著者
小島 大英
出版者
名古屋大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2017-04-01

重症複合免疫不全症(Severe combined immunodeficiency; SCID)は、生後数か月内に肺炎・敗血症などの重篤な感染症を契機に発見されることが多い、最も重症な原発性免疫不全症である。根治療法は同種造血幹細胞移植であるが、重篤な感染症を起こしたあとの移植成績は不良である一方、家族歴に基づいて生後すぐに診断・移植を受けた症例の成績は極めて良好であることが知られている。すでにTREC測定による新生児マススクリーニングが複数の国と地域で導入されており、SCID患者を発症前に診断し治療を行う体制が整いつつあるが、日本ではまだ実現していなかった。SCID 患者はおよそ5 万に1人出生するとされ、日本では年間20 人程度出生すると推定される。本研究はこれを最初に導入する試みである。我々は、愛知県健康づくり振興事業団の協力を得て、2017年4月から愛知県で出生した新生児のうち、保護者の同意を得た新生児を対象に、全国初のSCIDマススクリーニングを開始した。2018年3月までの1年間で約2万人の新生児のスクリーニング検査を実施することができた。43人の新生児はTRECの値が基準値よりも低く、精査の対象となった。リンパ球サブセット解析、IgG、網羅的遺伝子解析による精密検査を実施した。典型的なSCID症例は期間内に発見することは出来なかったが、Digeorge症候群1例、ウィスコット・アルドリッチ症候群1例を含む、数例のSCID以外の原発性免疫不全症が発見され、早期に感染予防策を開始することができた。発生頻度から推測して、今後数年内には典型的なSCID症例も発見・診断できることが予想される。