著者
小林 遼平 名村 理 三村 慎也 村岡 拓磨
出版者
特定非営利活動法人 日本心臓血管外科学会
雑誌
日本心臓血管外科学会雑誌 (ISSN:02851474)
巻号頁・発行日
vol.50, no.6, pp.368-373, 2021-11-15 (Released:2021-11-30)
参考文献数
12
被引用文献数
1

本邦では稀な刺傷による鋭的心臓損傷を2例経験したので報告する.2症例とも刃物による胸部の自傷行為による外傷で救急搬送された.症例1は66歳女性,胸腹部に多発する刺傷を認め,JCS300,ショックバイタルを呈していた.CTで肝損傷,左内胸動脈損傷の他,左室前壁損傷が疑われたため緊急手術を施行した.左室前壁に心腔に達する損傷を認め,フェルトプレジェットを併用した縫合閉鎖と組織接着剤で修復した.術後1日目には抜管でき,神経学的異常所見も認めなかった.術後11日目のCT検査で冠動脈損傷や仮性瘤の形成は認めず,術後12日目に精神科専門病院へ転院となった.症例2は88歳男性,前胸部に2 cm長の刺傷を認め,CTで急性期出血を疑う心嚢液貯留があり,心臓損傷が疑われた.しかし心腔からの造影剤漏出はなく,意識清明で状態が安定していたことから,心膜損傷と判断して保存的治療を選択した.約12時間後のCT検査で心嚢液はすでに減少していた.その後も再貯留なく経過し,11病日の心臓超音波検査で心嚢液は右室側に少量のみとなった.18病日に精神科専門病院へ転院となった.