著者
小松 徹也 魚住 洋一 臼井 雅宣
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.43 Suppl. No.2 (第51回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.1025, 2016 (Released:2016-04-28)

【はじめに,目的】髄外胸髄腫瘍の術後予後は良好と言われているが,具体的な回復経過を詳細に報告したものは少ない。今回,髄外硬膜外の胸髄腫瘍によりTh6以下の不全対麻痺(ブラウン・セカール症候群)を呈する症例を担当し,術前から退院までリハビリを実施した。術前から術後7週間にわたってASIAスコアと歩行スピード(10m歩行・Timed Up & Go:以下TUG)の評価を行ったので報告する。【方法】症例は67歳 女性 身長161cm,54kg。既往歴として62歳時に右乳癌に対して乳房部分切除を施行されホルモン療法を当院外科外来で行っていた。現病歴は,2015年3月より歩きにくさを自覚,5月よりT字杖歩行,7月からは屋内伝い歩きとなり外出を控えるようになった。同月,当院脳神経外科を受診し8月1日脊髄造影MRIでTh2-3に髄外硬膜外腫瘍を認めたため,加療目的で8月4日入院となった。8月7日術前リハビリ開始,8月17日に再度MRIを撮影し乳癌転移を否定した後,8月27日脊髄腫瘍摘出術が施行された。腫瘍は髄膜腫(Meningotheliel meningioma,WHO Grade1)と診断された。8月31日からリハビリ再開となり9月4日より両松葉杖歩行を開始。9月8日より右ロフストランド杖歩行開始,3度の自宅外泊を実施し,10月17日に自宅退院となった。退院時の歩行能力は屋内独歩・屋外ロフストランド杖歩行であった。【結果】術前評価:意識は清明,コミュニケーション良好。両上肢に感覚・運動障害は見られず,握力は右18.6kg,左19.0kg。四肢に可動域制限を認めず。異常感覚として腹部から両下肢にかけてしびれ感とつっぱり感があり,Babinski反射は両側ともに陽性。膀胱直腸障害を認めず。基本動作は物的介助にて自立。歩行は両松葉杖にて指尖介助レベルであり連続40m程度。FIM113点(移動能力と浴槽への移譲動作のみ低下)。自宅は二階建てで夫と二人暮らし。本人のneedsは「歩けるようになって早く帰りたい」であった。ASIAスコア(運動82/100,痛覚67/112,触覚88/112)。10m歩行は27.3秒。術後1週:ASIAスコア(運動84,痛覚80,触覚97)。術後2から6週:ASIAスコア(運動86→91→93→94→95,痛覚101→109→109→110→110,触覚103→110→111→111→111)。歩行スピード(10m歩行 計測実施せず→14.3秒→11.9秒→8.87秒→9.4秒,TUG 計測実施せず→計測実施せず→16.9秒→11.6秒→12.37秒)。術後7週(退院前):ASIAスコア(運動97,痛覚111,触覚112)。歩行 スピード(10m歩行 8.9秒。TUG 11.9秒)。屋内独歩,屋外右ロフストランド杖歩行での退院となった。【結論】髄外胸髄腫瘍の症例を担当した。ASIAスコアの触覚スコアは術後7週で満点となり,痛覚スコア・運動スコアは術後7週では満点にはならなかった。歩行スピードは術前と比較し明らかな回復を認めた。本症例を通じ,髄外硬膜外胸髄腫瘍の術前および術後7週間にわたるASIAスコアと歩行スピードの具体的な回復の経過を知ることができた。