著者
小柳 裕子
出版者
日本大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2015-04-01

プロポフォールは今日最もよく用いられている静脈麻酔薬である。近年ヒトにおいて,プロポフォールによる意識消失時に,プロポフォール誘発アルファ波が観察されることが報告されている。しかし、そのアルファ波の発生メカニズムやプロポフォール誘発アルファ波と意識の消失の関連性についてヒトや実験動物における詳細な検証はなされていない。本研究は,ホールセル・パッチクランプ法を用いて,大脳皮質を含む急性脳スライス標本において錐体細胞の発火同期性に対するプロポフォールの影響を詳細に検討し,プロポフォール誘発アルファ波の発生機序をシナプスレベルで解明することにより,プロポフォールを含め種々の麻酔薬の作用機序の核心的な部分を解明することを目的とした。大脳皮質において代表的な抑制性介在ニューロンであるfast-spiking(FS)ニューロンおよびFSニューロンから投射を受ける錐体細胞から同時ホールセル記録を行い,シナプス前細胞に相当するFSニューロンをアルファ周波数帯である10 Hzで発火させている間,シナプス後細胞に相当する2つの錐体細胞の発火タイミングは同期傾向を示した。一方,2つの錐体細胞のうち1つのみFSニューロンからの入力を受ける錐体細胞間では,FSニューロンを先行発火させても発火の同期は見られなかった。また,FSニューロンを1,5,および20 Hzで発火させた場合,シナプス後細胞に相当する2つの錐体細胞の発火同期は10 Hzで発火させた場合と比較して弱かった。以上の結果から大脳皮質は,プロポフォールによりアルファ周波数帯特異的に発火タイミングを調節する局所回路を構成している可能性が示唆された。また,これらの発火タイミング調節に抑制性神経回路が重要な役割を果たしていると考えられた。これらの成果の一部は,北米神経科学会議2015においてポスター発表を行った。
著者
小柳 裕子 小林 真之
出版者
日本大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2018-04-01

プロポフォール誘発性アルファ周波数帯の発生に対する視床-皮質中継ニューロンの寄与を検討した。実験には4週齢のVGAT-Venusラットを用い,イソフルラン吸入麻酔下で側頭部を開頭(直径約1 mm)し,視床後内側腹側核小細胞部(VPMpc)へ到達するためのマイクロシリンジ刺入位置を検討した。インク注入後イソフルラン5%吸入下で断頭し,脳を取り出したのち,マイクロスライサーを用いて急性脳スライス標本を作製し,インク注入部位の確認を行った。その結果,オス・メスともbregmaより-3.6 mm,側方1.1 mm,深さ6.4 mmの位置で5 μL注入した場合にVPMpcに局所注入を行えることが分かった。次に,同様の方法を用いてマイクロシリンジにてpAAV5.CAG.hChR2(H134R)-mCherry.WPRE.SV40をVPMpcに局所注入し,約4週間の回復期間ののち,島皮質を含む急性脳スライス標本を作製し,蛍光観察下で島皮質におけるVPMpcからのニューロン投射を確認した。その結果,島皮質のうち顆粒層から不全顆粒層にかけて,II/III層深部を中心にVPMpcからの投射があることがわかった。さらに,島皮質ニューロンの発火応答に対する視床―皮質入力の影響を検討するため,島皮質錐体細胞からホールセル記録を行い,光刺激によってChR2発現ニューロンのみを特異的に発火させた際の錐体細胞の発火応答を検討した。その結果,錐体細胞はChR2発現VPMpcニューロンからの興奮性入力を強く受けており,VPMpcニューロンの発火に呼応して錐体細胞から活動電位または興奮性シナプス後電位が記録されることが分かった。プロポフォール(10 μM)灌流投与により,光刺激によるVPMpcニューロン活性化に同期した島皮質錐体細胞の律動応答は,仮説に反して変化を示さなかった。