著者
小嶺 徹
出版者
久留米大学
雑誌
奨励研究(A)
巻号頁・発行日
1996

近年,抗ヘルペスウイルス剤の普及により症状の軽減及び期間の短縮がはかられてきた.しかし、抗ヘルペスウイルス剤の投与は抗体の産生にとって不利になると予想される.そこで,久留米大学医学部口腔外科を受診した(1987年1月から1995年4月)初感染と考えられるHSV-1感染症患者のうち,ペア血清の得られた43名の血清(抗ウイルス剤投与群37名,非投与群6名.)でIgG・IgM抗体並びに中和抗体価を測定した.すなわち,エンザイグノスト単純ヘルペスIgGおよびIgMはELISAでまた,中和抗体価の測定はマイクロ法によった.回復期の中和抗体で有為な上昇が認められなかったものは11症例であった。このうち,抗ウイルス剤を投与したものが11例中9例で、投与群全体に占める割合は、38例中9例の23.6%であった。また、未投与であったものは2例で未投与群での割合は、5例中2例の40%で抗ウイルス剤の投与が抗体産生を阻害しているという結論は得られなかった。そこで、15才未満の小児(7例)と成人(36例)に分けてみると、成人での抗体上昇の見られなかったものは、36例中10例の27.7%、逆に小児は、7例中1例の14.2%で,成人例で抗体価が上がりにくい傾向が伺えた。また抗ウイルス剤の投与を行なった初感染2症例の潜伏ウイルスの再活性と抗体価の変動についての長期経過観察によると,小児例は約2カ月後,成人例では約6カ月後に中和抗体価の有意な上昇を示しており,従来の2週後には上昇を示しておらず,これも抗ウイルス剤投与の影響と考えている.