に周身痒瘡に対する同合方の記載を見出した。一般的に方剤の出典は, 加味逍遙散のように成立経緯が複雑な場合, 構成の各段階に貢献のあった所作は全て出典の一部分をなし, 合方については原則的に複数処方を用いて著明な治験例があった所作が出典になると考察した。
著者
小山 誠次
出版者
社団法人日本東洋医学会
雑誌
日本東洋醫學雜誌 (ISSN:02874857)
巻号頁・発行日
vol.47, no.1, pp.63-69, 1996-07-20
参考文献数
32
被引用文献数
2

〓苡仁は, 往古は不老延寿の薬であった。『黄帝内経素問』には真心脉を〓苡仁に例えて形態的特徴が記され, また『金匱要略』には〓苡仁を含む四処方が記載されている。〓苡仁の治疣作用については,『本草綱目』や『能毒』にも記載なく, 江戸時代の治疣療法としては艾灸もよく用いられた。〓苡仁の治疣作用を最初に記載した文献は『大和本草』であるとされているが, その病変の記述からは疣贅とは即断できない。従来はその後の『松蔭医談』の〓苡仁の治疣記載を経て,『青嚢瑣探』の治疣神方が最初の治疣処方とされて来た。しかし今回の独自の調査で『青嚢瑣探』の20年前に, 山田元倫撰『名家方選』に「治疣方 〓萩三銭甘草一分」という内服のみならず外用にも用いる処方の記載を見出した。治疣作用の発見は恐らくチョウセンムギの菓子としての摂食よりも〓苡飯, 〓苡粥による大量摂取によって著効例を多数経験したことによるものではないかと考按した。
著者
小山 誠次
出版者
The Japan Society for Oriental Medicine
雑誌
日本東洋医学雑誌 (ISSN:02874857)
巻号頁・発行日
vol.47, no.1, pp.63-69, 1996-07-20 (Released:2010-03-12)
参考文献数
32

〓苡仁は, 往古は不老延寿の薬であった。『黄帝内経素問』には真心脉を〓苡仁に例えて形態的特徴が記され, また『金匱要略』には〓苡仁を含む四処方が記載されている。〓苡仁の治疣作用については,『本草綱目』や『能毒』にも記載なく, 江戸時代の治疣療法としては艾灸もよく用いられた。〓苡仁の治疣作用を最初に記載した文献は『大和本草』であるとされているが, その病変の記述からは疣贅とは即断できない。従来はその後の『松蔭医談』の〓苡仁の治疣記載を経て,『青嚢瑣探』の治疣神方が最初の治疣処方とされて来た。しかし今回の独自の調査で『青嚢瑣探』の20年前に, 山田元倫撰『名家方選』に「治疣方 〓萩三銭甘草一分」という内服のみならず外用にも用いる処方の記載を見出した。治疣作用の発見は恐らくチョウセンムギの菓子としての摂食よりも〓苡飯, 〓苡粥による大量摂取によって著効例を多数経験したことによるものではないかと考按した。