著者
鳥居 昭久 小形 滋彦
出版者
JAPANESE PHYSICAL THERAPY ASSOCIATION
雑誌
日本理学療法学術大会
巻号頁・発行日
vol.2009, pp.C4P1126-C4P1126, 2010

【目的】ボートジュニア世界選手権大会(2009年8月5日~8日、フランス)への日本代表チームトレーナーとして帯同する経験を得た。ボート競技については、シニアチームには専属トレーナーが帯同しているが、ジュニアチームには初めての帯同となった。これは競技力向上の一つとして、これまでコーチと選手のみだったジュニアチームに、トレーナーサポートを加え、コンディショニングなどに対する意識向上を図る意味があった。今回、このサポート経験からボート競技における今後の課題を明らかにし、多くのジュニアスポーツに共通すると思われる課題について考察することを目的に報告する。<BR><BR>【方法】2009年ボートジュニア世界選手権大会に参加した日本代表選手10名(男性5名、年齢17.8±0.4歳、身長182.8±5.1cm、体重78.0±6.8kg、女性5名、年齢17.2±0.4歳、身長165.2±2.9cm、体重61.8±2.4kg)を対象として、国内外での事前合宿および本大会期間中の約3週間のトレーナーサポートを実施、ここでみられた問題点について検討した。選手把握の為に国内合宿前に文書にて状況調査を行い、それに基づいて合宿時に初回面接を行った。また、合宿および遠征中の毎朝、簡易調査票を配布回収し、必要に応じて問診を行った。トレーナーサポートとしては、身体的問題点に対する治療的なアプローチ(物理療法や運動療法による)、ストレッチングやテーピングなどの指導や実施、休養や栄養摂取などのアドバイス、必要に応じて面接などによる心理的サポート、日本ボート協会医科学委員会所属医師との連携による医療サポートなどを行った。<BR><BR>【説明と同意】今回のトレーナーサポートは日本ボート協会医科学委員会からの派遣によるものであり、得られた情報は全て日本ボート協会医科学委員会に帰属する。また、各選手および所属の高校ボート部顧問へ事前に説明の文書を送付し、トレーナーサポートとそこで得られた情報は、個人情報保護法に則り厳正に管理される旨の説明を文書にて行い、同意を得た。<BR><BR>【結果】最終的には、全選手に何らかのトレーナーサポートが必要であった。身体的問題点としては、慢性障害がほとんどであり、筋の張りや関節可動域制限が中心であった。原因は疲労の影響によるもの、フォームの崩れ、アライメント不正からと考えられるものが多かった。国内合宿2日間におけるトレーナーサポートは合計20回、移動日を除く直前合宿および本大会期間中の17日間は合計141回となった。また、全選手にストレッチ方法や事後のトレーニング、休養方法や栄養摂取などについてのアドバイスが必要であった。特に補食摂取については、管理が必要な場面があった。他、本大会競技中には大きなトラブルは発生せず、各レースに向けてのコンディショニングは順調であった。<BR><BR>【考察】ボート競技は陸上競技や水泳競技などと同様に、本大会までのトレーニングやコンディショニングピークの合わせ方が、競技成績に大きな影響を与える。今回のトレーナーサポートによって、身体的問題点に対して事前に対応できたことが、本大会でのトラブルを未然に防ぐことにつながったと推察される。一方、ジュニアスポーツ選手ということもあり、自分の身体的特徴や問題点を十分に把握できていない面がみられ、将来的な障害発生の危険性が推察された。これは、身体的機能やトレーニング方法のみならず、栄養管理や休養の取り方などの知識にもみられ、個人差も大きかった。今回の帯同時に、これらについて個々に具体的な指導ができたことの意義は大きいと感じた。身体的変化の大きな発達期のジュニアスポーツ選手という特性から考えても、日常的、長期的なサポートが必要であり、加えて、中高校部活動が中心のジュニアスポーツにおける指導者の多くが、必ずしも身体的問題の専門家ではないことを含めて考えても、日常的で継続的なトレーナーサポートの必要性は大きいと思われた。<BR><BR>【理学療法学研究としての意義】ジュニアスポーツに対する日常的で継続的なトレーナーサポートは、スポーツ障害予防の観点からも重要であり、理学療法士がチームのトレーナーとして果たせる役割は大きい。このため、様々なジュニアスポーツにおける理学療法士の関わり方を検討する必要がある。