著者
小嶋 康生 コジマ コウセイ Kousei KOJIMA
雑誌
経営情報研究 : 摂南大学経営情報学部論集
巻号頁・発行日
vol.8, no.1, pp.93-116, 2000-07

冷戦「後」、世界はどう動いているか。超大国・アメリカは原理的な市場主義をてこに経済のクローバル化を進め、一極秩序の形成を目指している。しかし、それに対抗する形で形成されつつあるのが国際的な地域統合への動きである。EU(ヨーロッパ連合)の着実な進展が連鎖的な影響を与え始めている。この動きを30年代のブロック化とは質的変化を伴った「経済圏域」として捕らえ、世界経済一体化への歴史的ステップとする仮説を立てている。この仮説の上に東アジアの今後を長期的スパンで展望する。現状は「アジアは一つ、一つ」であり、地域経済圏域形成の動きは、この10年来あるにはあるが、実現の条件は今のところほとんど見当らない。超大国アメリカのアジア支配が、日米安保を機軸にして構築されているからである。そのような枠組みの中で「アジア共同体」の可能性と必要性はあるのか、どうか。あるとすればどのような形態となるか。日本を主語におき、21世紀の日本と日本を取り巻く東アジアとの関係を模索したもの。
著者
小嶋 康生
出版者
摂南大学
雑誌
経営情報研究 : 摂南大学経営情報学部論集 (ISSN:13402617)
巻号頁・発行日
vol.7, no.2, pp.69-97, 2000-02

バブル後、日本経済は恐慌状態に突入したが、中小企業への打撃が大きく、その影響は地方経済にも大きな傷跡を残した。なかでも中小工業の集積度の高い大阪経済は全国で最も事態は深刻である。小論は、いま、大阪の中小工業に何が起こっているか、その実態を究明するとともに先行きの展望を試みた。大阪経済は、袋小路にはいってしまっている。一つは循環的要因で、もう一つは構造的な要因によってである。"平成恐慌"の影響は大きい。バブル後この10年間、局面によって干満の潮の差はあるが、中小金融機関の破綻、相次いだ企業倒産、失業者の増加、地価・株価の急落、消費不振による"縮み現象"が続く。全国で大阪の数値が一番、厳しい。アジア貿易の比重が高いだけに大阪の失速は海外にも波及、アジア各国経済をも揺さぶった。この危機を脱するため政府の一連の緊急経済対策が幾度も出され、財政、金融両面において最大限の梃入れがあった。とりわけ金融再生を眼目にした制度改正の実施、そのなかで相次ぐ日銀特融、史上最低のゼロ金利、全都市銀行への国家資金注入など異例ともいえる措置が連発された。他方、毎年、巨額な赤字国債が組まれ、大型の財政出動が"財政危機"のなかで繰り返された。それら効果もあり、99年年初から潮の目は変わったとされるが、大阪経済は改善の兆候は99年夏現在まだ、でていない。最悪の状態は脱したとしても一本調子に反転、浮揚とはいかない。なぜか。海外市場要因もあるが、構造的な問題を抱えているからである。とりわけ、中小工業の経営者は先行き不透明感を抱く。それは、金融ビッグバンに代表される財界標準への制度移行が絡んでいるからである。自由化、規制緩和などにより、戦後続いた経営の枠組みが変更され、ビジネス環境は様変わりとなりつつある。その路線を、この機に、さらに推進せんとするのが、経済戦略会議の『日本経済再生への戦略』であり、産業競争力会議がまとめた「産業再生」関連法である。日本経済10年の足踏み、この遅れをどう取り戻すか。基本は規制緩和、自由化、国際化とする。この流れに棹さすのが、大企業の多国籍化、グローバルな展開である。それは世界的な潮流になりつつあるとはいえ中小企業にとっては敵対的路線である。バーゼル協約が銀行の貸し渋りを生み、企業倒産が相次いだ事例を見ても明らかである。このような状況の中で大阪の中小工業は二重、三重の負荷を背負わされる。一つは傾向的に進む円高による輸出不振。為替レートが大企業の貿易レートで決まっていることを見れば、その被害者といえる。二つ目は、大企業の工場の海外移転に伴う産業空洞化現象。三つめは"大競争時代"とはやし立てられているが、途上国からの製品流人、Uターン流入。要素資源格差で敗退を余儀なくされている。四つめは大企業の内製化が進んできており、発注減に。五つめには親会社の製品多角化についていくための技術的、資金的な困難である。このような難題が相次ぎ産地企業、下請け企業を問わず、倒産、廃業が急増している。間違いなく産地は崩壊、また下請け企業が集積したクラスターも瓦解寸前にある。この事態はいずれは大企業にも跳ね返り、このままでは大阪経済は縮小し、地域社会にも甚大な影響をもたらすであろう。方向転換が求められている。これまでの大企業追随のあり方を清算、オルタナティブな道の模索なくして、明日の中小工業はない。