著者
野村 貴美 氏平 祐輔 小嶋 隆司
出版者
公益社団法人 日本化学会
雑誌
日本化学会誌
巻号頁・発行日
vol.1982, no.1, pp.87-92, 1982
被引用文献数
7

ホスホブィライト[Zn<SUB>2</SUB>Fe(PO<SUB>4</SUB>)<SUB>2</SUB>・4H<SUB>2</SUB>O]を窒素および空気中で加熱し,脱水や熱分解で生成した化合物の状態をMossbauerスペクトロメトリー,X線回折分析,熱重量および示差熱分析から解析した。約168℃から277℃ では亜鉛一鉄混合リン酸塩の一水和物(1.S.=1.13mm/s,Q.S.=2.04mm/s),および二水職物(1.S.=1.18mm/s,Q.S.=2.57mm/s)が窒素および空気中で存在することがわかった。277℃以上でホスホフィライトはその水分子をほとんど離脱し,窒素中では無水亜鉛一鉄混合リン酸塩のγ相に変態したが,空気中では無水リン酸亜鉛[α-Zn<SUB>3</SUB>(PO<SUB>4</SUB>)<SUB>2</SUB>]と無水リン酸鉄(III)[FePO<SUB>4</SUB>]ならびに他の常磁性鉄(III)化合物に分解した。空気中でのボスホフィライトの脱水過程でほとんど鉄(II)は鉄(III)に酸化されたが,さらに試料を850℃ 以上に加熱すると空気中でも鉄(III)が鉄(II)に還元きれて無水リン酸亜鉛に取り込まれ,亜鉛一鉄混合リン酸塩のγ相が生成することがわかった。ボスホフィライトの熱分解過程が議論され,熱分解生成物の鉄の化学状態の割合と温度との関係がダイヤグラムとして示された。
著者
野村 貴美 氏平 祐輔 松島 安信 小嶋 隆司 菅原 陽一
出版者
公益社団法人 日本化学会
雑誌
日本化学会誌
巻号頁・発行日
vol.1980, no.9, pp.1372-1380, 1980
被引用文献数
8

リムド鋼を亜鉛系リン酸塩溶液に浸漬して化成処理レ,その表面皮膜中に形成された鉄化合物の物理・化学的状態が,転換電子M&ouml;ssbauerスペクトロメトリー, X線回折法および電子顕微鏡写真によって研究された.<BR>Bonderite 3008による処理で形成した亜鉛系リソ酸塩皮膜には高スピンの鉄(II)化合物(I.S.:1.26mm/s, Q.S.:3.40 mm/s)であるホスホフィライト[Zn<sub>2</sub>Fe(PO<sub>4</sub>)<sub>2</sub>・4H<sub>2</sub>O]と非晶質の鉄(III)化合物がホープアイト[Zn<sub>3</sub>(PO<sub>4</sub>)<sub>2</sub>・4H<sub>2</sub>O]の下層に存在していた。鉄(II互)/鉄(III)の比は,浸漬時間の増大にともなって増加したが,H<sub>2</sub>O<sub>2</sub>, NaCIO<sub>3</sub>+NaNO<sub>2</sub>, NaNO<sub>2</sub>, NaNO<sub>2</sub>+NaNO<sub>3</sub>の酸化剤をリソ酸塩浴に加えると,この順に鉄(II)/鉄(III)の比が減少した。高濃度の亜鉛イオンとニッケルイオソを含んだリン酸溶液で処理した場合にはホスホフィライトの生成が抑制され,ホープアイト皮膜の下にFe<sub>3</sub>・(PO<sub>4</sub>)<sub>2</sub>3H<sub>2</sub>Oであると考えられる鉄(III)化合物が形成された。カルシウム-亜鉛リン酸溶液(X<sub>ca</sub>=Ca/(Ca+Zn)=0.8)で処理した場合には鉄(II)化合物(I.S.:1.26 mm/s, Q.S.=2.06 mm/s)がショルツァイト[Zn<sub>2</sub>Ca(PO<sub>4</sub>)<sub>2</sub>・2H<sub>2</sub>O]層の下に存在していることがわかった。この鉄(豆)化合物の電場勾配の主軸は素地鋼表面に対して約60°に配向していた。リン酸塩処理鋼の皮膜の下にある素地鋼面の内部磁場は,浸漬時間が増大し,または皮膜が厚くなると表面に平行な配向からラソダムな配向に変わってゆくことがわかった。