著者
小林 昭二
出版者
地学団体研究会
雑誌
地球科学 (ISSN:03666611)
巻号頁・発行日
vol.56, no.3, pp.179-190, 2002-05-25 (Released:2017-07-14)

群馬県安中市の板鼻層(中期中新世後期〜後期中新世前期)から発見された海牛化石は,右肩甲骨,胸骨,肋骨,胸椎を含み,産地名にちなみ下秋間標本という.これらの部位をジュゴン科(ジュゴン亜科,ヒドロダマリス亜科,ハリテリウム亜科3亜科),トリケクス科のアメリカマナティーと比較した結果,特に第1から第4肋骨では遠位ほど太く,全体的に肥厚していることと大きさの点でMetaxytheriumメタキシテリウム属に,さらに各部位の大きさや台形の肩甲骨,長方形の胸骨,縦長の胸郭などの形態においてMetaxytherium crataegense, M. serresiiなどとよく似ている.また,胸椎の形態,中位・後位肋骨の肋骨角後外側部の膨らみなどはHalitherium schinziに似ているが,下秋間標本は幅広い背縁と強い烏口突起をもつ大きな肩甲骨を有する点でより派生的である.以上のことから下秋間標本をハリテリウム亜科とした.下秋間標本はわが国最古のジュゴン科の一つと考えられ,わが国の中新世以後の海牛目の分布,さらに大西洋・ヨーロッパ起源の海牛の日本進入の経路を考える上でも重要な資料である.