著者
久田 智之 工藤 慎太郎 颯田 季央
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2012, pp.48101248, 2013

【はじめに、目的】腰背筋群は内側筋群の多裂筋と外側筋群の最長筋・腰腸肋筋からなると言われており,内側筋群と外側筋群は神経支配,機能とも異なることが知られている.その中で,内側筋群である多裂筋の機能は姿勢保持や腰椎のコントロール,障害予防など臨床的に重要である.多裂筋の筋機能を測定するために表面筋電図が多く使われているが,筋電図学的には腰背筋群を脊柱起立筋群として捉えていることが多く,内側筋群・外側筋群を分けて考えられていない.また,多くの研究で使われている筋電図電極貼付け位置は海外の報告を引用していることが多く,日本人の体型に適しているのかという検討はされていない.さらに,我々は第47 回本学会において,超音波画像診断より内側筋群において多裂筋の同定は困難な例も存在し,横突棘筋と捉えることが望ましいと報告している.そこで,本研究の目的は超音波画像診断装置を用いて,多裂筋を含む横突棘筋における従来の筋電貼付け位置の妥当性を検討することとした.【方法】対象は腰部に障害を有してない健常成人男性20 名(平均身長172.8 ± 6.1cm,平均体重61.6 ± 9.2kg)の右側とした.超音波画像装置にはMyLab25(株式会社日立メディコ社製)を使用し,測定はBモード,プローブには12MHzのリニアプローブを使用した.腹臥位にてL2・4 棘突起から3cm,L4 棘突起から6cm外側の3 部位を測定部位とし,短軸像を撮影した.固有背筋の同定は先行研究に従い,横突棘筋と最長筋を同定し,L2・4 棘突起から3cm外側の位置での横突棘筋の有無を観察した.さらに(a)棘突起から横突棘筋外縁までの距離,(b)棘突起から横突棘筋最表層までの距離,(c)棘突起から3cmの位置に存在する筋の筋厚を計測した.すべての測定は同一検者が行い,測定方法においては検者内信頼性が高いことを確認した(ICC(1,1)=0.90 〜0.99).また,L2・4 の棘突起から横突棘筋外縁までの距離と身長,体重,腹囲,上前腸骨棘間の距離の関係をspeamanの順位相関係数により検討した.【倫理的配慮、説明と同意】対象には本研究の趣旨,対象者の権利を説明し紙面にて同意を得た.【結果】L2 レベルにおいて棘突起3cm外側に横突棘筋の存在した例は2 例,最長筋の存在した例は18 例であった.L4 レベルでは横突棘筋の存在した例は4 例,最長筋の存在した例は16 例であった.L2・4 レベルともに,横突棘筋の表層に最長筋が存在した.L4 棘突起6cm外側にはすべての例において腰腸肋筋が存在した.また,(a)棘突起から横突棘筋外縁までの距離はL2 レベルで2.55 ± 0.41cm,L4 レベルで2.76 ± 0.36cmであった.(b)棘突起から横突棘筋最表層までの距離はL2,L4レベルともに0.39 ± 0.07cmであった.(c)棘突起3cm外側に存在する最長筋の筋厚はL2 レベル2.69 ± 0.01cm,L4 レベルで2.63 ± 0.55cmであった.棘突起から横突棘筋外縁までの距離はL2 レベルにおいて,上前腸骨棘間の距離のみ相関関係を認めた(r=0.44,p<0.05).【考察】表面筋電における多裂筋の電極貼付け位置はVinksらにおけるL4 外側3cmの位置が多く引用されている.しかしながら,本研究の結果からL4 レベルにおいて棘突起から外側3cmの深層には多くの例で多裂筋を含む横突棘筋は存在しないことが明らかになった.さらに,多くの例でL4 レベルの棘突起外側3cmには最長筋を主とする外側筋群が2 〜3cmの厚みで存在する.そのため,現在までの表面筋電における報告は腰背筋群の外側筋群の筋電位を測定している可能性がある.表面筋電の電極貼り付け位置として,横突棘筋が最表層部に来る位置が考えられるが,棘突起から横突棘筋最表層部までの距離は3 〜4mmとなり,棘突起に非常に近く,アーチファクトの影響を受けやすいと考えられる.また,Vinksらは最長筋の表面筋電の電極貼り付け位置として,L2棘突起外側3cm を提唱している.今回の計測においても,L2 外側3cmには最長筋を主とする腰背筋群の外側筋群が存在していた.そのため同部位での筋活動の測定は最長筋の筋活動を測定できている可能性が高い.L2 棘突起から横突棘筋外縁までの距離と上前腸骨棘間の距離に相関がみられた.骨盤から起始し,下位腰椎に付着する横突棘筋は隣接する椎体に停止する線維束と幾つかの椎体をまたいで停止する線維束に分類できる.後者ほど筋束の外縁を走行するため,より高位の横突棘筋は骨盤の大きさと相関したと考えられる.つまり,Vinksらの結果は黄色人種と比較して,大きな人種を対象にしているため,今回の測定結果の相違が生まれたと考えた.【理学療法学研究としての意義】本研究により従来の多裂筋の表面筋電でよく引用されていた電極貼り付け位置は多裂筋ではなく外側筋群の筋電を測定していた可能性がある.そのため従来の研究結果は電極の種類や貼り付け位置を考慮する必要がある.
著者
中村 翔 小林 一希 颯田 季央 工藤 慎太郎
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.43 Suppl. No.2 (第51回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.0152, 2016 (Released:2016-04-28)

【はじめに,目的】外側広筋(VL)は膝関節の主要な伸展筋であり,さらに内側広筋と共同して膝蓋骨の安定性に寄与している。しかし,臨床で遭遇するVLの過緊張は内側広筋とのアンバランスを引き起こし,膝蓋骨の正常な運動を阻害する。そして膝蓋大腿関節症といった膝周囲の疼痛を引き起こす原因となるため,膝蓋大腿関節の機能改善のためには,VLに対する治療が重要となる。我々は先行研究において超音波画像診断装置を用いて膝関節屈曲運動時のVLの動態を観察した結果,膝屈曲運動時にVLは後内側に変位することを報告した(中村2015)。そしてEly test陽性例に対して,VLの動態を考慮した運動療法を行った結果,VLの動態の改善や筋硬度の減少といった結果が得られたことを報告した(中村2015)。しかし,我々が考案した運動療法と従来から行われているストレッチングの効果について比較をしていない。そこで今回は両介入における即時効果の比較検討をしたので報告する。【方法】対象はEly testが陽性であった成人男性20名40肢とした。対象を無作為にVLの動態を考慮した運動療法を行う群(MT群)とストレッチングを施行する群(ST群)の2群に振り分けた。MT群は膝関節自動屈曲運動に伴い,VLを徒手的に後内側に誘導する運動療法を行った。回数は10回を1セットとし,3セット行った。ST群は他動的に最終域まで膝関節を屈曲するストレッチングを行った。回数は30秒を1セットとし,3セット行った。測定項目は膝関節屈曲運動時のVL変位量(VL変位量)と筋硬度を介入前後に測定した。VL変位量は超音波画像診断装置を用いて,Bモード,リニアプローブにて,膝関節自動屈曲運動時のVLの動態を撮影した。そして,得られた動画を静止画に分割し,膝関節伸展位と屈曲90度の画像を抜き出し,VLの移動した距離をImage-Jを使用して測定した。筋硬度は背臥位,膝伸展位で筋硬度計を用いて,大腿中央外側にて測定した。統計学的処理にはR2.8.1を使用し,介入前後の比較にはWilcoxonの符号付順位検定を行い,群間の比較にはMann-Whitney検定を行った。いずれも有意水準は5%未満とした。【結果】介入前の両群間の各変数に有意差は認めなかった。介入前のVL変位量は,MT群8.3mm(7.5-9.7),ST群8.7mm(8.1-10.2),介入後はMT群12.5mm(11.7-13.5),ST群11.9mm(11.1-13.4)であり,両群とも介入前後で有意差を認めた(p<0.05)。介入前の筋硬度は,MT群1.5N(1.5-1.6),ST群1.5N(1.4-1.5),介入後はMT群1.4N(1.4-1.5),ST群1.5N(1.4-1.5)であり,両群とも介入前後で有意差を認めた(p<0.05)。介入後の両群間の比較では,VL変位量,筋硬度ともに有意差を認めた(p<0.05)。【結論】筋の動態を考慮した運動療法はストレッチングと比較して,膝関節屈曲運動時の筋の動態および筋硬度が改善したことより,本法は短軸方向への筋の柔軟性改善に有効な手段であることが明らかとなった。