著者
小島 一夫
出版者
つくば国際大学
雑誌
研究紀要 (ISSN:13412078)
巻号頁・発行日
vol.14, pp.73-85, 2008

本研究は,エリクソン(1959)の「アイデンティティ形成は,青年期に始まり終わると言うものではなく(中略)その大半が一生涯を通じて続く無意識的な発達プロセスである」の理論に基づいた生涯発達心理学の視点に立って,ライフサイクルの中で現役を引退し,キャリアトランジションすることが,あるアスリートにどのような意味を持ち,そして,どのような引退後の適応過程を辿ったかを元アスリートへのインタビューをもとにアイデンティティ再体制化の過程について豊田・中込(1996),豊田(1999)の仮説の検証と考察を(1)競技引退に伴うアイデンティティ再体制化のプロセス,(2)社会化予期と時間的展望について,(3)競技引退がその後の職業期危機に与えた影響,という3点に絞って行った。そこから以下の4つの点が推察された。(1)競技引退に伴うアイデンティティ再体制化のプロセスにおいては5つの過程がある。(2)社会化予期と時間的展望については事例により異なる。(3)競技引退がその後の職業期危機に与えた影響については,競技期間中におけるアスリートのアイデンティティ確立の心理・社会的背景(性差,投入の個人差,種目,競技実績,競技の知名度等)とトランジションに伴う社会化予期・時間的展望が密接に関係している。(4)アスリートのキャリアトラジションはアイデンティティを形成する過程の特殊性と相まって,その難しさがある。