著者
小平 聡
出版者
独立行政法人放射線医学総合研究所
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2010

宇宙放射線の主成分である高エネルギー陽子から鉄に至る荷電粒子群は宇宙で活動する宇宙飛行士の放射線被ばくに大きな影響を持つ。宇宙における被ばく線量としては、宇宙放射線などの一次粒子成分のほかに、宇宙放射線が衛星構体や人体内の構成元素と核破砕反応を起こすことで発生する二次粒子成分も重要な要因となる。近年、陽子線と人体内元素との標的核破砕反応で生成する二次粒子成分の線量寄与が問題となっている。CR-39固体飛跡検出器はこれらの二次粒子成分も飛跡として記録するが、従来の計測法では、エッチング処理が短飛程粒子の飛程を超えてしまい正確にLETが計測できない、LETが高すぎると応答感度が飽和してしまう、炭素や酸素などの高フラックス宇宙放射線のバックグラウンドが大きくなる、などの問題点があった。本研究では短飛程粒子の飛程を超えないごく微小のエッチングにより生成した極微小エッチピットの原子間力顕微鏡を用いた計測技術や、CR-39の応答感度を高LET領域に最適化しLET検出閾値を制御する計測技術を確立した。要素技術を用いて陽子線由来の短飛程二次粒子の測定実験の結果、短飛程二次粒子のLETは20keV/μm~4000keV/μmの広域にわたり連続分布を持ち、線量当量で1次陽子線の30~40%程度の余剰線量を持つにとを明らかにした。本研究において確立した二次粒子計測技術は、宇宙放射線場だけでなくがん治療用の粒子線やX線照射によって生じる二次粒子による医療被ばく影響研究に応用できるようになった。