- 著者
-
小林 好和
- 出版者
- 札幌学院大学人文学会
- 雑誌
- 札幌学院大学人文学会紀要 (ISSN:09163166)
- 巻号頁・発行日
- no.83, pp.123-136, 2008-03
物証文の理解における中心的課題の一つとして,前向き推論,逆向き推論を合むような読み手の推論過程があげられる。本研究では,推論をテクストから省かれた重要な部分的情報を読み手が既有情報をもとに予期することと仮定する。本研究の目的は物語作品『ごんぎつね』を用い,その「一次読み」の過程における推論の特質を検討することである。国語科教材であるこの作品を用いた調査を小学校3年生141名に対して実施した。そのうち,この物語を初めて読む児童は79名(56%)であり,本研究は彼らに限定し分析を行なった。方法として物語の結末を削除したテクストを用い,彼らの理解内容,物語の結末の作証(予期推論),彼らの推論の物語展開への統合に関するQ/A法によるプロトコルデータを得た。本研究の結果から以下のことが示唆された。この作品の"一次読み"において,3年生では主人公(ごん)の視点に固定して読もうとすること,したがって「同情の枠組み」をもとにしてこの理解を構成する傾向が示された。その上で,彼らの多くが主人公(ごん)はもう一人の登場人物(兵十)と最後には仲良くなるという予期推論をおこなった。したがって,原文の結末(兵十がくりを待ってきたごんを撃つ)を彼らが構成した理解に直ちに統合することは容易ではなかった。そこで授業場面においては,「兵十はごんをどうみていたか」といった他の登場人物(兵十)の視点をとるような読みの方略を示す必要があると推察された。