- 著者
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小川 絢子
子安 増生
- 出版者
- 一般社団法人 日本発達心理学会
- 雑誌
- 発達心理学研究 (ISSN:09159029)
- 巻号頁・発行日
- vol.19, no.2, pp.171-182, 2008-08-10 (Released:2017-07-27)
- 被引用文献数
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6
幼児が他者の誤った信念を理解するためには,実行機能の発達が必要不可欠であることが,最近の「心の理論」研究から明らかにされてきている(Carlson& Moses, 2001; Perner &Lang, 1999)。実行機能の中でも,ワーキングメモリと葛藤抑制の機能が「心の理論」と特に関連することが示されている。しかしながら,日本において実行機能と「心の理論」の関連を検討した研究はほとんどみられない。本研究の目的は,実行機能と「心の理論]が,日本の幼児において関連するのかどうかを検討し,関連があるのであれば,実行機能の下位機能のうち何が「心の理論」と関連するのかを,因子分析を用いて下位機能の因子間の関連性および独立性を考慮した上で検討することであった。3歳から6歳児70名を対象に,「心の理諭」2課題,実行機能6課題,および語彙理解テストを実施した。その結果、年齢と語彙理解テストの成績を統制しても,ワーキングメモリ課題の成績と「心の理論」課題の成績との間に有意な相関がみられた。加えて,ワーキングメモリと葛藤抑制の因子間相関は非常に高かった。 これらの結果から,幼児期においては,葛藤抑制の機能の多くはワーキングメモリによって説明される可能性があり,1つの課題状況に対して,自己視点を抑制し,他者視点を活性化するといった操作を可能にするワーキングメモリ容量が,誤った信念の理解に必要であることが示唆された。