- 著者
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中村 翔
小林 一希
颯田 季央
工藤 慎太郎
- 出版者
- 公益社団法人 日本理学療法士協会
- 雑誌
- 理学療法学Supplement Vol.43 Suppl. No.2 (第51回日本理学療法学術大会 抄録集)
- 巻号頁・発行日
- pp.0152, 2016 (Released:2016-04-28)
【はじめに,目的】外側広筋(VL)は膝関節の主要な伸展筋であり,さらに内側広筋と共同して膝蓋骨の安定性に寄与している。しかし,臨床で遭遇するVLの過緊張は内側広筋とのアンバランスを引き起こし,膝蓋骨の正常な運動を阻害する。そして膝蓋大腿関節症といった膝周囲の疼痛を引き起こす原因となるため,膝蓋大腿関節の機能改善のためには,VLに対する治療が重要となる。我々は先行研究において超音波画像診断装置を用いて膝関節屈曲運動時のVLの動態を観察した結果,膝屈曲運動時にVLは後内側に変位することを報告した(中村2015)。そしてEly test陽性例に対して,VLの動態を考慮した運動療法を行った結果,VLの動態の改善や筋硬度の減少といった結果が得られたことを報告した(中村2015)。しかし,我々が考案した運動療法と従来から行われているストレッチングの効果について比較をしていない。そこで今回は両介入における即時効果の比較検討をしたので報告する。【方法】対象はEly testが陽性であった成人男性20名40肢とした。対象を無作為にVLの動態を考慮した運動療法を行う群(MT群)とストレッチングを施行する群(ST群)の2群に振り分けた。MT群は膝関節自動屈曲運動に伴い,VLを徒手的に後内側に誘導する運動療法を行った。回数は10回を1セットとし,3セット行った。ST群は他動的に最終域まで膝関節を屈曲するストレッチングを行った。回数は30秒を1セットとし,3セット行った。測定項目は膝関節屈曲運動時のVL変位量(VL変位量)と筋硬度を介入前後に測定した。VL変位量は超音波画像診断装置を用いて,Bモード,リニアプローブにて,膝関節自動屈曲運動時のVLの動態を撮影した。そして,得られた動画を静止画に分割し,膝関節伸展位と屈曲90度の画像を抜き出し,VLの移動した距離をImage-Jを使用して測定した。筋硬度は背臥位,膝伸展位で筋硬度計を用いて,大腿中央外側にて測定した。統計学的処理にはR2.8.1を使用し,介入前後の比較にはWilcoxonの符号付順位検定を行い,群間の比較にはMann-Whitney検定を行った。いずれも有意水準は5%未満とした。【結果】介入前の両群間の各変数に有意差は認めなかった。介入前のVL変位量は,MT群8.3mm(7.5-9.7),ST群8.7mm(8.1-10.2),介入後はMT群12.5mm(11.7-13.5),ST群11.9mm(11.1-13.4)であり,両群とも介入前後で有意差を認めた(p<0.05)。介入前の筋硬度は,MT群1.5N(1.5-1.6),ST群1.5N(1.4-1.5),介入後はMT群1.4N(1.4-1.5),ST群1.5N(1.4-1.5)であり,両群とも介入前後で有意差を認めた(p<0.05)。介入後の両群間の比較では,VL変位量,筋硬度ともに有意差を認めた(p<0.05)。【結論】筋の動態を考慮した運動療法はストレッチングと比較して,膝関節屈曲運動時の筋の動態および筋硬度が改善したことより,本法は短軸方向への筋の柔軟性改善に有効な手段であることが明らかとなった。