著者
小林 亜由美 神崎 伸夫 片岡 友美 田村 典子
出版者
日本哺乳類学会
雑誌
哺乳類科学 (ISSN:0385437X)
巻号頁・発行日
vol.49, no.1, pp.13-24, 2009 (Released:2009-07-16)
参考文献数
36

富士山北斜面の標高2,100~2,300 mの亜高山帯針葉樹林において,ニホンリスを捕獲し,テレメトリー法によって植生環境の選択性を調査した.コメツガ優占林,カラマツ優占林,シラビソ/オオシラビソ優占林,ゴヨウマツ分布域,林縁,開放地の6区分の植生環境の中で,ゴヨウマツ分布域が選択的に利用される傾向があった.しかし,針葉樹の種子が利用できない春には,カラマツ優占林やシラビソ/オオシラビソ優占林も選択的に利用する個体があった.コメツガ優占林,林縁,開放地は忌避される傾向があった.これらの針葉樹のうち,1個の球果あたりのエネルギー量がもっとも多いのはオオシラビソで,次がゴヨウマツであった.カラマツ,コメツガは球果サイズが小さく,エネルギー量は少なかった.ゴヨウマツの球果サイズには同一の木の中で変異があり,ニホンリスはより大きな球果を選択的に利用することが明らかになった.球果サイズとその中に含まれる種子数には正の相関があるため,ニホンリスはより多くのエネルギーを効率的に得るために球果選択を行っていると考えられる.