- 著者
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小寺 祐二
神崎 伸夫
石川 尚人
皆川 晶子
- 出版者
- 日本哺乳類学会
- 雑誌
- 哺乳類科学 (ISSN:0385437X)
- 巻号頁・発行日
- vol.53, no.2, pp.279-287, 2013 (Released:2014-01-31)
- 参考文献数
- 43
- 被引用文献数
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5
本研究は,島根県石見地方で捕獲されたイノシシ(Sus scrofa)の胃内容物を分析し,食性の季節的変化を明らかにすることを目的とした.調査では,1998年4月から1999年3月の間に島根県浜田市を中心に捕獲されたイノシシ294個体より胃内容物を採取し,ポイント枠法による食性分析を実施し,各食物項目の占有率および出現頻度を季節別(第I期:5,6月,第II期:7~9月,第III期:10~12月,第IV期:1~3月)に算出した.その結果,植物質の占有率および出現頻度は季節によらず高い値を示した.動物質の占有率でも季節的変化は確認されなかったが,最高値を示した第II期でも4.3%と低い値であった.植物質の部位別占有率については果実・種子を除く全ての部位で季節的変化が確認され,第II期は同化部,その他の季節は地下部を採食する傾向が確認された.また,地下部の内訳について見ると,第I期はタケ類(57.9%),第III期・第IV期は塊茎(それぞれ43.3%,21.3%)の占有率が高くなった.同化部は第II期の主要な食物となっており,その多くが双子葉植物で占有率は27.6%を示した.果実・種子の占有率については,堅果類が第III期・第IV期に20.0,20.4%と高い値を示し,水稲と果実は第II期にそれぞれ6.8,3.6%を示した.その他植物質の多くは繊維質であり,第I期は主にタケ類,第II期は双子葉植物,第III期・第IV期は塊茎から由来するものであった.調査個体群では第II期を除き植物質地下部が良質で重要な食糧資源になっていた可能性が示された.